発売日: 1971年3月**
ジャンル: ハードロック、ブルースロック、ブギーロック、スワンプ・ロック
ロックが“唸り声”を上げた夜——Humble Pieのグルーヴはここから本気を出す
『Rock On』は、Humble Pieにとって4作目のスタジオ・アルバムであり、
彼らのサウンドが完全に“ブギー・ロック”へと変貌を遂げた節目の作品である。
スティーヴ・マリオットとピーター・フランプトンのツインギター＆ヴォーカルが成熟し、
そこに元ファミリーのベーシストグレッグ・リドリーと、後にザ・フーでも暴れるジェリー・シャーリーの強靭なリズムが絡む。
前作までのアコースティックな叙情性は影を潜め、
代わりに登場したのは、汗と土と酒の匂いがする、肉体的なロックンロールだった。
なお本作は、フランプトンがHumble Pieを脱退する前の最後のスタジオ作品でもあり、
その意味でも「過渡期の到達点」という二重の重みを持つアルバムとなっている。
全曲レビュー
1. Shine On
ピーター・フランプトン作の美しいソウル・ロック・ナンバー。
ファルセットを交えたメロウなヴォーカルと、グルーヴ感あるギター。
本作唯一の“光”のような楽曲であり、彼の個性を焼き付けた別れの歌のようでもある。
2. Sour Grain
マリオットとフランプトンの共作。
ヘヴィなリフとコール＆レスポンスで展開する、代表的なブギー・チューン。
ステージ上での爆発を予感させるナンバーで、ライヴ版との比較も面白い。
3. 79th and Sunset
ザ・フーばりのバッキングと、ファンキーなブラスが絡む荒々しい一曲。
都市の喧騒と夜の匂いを詰め込んだような、パンキッシュなエネルギーが横溢する。
4. Stone Cold Fever
アルバム中もっともハードなナンバーのひとつ。
スライドギターとグルーヴィなドラムが、“熱病のようなロック”を体現。
Humble Pieのライヴでの定番曲として長く愛された。
5. Rollin’ Stone
マディ・ウォーターズのブルースを10分超のジャム形式で再構築。
スワンプ・ロック化したブルースの粘りと爆発力が共存する名演。
フランプトンのギターが生々しくうねる。
6. A Song for Jenny
ミディアムテンポのバラード。
フランプトンらしい繊細さと哀愁が染み込んだラブソングであり、
ハードな流れの中に置かれた一輪の花のような存在。
7. The Light
リズミカルなロックンロール。
ピアノが前面に出ており、マリオットのルーツであるR&Bの要素が色濃く表れる。
8. Big George
ブルースファンク風のグルーヴに乗せて、巨大な“ジョージ”というキャラクターを描くユーモラスな小品。
バンドの遊び心がうかがえるが、リズムセクションのキレは抜群。
9. Strange Days
スローで哀感に満ちたクロージング・トラック。
タイトル通り、“奇妙な日々”への静かな観察と諦念が、
泥臭いメロディに託される。
総評
『Rock On』は、Humble Pieがスタジオで最大限“ライヴの迫力”を焼き付けようとした最初の本気作である。
ここにはもはやジャンルの境界はない。ブルース、ロックンロール、ソウル、ファンク、アメリカーナ……
すべてを呑み込みながら、“Groove”という言葉で一体化した音楽が鳴っている。
ピーター・フランプトンの美意識と、スティーヴ・マリオットの土臭い魂が、
最後に交差したアルバムとしても特別な意味を持ち、
次作『Performance: Rockin’ the Fillmore』というライヴ名盤への序章として位置づけられる。
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