1. 歌詞の概要
「Run(ラン)」は、Collective Soulが1999年にリリースした4作目のスタジオ・アルバム『Dosage』に収録された珠玉のバラードであり、アルバムからのサードシングルとしても高く評価された楽曲である。荒々しく歪んだギターリフで幕を開ける他のトラックとは異なり、「Run」は内省的で穏やか、そして美しく揺れる感情の波を描いた静かな叙情詩である。
タイトルにある「Run」という言葉は直訳すれば「走る」だが、この楽曲ではより深く抽象的な意味を持っており、時間の流れ、人生の旅、そして過ぎ去るものへの追憶と執着が込められている。明確なストーリーは語られないものの、歌詞全体からは**“止まって見つめること”への希求**が感じられ、どこかメランコリックで瞑想的な雰囲気が楽曲全体を包んでいる。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Run」は、映画『メジャーリーグ3』の主題歌としても使用されており、スポーツ映画における“希望と挫折”“時間と成長”というテーマと非常に相性が良い楽曲でもある。しかし、この曲の本質はより普遍的であり、フロントマンのエド・ローランド(Ed Roland)が語るように、**「人生という名のマラソンにおいて、どこで立ち止まり、どこで走り続けるべきかを問う曲」**なのだという。
『Dosage』というアルバム自体が、これまでのグランジ的荒々しさからより洗練されたサウンドへと移行する過渡期にあたる中で、「Run」はその音楽的・精神的成熟を象徴する楽曲となっている。浮遊感のあるギター、透明感のあるボーカル、繰り返されるサビのメロディ。いずれも、時が止まったような内的世界を描き出す。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Run」の印象的な歌詞を抜粋し、英語と日本語訳を併記する(出典:Genius Lyrics):
Are these times contagious?
I’ve never been this bored before
「この時間は伝染するのか?
こんな退屈を感じたのは初めてだ」
Is this the prize I’ve waited for?
「これが僕がずっと待っていた“報酬”だったのか?」
And so we run
Towards the end of the day
Til it runs away
「だから僕らは走る
一日の終わりに向かって
でもそれもまた逃げていく」
この歌詞に描かれているのは、意味を見失った日常と、それでも何かを探し続けようとする人間の姿である。走ることで追いつけると思っていた“何か”は、結局また走ってどこかへ行ってしまう。その繰り返しの中に、人生の儚さと美しさが感じられる。
4. 歌詞の考察
「Run」の真の魅力は、そのシンプルさの中に広がる深淵なテーマ性にある。この曲は、「走る」という行動そのものではなく、“なぜ走るのか” “どこへ向かっているのか”という問いかけを投げかけてくる。
多くの人が、目標に向かって“走り続けること”を美徳とし、途中で立ち止まることを“敗北”とみなす。しかしこの曲では、むしろ走ること自体が虚無的で、本当に必要なのは「走り続ける理由」を自分の中に見出すことであると語っているように聞こえる。
また、「Run」は喪失の歌でもある。繰り返される日々の中で、ふと感じる虚しさ、無力感、そしてそれでもやってくる明日。そのサイクルの中にある感情の停滞と流転の美学を、この楽曲は驚くほど静かに、そして鮮明に描いている。
音楽的にも、この曲の構成は見事だ。アコースティックギターを中心とした静謐なアレンジと、徐々に広がるサウンドスケープ。楽曲の中盤から後半にかけて感情が静かに高まっていくその展開は、心の中の波紋のようにゆっくりと広がっていく情緒を象徴している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Drive by Incubus
不安や衝動に向き合いながら、舵を自分で取ろうとする決意を描いた名曲。 - Black by Pearl Jam
喪失と愛の残響を詩的に綴ったグランジのバラード。 - Colorblind by Counting Crows
言葉では説明できない内面の沈黙を、静かな旋律に包み込んだ名作。 - Let Down by Radiohead
感情の重みと疎外感を、透明なサウンドで浮遊させた哀しい浮遊曲。 - The World I Know by Collective Soul
社会の現実と自己の迷いを詩的に重ね合わせた、内省的な兄弟曲のような存在。
6. “走りながら、立ち止まることを考える歌”
「Run」は、単なる移動の動詞ではなく、現代人の精神状態そのものを表す比喩として描かれている。走っても走っても追いつけないものがあるとき、それでも人は走る。そして、あるとき立ち止まり、空を見上げる——そんな瞬間のために、この曲は存在しているのだ。
誰もが「走らなければ」と思いながらも、本当はどこかで立ち止まりたいと願っている。Collective Soulは、その矛盾を否定せずに、そっと受け入れてくれる音楽をこの曲に込めた。「Run」は、あなたの疲れた心に寄り添い、「走り続けるのがすべてじゃない」と優しくささやいてくれる、静かな祈りのような楽曲である。
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