
1. 歌詞の概要
「Rome Wasn’t Built in a Day」は、Morcheebaが2000年に発表した3枚目のスタジオ・アルバム『Fragments of Freedom』に収録された楽曲であり、彼らのキャリアの中でも最も明るく、ポジティブなメッセージを前面に押し出したヒット曲である。タイトルにある「ローマは一日にして成らず」ということわざをそのまま用いたこの曲は、時間をかけてゆっくりと積み上げていくことの価値や、焦らず一歩ずつ進むことの大切さを、軽快なリズムとともに伝えている。
全体として非常にキャッチーで耳に残るメロディーと、スカイ・エドワーズの親しみやすい歌声が特徴的であり、Morcheebaの作品の中でも特にポップに寄ったサウンドを持つ。この「軽やかさ」は、彼らの初期に見られた深い陰影やミステリアスな質感とは異なり、よりリスナーに寄り添う“日常のための音楽”として機能している。
歌詞の内容も、困難に直面した時の心のあり方や、人間関係においての忍耐、変化に向けた柔軟性など、誰しもが経験する感情をポジティブに昇華するようなトーンで描かれている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Morcheebaにとって『Fragments of Freedom』は、トリップホップというジャンルのイメージから距離を置き、より自由で開かれたポップ・サウンドへと舵を切った作品である。前作『Big Calm』ではまだ影と静寂のバランスが取られていたが、本作では意図的に陽性のメッセージや、レゲエ、ファンク、R&Bといった多彩な音楽的要素を取り込んでいる。
「Rome Wasn’t Built in a Day」はその象徴とも言える楽曲で、これまでの暗く耽美的な世界観から一転し、日差しのように明るくポジティブな空気が広がる。とはいえ、単なるポップソングではなく、そこにはMorcheebaらしい知性と抑制、そして“楽観のリアリズム”が込められている。
この楽曲が人気を博した背景には、90年代の終わりから2000年代初頭にかけての音楽シーンの変化もある。デジタルとグローバル化が進む中で、人々は“チルアウト”や“スマートな癒し”を求めていた。その流れの中で、この曲のように軽快でありながら芯のある作品は、多くの人々の心に響いたのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Rome wasn’t built in a day
ローマは一日にして成らず
このタイトルにもなっていることわざが、曲全体のメッセージを象徴している。すぐに結果を求めず、着実に歩むことの重要性を静かに教えてくれる。
It’s not the way you smile that touches my heart
心を動かすのは君の笑顔じゃないIt’s not the way you kiss that tears me apart
君のキスが胸を裂くわけじゃない
このラインは、表面的な魅力ではなく、もっと本質的な「何か」によって心が動くということを示唆している。愛情とは、見えない深さの上に築かれるものなのだという含蓄を感じさせる。
Many things in life are hard to find
人生にはなかなか見つからないものも多いBut I can’t seem to get you off my mind
でも、君のことだけは頭から離れないんだ
ここには、恋愛における執着や心の居場所を探す切なさと、同時にそれを乗り越えて進もうとする姿勢がある。
※歌詞引用元:Genius – Rome Wasn’t Built in a Day Lyrics
4. 歌詞の考察
「Rome Wasn’t Built in a Day」の歌詞は、人生や恋愛、自己実現における“時間”の重要性を優しく説いている。現代社会において、即効性や即時的な結果が求められる風潮の中で、この曲は“じっくりと育てる”ことの価値を再認識させてくれる。
恋愛や人間関係の描写にしても、決して情熱的ではないが、深く、穏やかで、信頼に満ちている。スカイ・エドワーズのヴォーカルは、感情を過剰に演出せず、リスナーが自分自身の感情と重ね合わせる余白を残しているのが印象的だ。
また、“Rome”という象徴の使い方も巧みである。それは歴史の重みや文化的蓄積を感じさせるだけでなく、「今すぐには見えないけれど、確かに積み上がっているものがある」という希望をもたらしてくれる。目に見えない成長や関係性を信じるという態度が、この曲の核心なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Sunshine by Gabrielle
前向きな恋心と希望を優しく語りかけるソウルフルな一曲。 - Put Your Records On by Corinne Bailey Rae
ゆるやかな日常の中で自己肯定感を取り戻す、軽やかなヒーリング・ポップ。 - Can’t Get You Out of My Head by Kylie Minogue
執着と愛が同居する感情をシンプルな言葉で描き出したヒット作。 - Destiny by Zero 7 feat. Sia
静かな哀しみと癒しの狭間を漂う、感情の温度が心地よい名曲。 - Come Away With Me by Norah Jones
遠くへ連れて行ってほしいという優しい願いが、現実の疲れを溶かしてくれる。
6. 時間が育むものの美しさ
「Rome Wasn’t Built in a Day」は、Morcheebaの中でも最も“ポジティブ”な響きを持つ曲であり、同時に“焦らない勇気”をくれる稀有な作品である。サウンドも歌詞も決して押しつけがましくはなく、ただ静かに寄り添いながら、心に一滴ずつ希望を注いでくれる。
人生におけるあらゆること——愛、信頼、夢、回復——それらはすべて、時間という土壌の上にこそ芽吹くものなのだという真理を、この曲はさりげなく教えてくれる。忙しく、騒がしい日々の中で、ふと立ち止まったときに聴きたくなるような一曲。
それはまるで、目には見えなくても確実に根を張っている花のような存在。やがてそれが咲くとき、私たちは“焦らずにいてよかった”と思えるのかもしれない。Morcheebaの「Rome Wasn’t Built in a Day」は、そんな未来への微かな希望を託された、静かな賛歌なのである。
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