1. 歌詞の概要
「Raspberry Beret(ラズベリー・ベレー)」は、1985年にリリースされたプリンス&ザ・レヴォリューションのアルバム『Around the World in a Day』に収録された代表曲であり、同年シングルとしても大ヒットを記録した。タイトルの通り「ラズベリー色のベレー帽をかぶった女の子」との出会いを歌った楽曲で、明るくポップなメロディに、どこかノスタルジックで夢のような雰囲気が漂う。
歌詞は物語調で進み、主人公が退屈な日常を過ごす中で、ラズベリー色のベレー帽をかぶった女性と出会い、彼女に惹かれ、心を奪われていく過程が描かれる。その出会いはどこか偶然で、そして一瞬の出来事のようでもあるが、主人公にとっては人生を彩る鮮烈な体験となっている。そこには、若者の恋愛における高揚感や甘酸っぱさがにじみ出ており、プリンスの楽曲の中でも特に親しみやすい一曲として知られている。
「セクシュアリティの挑発」というよりも「初恋の記憶」や「青春の幻想」を思わせる内容であり、プリンスの作品群の中では異色のロマンティックなラブソングと言える。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Raspberry Beret」が収録された『Around the World in a Day』は、前年の『Purple Rain』で世界的成功を収めたプリンスが、そのイメージをあえて裏切るかのように制作したアルバムである。ロックとファンクを軸にした『Purple Rain』とは対照的に、サイケデリックなサウンドと幻想的な世界観が特徴で、ビートルズの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』を想起させるカラフルな音楽性が展開されている。
その中でも「Raspberry Beret」は最もキャッチーで親しみやすい楽曲で、シタール風の音色やストリングスが織り込まれたアレンジが60年代的な香りを放ちつつ、プリンス独特の軽快なファンク・グルーヴと融合している。この独特の音像は、当時のアメリカにおいて「サイケデリックの再解釈」として注目を集めた。
歌詞は autobiographical(自伝的)な要素を持つとも言われ、退屈な職場での日常から抜け出し、女性との出会いを通じて自由を味わう姿は、プリンス自身の若き日の体験を反映しているのではないかと解釈されてきた。主人公は少し風変わりでユニークな女性に惹かれ、その鮮烈な印象を生涯忘れられない記憶として語る。
シングルとしては全米チャートで2位を記録し、プリンスにとって「Purple Rain」後のキャリアを支える重要なヒットとなった。熱狂的なファンだけでなく、幅広いリスナーに受け入れられたことで、彼が単なる挑発的アーティストではなく、ポップ・ソングライターとしても卓越した才能を持つことを証明した楽曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「Raspberry Beret」の一部抜粋を示す。
引用元:Prince – Raspberry Beret Lyrics | Genius Lyrics
She wore a raspberry beret
彼女はラズベリー色のベレー帽をかぶっていた
The kind you find in a second hand store
中古屋で見つけるような帽子さ
Raspberry beret
ラズベリー色のベレー帽
And if it was warm she wouldn’t wear much more
暖かければ、彼女はそれ以上多くを身につけないだろう
Built like she was, she had the nerve to ask me
そんな体つきをした彼女が、平然と僕に言ったんだ
If I planned to do her any harm
「私に何か悪いことをするつもりじゃないでしょうね?」って
The rain sounds so cool when it hits the barn roof
納屋の屋根に雨が当たる音はとても心地よく
And the horses wonder who you are
馬たちは君が誰なのかと不思議そうにしていた
軽快な描写の中に、恋の高揚感と自然の風景が織り込まれている。まるで青春映画のワンシーンのような鮮やかさを持ち、プリンスが描くイメージの豊かさを感じさせる。
4. 歌詞の考察
「Raspberry Beret」の核心は、「一瞬の出会いが永遠の記憶になる」というテーマにある。主人公は、退屈で凡庸な日常を送る若者として描かれるが、そこに現れたラズベリー色のベレー帽をかぶった女性が、彼の人生を一変させる。彼女の存在は異彩を放ち、まるで夢の中の人物のように鮮烈であり、その出会いは時間を超えて記憶に残り続ける。
この楽曲には、プリンスがよく用いる「セクシュアルなニュアンス」も含まれている。女性が「暖かければそれ以上身につけない」と表現される部分や、納屋での親密な時間の描写は、単なる初恋の甘酸っぱさにとどまらず、肉体的な欲望の気配を漂わせている。しかし、それは決して過激な描写ではなく、むしろノスタルジックで夢見がちなタッチで描かれているのが特徴だ。
また、曲全体に漂う60年代的なサイケデリックの雰囲気は、「記憶」「幻想」「青春」といったテーマと絶妙にマッチしている。現実と夢の境界線が曖昧になり、恋の記憶が永遠に美化される。この構造は、プリンスが意識的に「ビートルズ以降のポップ幻想」を引用した結果でもある。
さらに、この曲が『Purple Rain』後のキャリアに位置づけられていることも重要である。『Purple Rain』が宗教性や救済、セクシュアリティといった壮大なテーマを扱ったのに対し、「Raspberry Beret」は軽やかで親しみやすい恋の物語を描いた。その落差こそが、プリンスの表現の幅の広さを世に知らしめた要因だったのだ。
コピーライト:Lyrics © Universal Music Publishing Group
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Pop Life by Prince and the Revolution
同じ『Around the World in a Day』収録曲。ポップでありながら社会的メッセージを秘める。 - Paisley Park by Prince and the Revolution
サイケデリックな音像をまとった同アルバムの象徴的楽曲。幻想的な世界観を好む人に。 - Strawberry Fields Forever by The Beatles
夢のような恋とサイケデリックな音像が「Raspberry Beret」と共鳴する。 - Kiss by Prince
軽やかなリズムとセクシュアルなユーモアがプリンスらしい一曲。 - Just Like Heaven by The Cure
ポップでありながら甘酸っぱく幻想的な恋愛を描いた80年代の名曲。
6. プリンスの「青春の幻想」としての意義
「Raspberry Beret」は、プリンスの楽曲の中でも特に親しみやすく、甘美でノスタルジックな雰囲気を持っている。それは単なる恋の歌ではなく、若者の一瞬の体験が永遠に美しい記憶として残る、その普遍的な感覚を描き出しているのだ。
また、この曲は『Purple Rain』という重厚な作品の後に位置していたため、プリンスが単なるダークで挑発的なアーティストではなく、ポップの伝統を受け継ぐソングライターであることを世に知らしめる役割を果たした。ビートルズ的なサイケデリック感覚と、80年代的なファンク/ポップの融合がここに完成しており、プリンスの音楽の幅広さを証明した楽曲なのである。
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