1. 歌詞の概要
「Rocks」は、Primal Screamが1994年に発表したアルバム『Give Out But Don’t Give Up』のリードシングルとしてリリースされた、同バンドのキャリアにおいて最もストレートかつ奔放なロックンロール・アンセムである。
この曲の歌詞は一見すると単純で、セックス、ドラッグ、自由奔放なライフスタイル、そしてロックンロールそのものを祝福するような奔放な言葉が並ぶ。しかしその背後には、都会的な退廃、若者文化の衝動、そして抑圧された社会規範への反抗という90年代的なテーマが、エネルギーとして込められている。
「Get your rocks off(ロックしろ/発散しろ)」というフレーズを中心に展開するこの曲は、欲望の解放と官能の肯定を、ソウルフルなグルーヴとギター・リフで押し切る荒々しい祝祭。意味を求めるのではなく、“感じろ”と迫る衝動の歌として機能している。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Rocks」は、Primal Screamが前作『Screamadelica』(1991年)で築いたサイケデリック・ダンス・ミュージックから一転し、アメリカ南部のルーツ・ロックやストーンズ的なR&B志向を打ち出した作品『Give Out But Don’t Give Up』の象徴的楽曲である。
プロデュースにはTom DowdとThe Muscle Shoals Rhythm Sectionという本場アメリカ南部のレジェンドたちを迎え、イギリスのオルタナティブ・バンドであるPrimal Screamが、本気で“黒いグルーヴ”に挑んだ結果としてこの曲は生まれた。Mick JaggerやRod Stewartを彷彿とさせるBobby Gillespieのヴォーカル、Keith Richardsを思わせるリフの応酬は、1960〜70年代のストーンズ的ブルース・ロックへの敬愛を現代的に再構築したものでもある。
リリース当時、この曲はUKチャートで7位を記録し、Primal Screamの中でも最も商業的成功を収めたシングルの一つとなった。また、ミュージックビデオでは、メンバーが爆音と酒にまみれたライブを繰り広げる姿が描かれ、そのライヴァルで退廃的なロックンロールの姿勢が、若者たちを強く惹きつけた。
3. 歌詞の抜粋と和訳
“Dealers keep dealin’, thieves keep thievin’”
売人は売り続ける 泥棒は盗み続ける
“Whores keep whorin’, junkies keep scorin’”
娼婦は商売を続け ジャンキーはハイを求める
“Trade your soul for the new gold”
魂を売って 新しい金(権力/刺激)を手に入れる
“Get your rocks off, get your rocks off, honey”
快楽を掴め 心のままにぶちまけろ ハニー
“Shake it now, now, now”
今すぐ身体を揺らせ
歌詞引用元:Genius – Primal Scream “Rocks”
4. 歌詞の考察
「Rocks」の歌詞には、道徳や正しさを吹き飛ばすようなダーティな魅力が満ちている。街角の売人、ジャンキー、売春婦——そうした“社会の片隅に追いやられた存在”たちがここでは主人公であり、彼らが欲望をむき出しにして生きる様が“祝祭”として描かれる。
これは、単なる退廃礼賛ではなく、“規範に従うことが善”とされる社会に対する強烈なアンチテーゼだと言える。つまり、行儀よくしても報われない社会において、“ロックンロール”という名の衝動こそが、最後に残された純粋な自由なのだと。
特に「Get your rocks off」という繰り返しは、セックス・ドラッグ・音楽といった身体的な快楽の象徴でありながら、**同時に“自分の生を生きろ”という隠喩としても機能している。**それは、快楽主義に見せかけた、意志の宣言なのだ。
サウンドの荒々しさ、ヴォーカルのだみ声、重たいリズム——すべてがこの“野生の肯定”というテーマを体現しており、理性や美学ではなく、汗と欲望で鳴らされるロックの極致がここにある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Honky Tonk Women by The Rolling Stones
ブルースとカントリーの境界で揺れる、女と酒の物語。Rocksの直接的ルーツ。 - Lust for Life by Iggy Pop
破壊的なエネルギーをポップに昇華した、ロックンロールの永遠の賛歌。 - Are You Gonna Go My Way by Lenny Kravitz
サイケとファンクをブレンドしながら、セクシャルで神秘的なエネルギーを放つロックナンバー。 - Kick Out the Jams by MC5
革命と音楽を直結させた、70年代初頭の原始的ロックの叫び。
6. “ロックンロールは、欲望とともに生き延びる”
「Rocks」は、Primal Screamがロックンロールの原初的な衝動に正面から向き合った一曲であり、ポストモダン化する音楽シーンの中で、あえて“ストレートな肉体性”を前面に出した快作である。
それはもはや、“古臭いロック”の焼き直しではない。むしろ、無数の情報、文化的コーティングに覆われた90年代の若者たちに対して、「感じろ、叫べ、揺らせ」というシンプルな命令を突きつけるラディカルな行動であった。
「Rocks」は、洗練でも知性でもない、“汗”と“肉体”と“衝動”で突き進む、Primal Screamのロックンロール宣言である。踊れ、叫べ、快楽を選べ——理屈じゃない、生きてる実感を、今すぐに。
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