発売日: 1971年2月
ジャンル: プログレッシブロック、ハードロック、アートロック
霊感と筋力の交錯点——Argentが描いた“理性と熱狂”の輪舞曲
『Ring of Hands』は、英国のロックバンドArgentが1971年に発表した2作目のアルバムであり、前作のバロック的抒情とハードな演奏のバランスをさらに深化させた“知的な熱”を孕んだ作品である。
The Zombies時代から継承されるロッド・アージェントの鍵盤による構築美に加えて、ラス・バラードによる力強く情感豊かなヴォーカル/ギターが、より前面に押し出されている。
“手の輪”というタイトルは、バンドの結束やスピリチュアルな共鳴を暗示する象徴的な表現であり、アルバム全体にも“人と人の接触=音楽による連帯”というテーマが静かに流れている。
音楽的には、ブルージーな重厚感とプログレ的な構成美、そしてキャッチーなメロディが複雑に交錯し、70年代初頭の英国ロックの多様性を体現する好例といえる。
全曲レビュー
1. Celebration
開幕を飾るのは、グルーヴィーかつエネルギッシュな祝祭ロック。
アージェントのハモンドオルガンが熱く唸り、バラードの高揚感とロックの躍動感が共存する構成。
2. Sweet Mary
スワンピーでブルージーなナンバー。
バラード調のメロディにバラードらしからぬダイナミズムが注入されており、アメリカ南部の匂いと英国的叙情が交差する一曲。
3. Cast Your Spell Uranus
幻想的なタイトルにふさわしく、宇宙的な広がりを持ったシンフォニック・ロック。
変拍子と緻密な転調が多用され、Argentのプログレ志向が最も強く表れている楽曲である。
4. Lothlorien
トールキンの『指輪物語』から着想を得たインストゥルメンタル・トラック。
神秘的で静謐な構成の中に、クラシカルな構造美と幻想性が溶け合う。ピアノとオルガンの掛け合いは聴き応え抜群。
5. Chained
ブルースとゴスペルの要素が濃厚なソウルフルなミディアム・ナンバー。
“繋がれた”というタイトル通り、もがきと欲望が交錯するような重たい雰囲気が印象的。
6. Rejoice
複雑なリズム構成と多層的なコーラスが交錯する、知的かつスピリチュアルなロック曲。
Argentの音楽性が最もバンドとしての完成度に達した瞬間ともいえる。
7. Pleasure
甘くなりすぎないバラードで、ヴォーカルの情感とアコースティックなサウンドのバランス感覚が光る。
一見シンプルな構成だが、細部には多彩な工夫が施されている。
8. Where Are We Going Wrong
アルバムのラストを飾るにふさわしい、メッセージ性のある問いかけ系ロック。
繰り返されるコーラスと切迫感あるリズムが、終わりと始まりを同時に感じさせる余韻を残して終わる。
総評
『Ring of Hands』は、Argentというバンドの二重構造——ロッド・アージェントの構築的な叙情と、ラス・バラードの直情的なエネルギー——が理想的に融合したアルバムである。
この時期の英国ロックには珍しい、“演奏志向”と“メロディ志向”の見事な均衡がここにある。
また、幻想文学、宗教的メタファー、都市の憂鬱といったモチーフが音楽の背後に浮かび上がり、ただのブルースロックともプログレとも違う、“Argent流知性派ロック”の確立を予感させる。
決して派手ではないが、聴くたびに密度と重層性が増していくアルバムであり、後の『All Together Now』とは異なる、より“内向的で実験的なArgent”を知るには最適な一枚である。
おすすめアルバム
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Procol Harum『Home』
クラシカルで荘厳な英国的ロック。Argentの精神性と共鳴。 -
Colosseum『Valentyne Suite』
ジャズとロックの狭間で知的に燃焼する名作。 -
Atomic Rooster『Death Walks Behind You』
オルガン・ロックとプログレの中間点。アージェントと同系統の重量感。 -
Trapeze『Medusa』
ブルース・ロックと叙情性を融合した作品。ラス・バラードの方向性に通じる。 -
Caravan『If I Could Do It All Over Again, I’d Do It All Over You』
幻想と技巧が共存する、英国プログレのもう一つの静脈。
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