イントロダクション
潮風に乗ってくるようなジェンガリー・ギターと、とろけるファルセット。
Royel Otis はシドニーの幼なじみ――ロイヤル・マデールとオーティス・パヴロヴィッチ――が結成した二人組である。
2010 年代後半から宅録デモを SoundCloud に断続的に投下し、2023 年の EP『Sofa Kings』でようやく正式デビュー。
ビーチ・ボーイズ譲りの甘いハーモニーと、MGMT 以降のベッドルーム・サイケがゆるやかに交差し、コロナ禍で荒れた日常に“昼下がりの白昼夢”を差し込む存在として注目を集めた。
バンドの背景と歴史
二人はシドニー東部ボンダイの高校で出会い、放課後はジャムセッション、休日はレトロシンセの回路を改造して遊ぶ日々を送っていた。
大学進学を機に一度離れたが、2020 年のロックダウン下でオンライン共有したデモ「Without U」がバイラルとなり“曲を完成させよう”と再合流。
わずか数か月で自主 EP『Campus』を完成させ、オーストラリア公共放送 Triple J の新人枠で取り上げられる。
その勢いのまま 2023 年 3 月発表の『Sofa Kings』は、淡いガレージ・サーフとドリームポップの中間を射抜くサウンドでローカル・インディーチャート首位を獲得した。
2024 年末にはファースト・アルバム『Pratts & Pain』を発表予定と公言し、アジア・北米を含むワールドツアーを準備中である。
音楽スタイルと影響
Royel Otis の楽曲は、120 BPM 前後のゆったりした4つ打ちを軸に、リヴァーブ深めのジャングリー・ギターとウィスパー系ボーカルがレイヤーを成す。
コード進行は1960 年代ブリティッシュ・インヴェイジョンの甘酸っぱさを感じさせつつ、サビ頭でナインスやサスを差し込み、夢心地の浮遊感を演出。
影響源として二人が挙げるのは、Treble Spankers 期の Mac DeMarco、Real Estate のペダル感覚、そして Todd Rundgren のメロディ職人芸。
サーフロックの潮気とベッドルームポップの私密さが溶け合い、聴き手を光のヴェールで包み込む。
代表曲の解説
- “Bus Stop”
2分半の小曲。軽快なハンドクラップと裏打ちギターの上で、失われた待ち合わせを回想する。
ドラムが突然倍速になる終盤、ギターがオクターブ上へ跳ね上がる瞬間に胸が高鳴る。 - “Sofa Kings”
EP 表題曲。タイトルは“王様のようにソファへ沈む怠惰”の意味。
ループするシンセアルペジオと息継ぎの多いリズムギターが無重力空間を生み、サビでは多重コーラスがゆっくりと開花。 - “Heading for the Door”
新作アルバムからの先行シングル。セブンスコードの響きが西海岸 AOR を思わせ、軽やかなサックスソロが夕焼けを彩る。
歌詞は“出入り口のない出口”を探す心象を描き、甘い音像にほろ苦さを忍ばせる。
作品ごとの進化
年 | タイトル | 特徴 |
---|---|---|
2021 | Campus EP | カセットMTR録音。ホワイトノイズを残したローファイ質感で“寮生活の夢想”を描写 |
2023 | Sofa Kings EP | スタジオ録音へ移行。テープサチュレーションとステレオ幅の広がりでサーフ味が濃厚に |
2024 | Pratts & Pain (予定) | トラップ寄りの808やストリングスを導入し、日常と幻想を交差させる“室内サイケ映画”を目指す |
影響を受けたアーティストと音楽
The Beach Boys のハーモニー、MGMT のサイケポップ解釈、Tame Impala のソフトロック遺伝子、King Krule のジャズコード進行。
そこへシドニーのインディーシーンが愛するドリームサーフの潮騒を注ぎ、柔らかな“塩キャラメル”のごとき音像が生まれている。
与えた影響とシーンへの波及
2023 年以降、オーストラリア東海岸の若手がこぞって“ビーチ+ベッドルーム”のタグを掲げ、Royel Otis を参照点とするムーブメントが拡大。
また、韓国や日本のシティポップ系プレイリストでも彼らの曲が常連となり、アジアのインディー勢とのコラボが進行中。
オリジナル要素
- 布団リバーブ・レコーディング
ボーカルブースの代わりにベッドに毛布をかぶせ、その中で録音して丸みを帯びた中域を獲得。 -
リアルタイム・デモ公開
作曲初期段階のメモを Patreon で週次公開し、ファンがアレンジ案をコメントできる“共同育成”方式を導入。 -
DIY フロート・フェス
シドニー郊外のプールにエアマット舞台を浮かべ、観客も水上で漂いながら聴くギグを主催。心地よい揺らぎが音楽と同調する体験として話題に。
まとめ
Royel Otis のサウンドは、午後三時のまどろみと海辺の光を瓶に詰めたような優しいきらめきを放つ。
現実の輪郭を少しだけぼかし、甘く湿った風を運ぶメロディは、疲れた心を撫でるとともに、小さな冒険へ誘う。
彼らが次作『Pratts & Pain』でどんな“痛みと夢想の交差点”を描くのか、その穏やかな潮騒に耳を澄ませながら待ちたい。
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