発売日: 1976年2月21日
ジャンル: ハードロック、ブルースロック、アリーナロック
群れとともに走れ——バッド・カンパニー、孤高から連帯へ
Bad Companyが1976年に放った3枚目のアルバムRun with the Packは、それまでの作品に比べてよりバンドとしての結束と集団性を強調した一枚である。
タイトルが示す通り、“群れと走る”こと、つまり孤独なアウトローから、信頼できる仲間との一体感へと軸足を移しつつあるように感じられる。
前2作の名盤に比べるとやや評価は控えめではあるが、その分肩の力が抜け、円熟味を帯びた演奏と、楽曲の幅の広さが際立つ。
Paul Rodgersのヴォーカルも、力強さと柔らかさのバランスを巧みに操り、ブルース、ソウル、ロックンロールを自在に横断している。
全曲レビュー
1. Live for the Music
ピアノのリフと分厚いギターが絡み合うロックナンバー。
「音楽のために生きる」というシンプルで熱いメッセージが、軽快なグルーヴに乗せて響く。
ライブのオープニングにも相応しい一曲。
2. Simple Man
孤独な男の自己語りを描いた、ミドルテンポのブルースロック。
Rodgersのソウルフルな歌声がじわじわと沁みてくる。
“複雑な時代にシンプルであること”の誇りを感じさせる。
3. Honey Child
ストレートなロックンロールで、どこかローリング・ストーンズ的な軽やかさを持つ。
セクシャルで陽気なナンバーながら、音のタイトさがバンドの成熟を物語る。
4. Love Me Somebody
優しいピアノのイントロから始まる、内省的なバラード。
愛への渇望を率直に歌うRodgersのヴォーカルが、とことん真っ直ぐで胸を打つ。
バンドの柔らかな一面が覗ける一曲。
5. Run with the Pack
アルバムタイトル曲にして、鍵となる楽曲。
ミッドテンポのロッカバラード調で、孤独を受け入れながらも、仲間と走る決意を滲ませる。
アンサンブルの隙間を活かしたアレンジが見事。
6. Silver, Blue & Gold
本作屈指の美曲で、ファン人気も高い。
美しいメロディと繊細なコーラス、歌詞に込められた喪失感と希望。
シングルカットはされなかったが、今なお多くのリスナーに愛される“隠れた名バラード”。
7. Young Blood
The Coastersの1957年ヒット曲のカバー。
ロカビリー風のポップな仕上がりで、アルバム中でも異彩を放つ。
BTOの渋いロックサウンドの中に、遊び心がのぞくアクセント的な一曲。
8. Do Right by Your Woman
アコースティックな響きを活かした、穏やかなラブソング。
ブルース・トラディションに根ざした誠実な語り口が魅力で、バンドの包容力を感じさせる。
9. Sweet Lil’ Sister
ギターの歪みが効いた、やや荒々しいロックナンバー。
若さへの羨望やノスタルジーが込められており、勢いと余韻が共存する。
10. Fade Away
静かに幕を閉じるラストナンバー。
人生の終わり、関係の終焉、あるいは時代の移ろい。
様々な“消失”を暗示するような余韻を残しつつ、そっとアルバムが閉じられる。
総評
Run with the Packは、バッド・カンパニーが絶頂期を迎えた中で、自らの歩みに一呼吸を入れたような、バランス感覚に優れたアルバムである。
ロックの力強さだけでなく、優しさや脆さも織り込まれたことで、彼らの表現はより立体的になった。
音楽的にも、ブルースロックからピアノバラード、ロカビリーまで幅広く展開されており、それでいて統一感を損なわない。
それは、Paul Rodgersという稀代のシンガーの存在感と、バンドの職人的演奏力があってこそ成し得たものだ。
前作までの“孤高のロックンロール”から、“共に走る音楽”へのシフト。
その一歩が、確かにここに刻まれている。
おすすめアルバム
- Rod Stewart – Atlantic Crossing
ブルースとバラードが共存する、70年代ミドルテンポ・ロックの代表作。Rodgersとの共鳴点も多い。 - The Rolling Stones – Sticky Fingers
タフなロックと繊細なバラードが同居する構成が共通。英ロックの骨格を知るうえで必聴。 - Paul Rodgers – Cut Loose
後年のソロ作。Run with the Packの延長線にあるような穏やかなロックが聴ける。 - Eagles – On the Border
アコースティックな質感とバンドの調和が光る。“群れと走る”テーマとの親和性も高い。 - Free – Free at Last
よりスピリチュアルで内省的な作品。Rodgersの原点を辿る旅として聴いてほしい。
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