1. 歌詞の概要
「Rocket」は、Def Leppardが1987年にリリースしたアルバム『Hysteria』に収録され、1989年にシングルカットされた楽曲である。タイトルの通り「ロケット」が象徴するのは推進力とエネルギーであり、それを音楽やバンド自身の姿勢に重ね合わせている。歌詞は単なる恋愛の歌ではなく、音楽そのものへの賛美、そしてロックの持つ爆発的な力を表現しているのが特徴だ。
曲中には「Jack Flash」「Bennie and the Jets」「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」「Satellite of Love」など、過去のロック/ポップ・ミュージックの名曲やアーティスト名が多数引用されており、Def Leppardにとっての音楽的DNAを明かすような役割を果たしている。つまり「Rocket」とは、単なる推進力のメタファーに留まらず、自らが影響を受けた音楽の歴史を背負って未来へ飛び立つバンドの宣言なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Hysteria』は、Def Leppardが世界的な成功を収めたアルバムであり、全米No.1を記録し、7曲のシングルをチャートインさせたモンスター作である。「Rocket」はアルバムの終盤に配置され、アルバム全体の集大成のようなエネルギーを持った曲となっている。
制作においては、プロデューサーのロバート・ジョン・“マット”・ラングの実験的なアプローチが光っている。多層的なボーカル・ハーモニー、サンプリング、リズムの加工などが駆使され、当時のハードロックの枠を超える音響的実験が行われた。その結果、「Rocket」は従来のハードロック的ギターリフに頼らず、リズムとサウンドの塊で聴かせる異色の楽曲となった。
シングルとしては1989年にリリースされ、全米12位、全英15位を記録。アルバムの最終盤のシングルながら大きな成功を収めたことは、この曲のインパクトの強さを物語っている。またライブでは観客のシンガロングを誘発する曲として定番化し、アリーナ・ロックの象徴的存在となった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
(歌詞引用元:Def Leppard – Rocket Lyrics | Genius)
Rocket, yeah
ロケットよ
Satellite of love
愛の衛星
Rocket, yeah
ロケットよ
Sgt. Pepper and the band
サージェント・ペパーズとそのバンド
Jack Flash, Rocket man
ジャック・フラッシュ、ロケット・マン
Shootin’ star, in the sky
流れ星が空に走る
Rocket, yeah (satellite of love)
ロケットよ(愛の衛星)
これらのフレーズに散りばめられた固有名詞や引用は、ロックの歴史を織り込みながらDef Leppard自身のエネルギーを「ロケット」に重ね合わせたものだ。
4. 歌詞の考察
「Rocket」は、Def Leppardの楽曲の中でも特にメタ的で自己言及的な作品である。歌詞に登場するのは、ローリング・ストーンズ(「Jumpin’ Jack Flash」)、エルトン・ジョン(「Rocket Man」「Bennie and the Jets」)、ビートルズ(「Sgt. Pepper’s」)、ルー・リード(「Satellite of Love」)など、彼らが影響を受けたアーティストや楽曲群である。これは単なるオマージュではなく、「俺たちはこの音楽の歴史の中に立っている」という自己確認であり、同時に「その力で未来へ飛ぶ」という宣言にもなっている。
また、「Rocket」という比喩には二重の意味が込められている。一方でそれはセクシュアルな暗喩として読めるが、もう一方で「音楽の推進力」「バンドのエネルギー」を象徴するものである。つまり、この曲は享楽的でありながらも、バンドの自負とロック史への敬意を兼ね備えたアンセムなのである。
音楽的にも、この曲はDef Leppardの革新性を象徴している。リフ主体ではなく、リズムとプロダクションで推進力を作り出す手法は、当時のハードロックとしては異例だった。メタリカやガンズ・アンド・ローゼズのような直線的なハードロックとは一線を画し、Def Leppardが「アリーナ・ロックとポップ感覚を融合させた先駆者」であることを示す作品になっている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Pour Some Sugar on Me by Def Leppard
同じ『Hysteria』収録。祝祭的でエネルギッシュなアンセム。 - Animal by Def Leppard
本能的な衝動を描いた同アルバム収録曲。キャッチーで爆発力がある。 - Armageddon It by Def Leppard
ユーモアと享楽を融合させた同アルバムの人気曲。観客とのコール&レスポンスも共通。 - Panama by Van Halen
享楽的なドライヴィング・ロックで、「Rocket」のスピード感と通じる。 - Born to Run by Bruce Springsteen
ロックで未来へ飛び立つイメージを共有するクラシック。
6. 「Rocket」が象徴するもの
「Rocket」は、『Hysteria』というアルバムの総決算であり、Def Leppardが80年代後半のロックシーンにおいてどのような位置を占めていたかを示す重要な曲である。ロックの歴史を引用しながら、自らをその延長線上に位置づけ、未来へ突き進むバンドの姿勢を鮮烈に示している。
ライブにおいて観客と一体になって「Rocket!」と叫ぶ瞬間は、バンドとリスナーがともに「ロックの力で未来へ突き進む」感覚を共有する儀式のようなものだ。結果として「Rocket」は、Def Leppardが単なるハードロック・バンドではなく、時代を超えるロックの担い手であることを証明するアンセムとして今なお輝き続けている。
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