アルバムレビュー:Shadows by Cannons

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発売日: 2019年3月27日
ジャンル: ドリームポップ、シンセポップ、インディーポップ


夜の静けさに揺れるシンセ——都会の夢と孤独を映すモダン・ドリームポップ

ロサンゼルス出身の3人組バンドCannonsによる2作目のアルバム『Shadows』は、ドリームポップとシンセポップを現代的に再解釈した作品である。
タイトルの「Shadows(影)」が示すように、本作は“夜の感情”に深く潜り込むような静かな美しさと、メランコリックな余韻に満ちている。

ヴォーカルのMichelle Joyの囁くような歌声と、メンバーが生み出すシンセとギターの滑らかなレイヤーは、80年代のニューロマンティックやフレンチ・エレクトロの空気を感じさせつつも、あくまで現代的で洗練された響きをもっている。

本作は、Netflixドラマ『Never Have I Ever』などで楽曲が使用されたこともあり、幅広いリスナー層へと届いた。
深夜のドライブや、一人きりの部屋にぴったりの、まさに“影の音楽”とも言える一枚である。


全曲レビュー

1. Baby

アルバムの幕開けを飾るスムースなナンバー。
レトロなビートと夢見心地なヴォーカルが、現実と夢の境界を曖昧にする。

2. Fire for You

Cannons最大のヒット曲にして、本作の核。
恋愛の熱狂と痛みを描いた歌詞と、ミッドテンポのグルーヴィーなサウンドが中毒性を生む。
愛が燃え尽きた後の静けさまでも感じさせる、情熱の残り香のような一曲。

3. Talk Talk

シンセのループとタイトなリズムが印象的なアーバンポップ。
コミュニケーションのズレと不安がテーマになっている。

4. Bad Dream

「悪い夢」というタイトルとは裏腹に、優しく包み込むようなメロディが特徴。
醒めることのない感情のループを歌う、幻想的なラブソング。

5. Shadows

タイトル曲にふさわしく、アルバムのテーマを凝縮したようなミステリアスなナンバー。
音数を絞ったミニマルなアレンジが、影と沈黙のあわいを描き出す。

6. Hurricanes

恋愛の混乱と情熱を「ハリケーン」に例えた比喩的楽曲。
サウンドはアップテンポながら、心の奥底には焦燥が漂う。

7. Evening Star

夜空に浮かぶ星に思いを託すようなメロディが美しい。
感傷的でありながら、どこか救いのあるトーンが印象的。

8. Love Chained

タイトル通り、恋に囚われる感覚を歌ったバラード。
チェーン(鎖)というモチーフが、甘さと痛みの両方を象徴する。

9. Touch

囁くようなヴォーカルと、シンプルなビート。
触れること、触れられないことのもどかしさを歌う親密なラブソング。

10. Talk Talk (Reprise)

3曲目の“Talk Talk”の再演。
よりアンビエント寄りのアレンジが施され、アルバムの終幕を静かに彩る。


総評

『Shadows』は、Cannonsというバンドの美学を明確に定義した一枚である。
それは「静かであること」「甘く切ないこと」「夜の空気に溶け込むこと」という美しさの三原則のようなものであり、90年代トリップホップや80年代シンセウェイヴの感覚を、現代的なポップスへと見事に昇華している。

この作品は、爆発するような感情や派手な展開とは無縁である。
その代わりに、感情の余韻と細やかな揺れにこそ価値を見出すような、静かなリスニング体験を提供してくれる。

都会の深夜に、ヘッドフォンを通して聴くべき一枚。
孤独な時間を、美しいものに変えてくれる音楽が、ここにはある。


おすすめアルバム

  • Chromatics / Kill for Love
    ノワール調のドリームポップ。夜に溶けるようなサウンドがCannonsと共鳴。
  • Beach House / Depression Cherry
    幽玄なシンセと囁き声の世界。内向的な感情に寄り添うドリームポップの金字塔。
  • M83 / Hurry Up, We’re Dreaming
    幻想的なシンセサウンドで構築された壮大なドリームスケープ。
  • The xx / Coexist
    ミニマルで感情を抑えたアレンジが印象的なアーバンポップ。Cannonsの静謐さと近い。
  • Men I Trust / Oncle Jazz
    ジャズ、シンセ、インディーの境界を溶かすようなサウンド。脱力感と親密さが魅力。

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