アルバムレビュー:Red Carpet Massacre by Duran Duran

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発売日: 2007年11月13日
ジャンル: エレクトロポップ、シンセポップ、アーバン・ポップ、ダンスロック


レッドカーペットの向こうにある、崩壊と快楽——Duran Duranが挑んだ“現代性”の再構築

2007年、Duran DuranがリリースしたRed Carpet Massacreは、バンド史上最も現代的で最も分裂的なアルバムである。
これは、単なる「80年代のリバイバル」ではない。
本作はむしろ、Duran Duranがポップシーンの最前線に再び立つために、自らのDNAをアップデートし、破壊と再生を試みた野心作である。

プロデューサーにはTimbalandとNate “Danja” Hills、さらにJustin Timberlakeを迎え、当時のアメリカのアーバン・ポップ/R&Bシーンの最先端のサウンドを大胆に導入。
これにより、従来のバンドファンの間では賛否が分かれたものの、Duran Duranが“時代と対話する意志”を放棄していないことを明確に示す一枚となった。

アルバムタイトルに込められた“レッドカーペット(名声)”と“マサカー(惨劇)”の対比が象徴するように、華やかさと崩壊、欲望と虚無、快楽と孤独が交錯する世界が広がっている。


全曲レビュー

1. The Valley

荘厳なシンセとビートで幕を開けるイントロダクション。
都市の谷間に生きる孤独と欲望が、濃密なサウンドで描かれる。

2. Red Carpet Massacre

タイトル曲にして、グラマラスな世界の裏側を描く攻撃的なナンバー。
デジタルな冷たさとロックの生々しさが共存。

3. Nite-Runner (feat. Timbaland & Justin Timberlake)

本作のサウンド的中核。
エレクトロR&Bの手法を用い、夜に生きる者たちの性と衝動を軽快に描写。

4. Falling Down

唯一のバラード的トラックで、メランコリックなメロディが際立つ。
ジャスティン・ティンバーレイクとの共作で、セレブリティ文化の崩壊を歌う。

5. Box Full O’ Honey

アコースティックと電子音が融合した柔らかい楽曲。
愛と記憶の甘やかで切ない感覚が漂う。

6. Skin Divers

Timbalandのビートが冴える、セクシャルでリズミカルなダンス・トラック。
誘惑と中毒が交錯するリリックも印象的。

7. Tempted

80年代のDuran Duranを感じさせるメロディラインに、現代的なアレンジが施されたナンバー。
誘惑と自己制御のせめぎ合いがテーマ。

8. Tricked Out

インストゥルメンタルに近い実験的トラック。
ギターとシンセのうねりがアンダーグラウンド感を強調する。

9. Zoom In

ミニマルな構成で、“現代の情報過多”を思わせるタイトなポップソング。
サイモンの語りかけるようなボーカルが効果的。

10. She’s Too Much

バンドらしい叙情性が戻る一曲。
理想と現実のズレを、美しい旋律で包み込む。

11. Dirty Great Monster

重たいビートと不穏なコードが不気味に響く。
心の奥に棲む“怪物”と向き合うようなダークナンバー。

12. Last Man Standing

終末感と再起の入り混じるクロージング・トラック。
「俺はまだここにいる」と歌う姿に、Duran Duranの矜持が滲む。


総評

Red Carpet Massacreは、Duran Duranが自らのイメージと決別し、“時代の現在地”に飛び込んだ果敢な作品である。
華やかさの裏に潜む孤独と喪失感、テクノロジーと肉体の矛盾、そして名声と自己の乖離。
そうした現代的テーマを、鋭く冷たい音像で包み込んだアルバムだ。

たしかに、クラシックなバンドサウンドを期待するファンには受け入れがたい側面もある。
だがそのぶん、Duran Duran表現者としての胆力と柔軟性、そして批評性はここで新たなフェーズに突入したとも言える。

レッドカーペットに群がる栄光と絶望の中で、“最後に立つ者”は誰なのか。
その問いに向き合ったバンドの姿が、ここには記録されている。


おすすめアルバム

  • FutureSex/LoveSounds by Justin Timberlake
     ——本作に影響を与えた一枚。エレクトロR&Bの先駆的名盤。
  • Hard Candy by Madonna
     ——同時期のTimbalandプロデュース作。ポップの肉体性が際立つ。
  • Black Cherry by Goldfrapp
     ——官能とエレクトロが交錯する、近未来的ポップの名作。
  • Playing the Angel by Depeche Mode
     ——ダークな感情とエレクトロが結びつく、成熟したシンセロック。
  • Some Great Reward by Depeche Mode
     ——機械と人間性の狭間で鳴る、初期エレクトロの金字塔。

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