Reckoner by Radiohead(2007)楽曲解説

Spotifyジャケット画像

1. 歌詞の概要

Reckoner(レコナー)」は、Radioheadレディオヘッド)が2007年にリリースしたアルバム『In Rainbows』に収録された楽曲であり、その浮遊感と透明感に満ちたサウンド、そしてどこか神秘的な歌詞によって、バンド史上最も“美しい”とされる一曲である。

タイトルの「Reckoner」とは、直訳すれば「計算する者」「裁く者」「勘定を清算する者」などの意味を持つ。この曲では、その言葉が人間の“最後の瞬間”――つまり死や終末、もしくは魂の“決算”のような場面を象徴しているように思える。

歌詞はきわめて簡潔かつ断片的で、「Reckoner, you can’t take it with you(レコナーよ、あの世には持っていけない)」という印象的な一節に集約される。物質的なもの、あるいは過去の後悔、怒りや執着といった“この世に属するもの”は、死という終わりを前にしてすべて無力である――そのような感覚が、静かに、しかし深く漂っている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Reckoner」の起源は、2001年のツアー中に披露されていた同名の激しいロック・ナンバーだったが、その後再構築を重ねて現在の形へと生まれ変わった。バンドは長年この曲の可能性を模索し、最終的に『In Rainbows』というアルバムの核心を成す楽曲として昇華させた。

アルバム全体が“身体性”と“感情の解放”をテーマにしている中で、「Reckoner」はまさに“魂が浮上する”ような瞬間を捉えた作品である。
ジョニー・グリーンウッドの繊細なギターのアルペジオと、トム・ヨークのファルセットが重なることで、聴く者を“日常から一歩浮いた場所”へと連れ出す。音の密度は高いが、そのすべてが空気のように軽やかで、まるで朝霧の中を歩いているような感覚を呼び起こす。

トム・ヨークはこの曲について、「死ではなく、“救済”についての曲」と語っており、そこには“終わり”の中にある“癒し”や“浄化”というテーマが静かに息づいている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Reckoner」の象徴的な歌詞を抜粋し、和訳を添える。

Reckoner
You can’t take it with you
Dancing for your pleasure

レコナーよ
それ(物質や感情)はあの世には持っていけない
君は誰かの快楽のために踊っていたんだ

You are not to blame for
Bittersweet distractors
Dare not speak its name

君のせいじゃない
ほろ苦く心を逸らすものたちのことなんて
それの名を、あえて口には出せない

Because we separate
Like ripples on a blank shore

僕らは離れていく
まるで静かな海岸に広がる波紋のように

(歌詞引用元:Genius – Radiohead “Reckoner”)

4. 歌詞の考察

「Reckoner」の歌詞は非常に曖昧であり、明確な意味の説明を拒むような美しさがある。しかし、その曖昧さこそが“人生の終わり”という抽象的かつ個人的なテーマを語るにはふさわしいとも言える。

冒頭に登場する「You can’t take it with you(持っていけない)」という一節は、まさに人間が死ぬときに直面する“喪失の絶対性”を端的に表している。財産、名誉、愛、怒り――どれも、最終的には手放さなければならない。

また「Bittersweet distractors(ほろ苦く気を逸らすものたち)」というフレーズには、人生の中で心を奪われてきた対象――恋愛や欲望、憎しみや成功など――が暗示されている。それらが悪いものではないにせよ、最終的には“名もなき波紋”のように消えていくのだという虚無感が、静かに歌われている。

そして「Like ripples on a blank shore(何もない海岸に広がる波紋のように)」という比喩は、存在の儚さと時間の不可逆性を美しく象徴している。人は出会い、交わり、そしてやがて別れていく。その事実に抗わず、受け入れていく姿勢――それがこの曲の根底にある“やさしい諦念”である。

重要なのは、これらの歌詞が悲嘆ではなく、むしろ「浄化」として提示されていることだ。怒りでも涙でもなく、“静けさ”で締めくくられるこの歌は、死や別れを“終わり”ではなく“変化”として描こうとしている。

(歌詞引用元:Genius – Radiohead “Reckoner”)

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Pyramid Song by Radiohead(from Amnesiac
    来世や魂の旅を思わせる深遠な楽曲。水中に沈むような浮遊感が「Reckoner」と共鳴する。
  • Holocene by Bon Iver
    自分のちっぽけさを受け入れることを歌った美しいフォーク・バラード。諦念と癒しが重なる。
  • Motion Picture Soundtrack by Radiohead(from Kid A
    死後の世界を描いたような、天上のような音楽。静けさと終焉を描く点で非常に近い。
  • Breathe Me by Sia
    壊れた心とその回復を、儚く訴えかけるバラード。繊細な感情の揺れに共鳴する一曲。

6. 終わりではなく、“漂うための音楽”としてのReckoner

「Reckoner」は、Radioheadが築いてきた“絶望と希望のあいだの音楽”のひとつの到達点である。
ここには、叫びも、怒りも、涙もない。ただ、波紋のように広がり、静かに消えていく音楽がある。

人は生まれ、何かを手に入れ、誰かを愛し、そしてすべてを手放してゆく。
その営みのなかで、「君のせいじゃない」と優しくささやいてくれるこの曲は、苦しみの終わりではなく、“魂の浮遊”を描いているのかもしれない。

“Reckoner, you can’t take it with you.”
そう語られるとき、私たちは自分の中の何かを、少しだけ、そっと手放せるようになる。
それは喪失ではなく、回復のはじまり――
だからこの曲は、いつまでも美しい。どこまでも静かで、どこまでも深い、レディオヘッドの“光の中の音楽”なのだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました