
楽曲の概要
「Bad Dream」は、ロサンゼルスを拠点とする3人組Cannonsが2021年に発表した楽曲である。Michelle Joy、Ryan Clapham、Paul Davisの3人によって書かれ、後に2022年のアルバム『Fever Dream』へ収録された。2021年にColumbia Recordsから発表されたこの曲は、Cannonsが「Fire for You」の成功を経て、より広いリスナーへ知られていく時期の重要なシングルとなった。
Cannonsらしい柔らかなシンセサイザー、低く滑るベース、細く響くギター、Michelle Joyの息を多く含んだボーカルが中心にある。1980年代のシンセポップやドリーム・ポップを思わせる音だが、単純なレトロ趣味ではない。低音をしっかり効かせながら各楽器の間に広い空間を取り、現代的なダンス・ポップとして整理されている。
歌詞で描かれるのは、気持ちを伝えられないまま好きな相手を失ってしまった人物である。相手が別の人と一緒になってから、自分がどれほど強く思っていたのかを実感する。その現実を「bad dream=悪い夢」と呼び、誰かに目を覚まさせてほしいと願う失恋歌だ。
歌詞の概要
物語は、語り手が好きな相手の出演するショーを見に行く場面から始まる。彼女は客席の後ろに立っているが、相手が自分の存在に気づいたのかは分からない。直接声をかけるでもなく、暗い場所から相手を見ている。
ここで二人の距離がすでに示されている。語り手は相手のすぐ近くまで来ているのに、実際の関係では遠い。言いたいことはあったが、適切な言葉を見つけられず、そのまま時間が過ぎてしまった。
そして気づいたときには、相手はすでに別の誰かと関係を持っている。「今さら遅い」という現実を理解したところから、曲の中心となる「bad dream」の感覚が始まる。
重要なのは、語り手が相手を責めていないことだ。相手が裏切ったとは歌われない。むしろ問題は、自分が気持ちを伝えなかったことにあるように見える。恋愛を失った原因について外へ怒りを向けるのではなく、自分の後悔として抱えている。
そのため「悪い夢」は現実逃避だけではない。「こんな現実は夢であってほしい」という願いと、「自分が何もしなかったからこうなった」という認識が同時にある。眠りから醒めたいと願いながら、実際には醒めた後に待っている現実の方がつらいという矛盾を持った歌詞である。
制作背景・時代背景
CannonsはMichelle Joyがボーカル、Ryan Claphamがギター、Paul Davisがドラムやキーボードなどを担当するロサンゼルスの3人組である。2010年代から自主制作を中心に活動し、シンセポップ、インディー・ポップ、ドリーム・ポップ、ディスコなどを混ぜた滑らかなサウンドを作ってきた。
大きな転機になったのが、2019年のアルバム『Shadows』に収録された「Fire for You」である。同曲が後から広く注目され、CannonsはColumbia Recordsと契約した。「Bad Dream」はその後、2021年3月にColumbiaから発表された新曲であり、メジャー・レーベルとの契約後に送り出された初期の重要作品にあたる。
「Bad Dream」は後に『Shadows (Midnight Edition)』にも加えられ、2022年の『Fever Dream』にも収録された。『Fever Dream』はCannonsの3人自身が作詞・作曲だけでなく、プロデュース、ミックス、マスタリングまで手掛けた作品として発表されている。
この自主的な制作方法はCannonsの音によく表れている。一般的なポップ作品のように楽器を大量に重ねるより、シンセ、ギター、ベース、ドラム、声をそれぞれ限られた場所へ配置する。結果として、音数は少ないのに空間全体が満たされているように聞こえる。
「Bad Dream」はその方法が特に分かりやすい。1980年代を思わせるシンセの色合いを持ちながら、リズムや低音は現代的である。過去の音楽を再現するというより、昔の夜景を現在のカメラで撮り直したようなサウンドになっている。
歌詞の抜粋と和訳
「I been living in a bad dream」
和訳:ずっと悪い夢の中で生きているみたい
この短い言葉が、相手を失った後の語り手の状態をまとめている。単に「悲しい」と言うのではなく、自分の周囲だけが現実ではなくなったような感覚として表現している。
一方で、本当に夢なら醒めれば問題は消える。しかしこの曲では、相手が別の人と一緒になったことは現実である。だから「目を覚ましたい」という願いそのものが、叶わない願いにもなっている。
サウンドと歌詞の考察
「Bad Dream」の特徴は、失恋の歌なのに音が重く沈み込まないことである。曲は静かに始まり、空気のように広がるシンセサイザーの上へMichelle Joyの声が浮かぶ。最初から悲劇的なピアノや大きなストリングスを使って感情を説明することはない。
このシンセの響きには長い残響があり、鳴った音がすぐ消えず後ろへ残る。そのため一つのコードが終わった後にも薄い影のような音が続き、曲全体に夢の中のような感触を与える。
「bad dream」というタイトルを考えると、この音作りはかなり直接的である。ただし恐ろしい悪夢を描くような不協和音ではない。むしろ美しく、気持ちよく聞ける。嫌な夢なのに、その中から簡単には出たくなくなるようなサウンドである。
そこへ入る低音がCannonsらしい。ベースは派手なフレーズを連発せず、丸く太い音で同じグルーヴを繰り返す。シンセが空へ広がるのに対し、ベースは低い場所を横へ滑っていく。
この上下の距離によって曲に広い空間ができる。Michelle Joyの声はその中間に置かれ、楽器に押されることなく聞こえる。
ドラムも強く叩きすぎない。キックは低い位置でしっかり響くが、ロックのように曲を力ずくで前へ押すわけではない。スネアには残響があり、一発叩くたびに少し後ろへ音が広がる。
このビートには1980年代のポップを思わせる部分があるが、テンポや低音の処理はかなり現代的である。昔のシンセポップをそのままコピーするのではなく、低域を深くしてクラブやヘッドフォンでも気持ちよく聞こえるようにしている。
Ryan Claphamのギターも重要だ。大きなコードで曲を覆うのではなく、短いフレーズや薄い音色をところどころへ入れる。ギターが「ロックらしさ」を主張するというより、シンセサイザーとは違う質感の光を加えているように聞こえる。
そのため「Bad Dream」では、どの楽器も一人で主役にならない。ベース、シンセ、ギター、ドラムがそれぞれ限られたことだけを担当し、その中央にMichelle Joyの歌が置かれる。
Joyのボーカルは、この曲の感情を決める最大の要素である。彼女は失恋を歌っているのに声を張り上げない。息を多く含んだ柔らかな声で、かなり近い距離から話しかけるように歌う。
もし同じ歌詞を大きな声で歌えば、「相手を失ったことへの絶望」が中心になるだろう。しかしJoyの歌い方では、悲しみよりもぼんやりした現実感のなさが強くなる。ショックが大きすぎて、まだ感情を完全には理解できていない人物のように聞こえる。
冒頭の歌詞との関係も面白い。語り手はライブ会場の後ろに立ち、好きな相手を遠くから見ている。ボーカルも演奏の一番前へ飛び出すのではなく、残響の中に少し溶けている。そのため「そこにいるのに気づかれない」という歌詞の立場が音にも重なる。
サビでは「bad dream」という言葉が繰り返され、シンセのフレーズもより明確になる。ここで曲は大きく爆発するのではなく、同じ空間を少し明るくする程度に広がる。
この抑え方が重要である。語り手の問題は、今まさに恋人と激しく別れていることではない。別れよりさらに前の段階で、そもそも気持ちを伝えられなかった。そのため感情にも、大きな喧嘩のような出口がない。
何も起こさなかったことへの後悔は、怒りをぶつける相手がいない。だから同じ考えが頭の中を回り続ける。「あのとき言っていれば」「気づいてくれていただろうか」という思考が止まらない。
曲の反復的なグルーヴは、その心理によく合っている。同じベースとビートが循環し、曲は前へ進んでいるのに、感情だけは同じ場所へ戻ってくる。夢の中で同じ場面を何度も繰り返すような感覚である。
タイトルもこの循環を強くする。単に「I Had a Bad Dream」ではなく、「living in a bad dream」と歌うことで、悪夢が一時的な出来事ではなく生活全体を覆っている。
そして語り手は、誰かに自分を起こしてほしいと願う。ここでも自分一人では状態を変えられない。好きな相手へ気持ちを伝えられなかった人物が、失恋した後も自分から抜け出すことができず、外側からの力を待っている。
これは冒頭の行動とも一致している。ショーには行くが、後ろから見ているだけ。気持ちはあるが、言葉にはしない。状況が変わってほしいと思うが、自分から変えることはできない。
つまり「Bad Dream」の歌詞では、受け身であることが最初から最後まで一貫している。そしてサウンドも、強く前進するより同じグルーヴを漂い続ける。この歌詞と演奏の組み合わせによって、Cannons特有の「気持ちよく踊れるのに、少し寂しい」感覚が生まれている。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Fire for You」 by Cannons
Cannonsを広く知らしめた『Shadows』収録曲。丸いベース、薄く広がるシンセ、Michelle Joyの柔らかな歌声という基本的な魅力は「Bad Dream」と共通する。こちらはさらに官能的で、関係の熱が残っている状態を描く。
「Ruthless」 by Cannons
『Fever Dream』収録曲で、「Bad Dream」よりリズムが強く、夜のドライブに似合う速度感がある。滑らかなベースとシンセポップ的な音作りは近いが、ボーカルにはより強い意志が感じられる。
「Hurricane」 by Cannons
同じ『Fever Dream』から、感情の揺れをより大きなサウンドで描いた曲。「Bad Dream」の夢の中を漂うような感覚に対し、こちらは感情そのものに巻き込まれていくような力強さがある。
「Under the Milky Way」 by The Church
夜の空気を思わせる広いギターと、感情を抑えたボーカルを持つ1980年代の代表的な曲。「Bad Dream」と音楽的には異なるが、言葉では説明しきれない喪失感を空間の広いサウンドで表す点に共通するものがある。
「Space Song」 by Beach House
ゆっくり反復するシンセと夢の中のようなボーカルによって、失った関係への感情を漂わせる一曲。「Bad Dream」よりテンポは遅いが、悲しい内容を柔らかく美しい音の中へ溶かす方法が近い。
まとめ
「Bad Dream」は、好きだった相手に気持ちを伝えられないまま機会を失った人物を描いた曲である。相手はすでに別の誰かと一緒にいるため、語り手ができることはほとんど残っていない。その現実を受け入れられず、「これは悪い夢であってほしい」と願っている。
Cannonsはその後悔を、重たい失恋バラードにはしなかった。丸く動くベース、一定したドラム、薄く広がるシンセとギター、Michelle Joyの息を含んだ歌声によって、身体を揺らせるほど滑らかな曲にしている。その気持ちよさと歌詞の寂しさの差が大きな特徴だ。
さらに、歌詞の人物が同じ後悔から抜け出せないことと、演奏が同じグルーヴを循環し続けることも結びついている。前へ進んでいるようで、感情だけはあのライブ会場の後ろの列に残ったまま。「Bad Dream」は、言えなかった一言が後から大きくなっていく感覚を、Cannonsらしい夜のシンセポップへ変えた一曲である。
参照元
- Sony Music Canada「CANNONS RELEASE NEW SONG “BAD DREAM”」 Sony Music Canada
- Sony Music Canada「CANNONS SHARE ELECTRIFYING NEW ALBUM FEVER DREAM」 Sony Music Canada
- Cannons公式サイト Cannons | Official Site
- Apple Music『Shadows』 Apple Music – Web Player
- Spotify「Bad Dream」

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