発売日: 2009年11月3日
ジャンル: パワー・ポップ、ポップロック、オルタナティブロック、ポップパンク
概要
『Raditude』は、Weezerが2009年にリリースした7枚目のスタジオ・アルバムであり、彼らのディスコグラフィの中でも最もポップ志向が強く、商業的エンターテインメントへの接近を鮮明に打ち出した作品である。
アルバム・タイトルの“Raditude”は、「Rad(最高)」と「Attitude(態度)」をかけ合わせた造語で、少年的な無邪気さとアッパーな空気を象徴している。
一見するとふざけた軽さのある作品だが、その裏側にはバンドのキャリアにおける“変化の欲望”と“あえてポップに突き抜ける”という挑発的な精神が潜んでいる。
プロデューサー陣には、Jacknife Lee、Butch Walker、Dr. Lukeといったポップ~ロック界のヒットメイカーが名を連ね、サウンド的にも従来のWeezerらしいギターロックから離れたトラックが多数収録されている。
ファンや批評家の間では評価が大きく割れた作品であるが、それゆえにWeezerというバンドの“自由さ”と“わがままさ”を象徴する重要なアルバムでもある。
全曲レビュー
1. (If You’re Wondering If I Want You To) I Want You To
ポップでキャッチーなオープニング・ナンバー。
語りかけるような歌詞と、テンポのよいギターが織りなす軽快さは、アルバムの方向性を象徴している。
Weezerらしさとラジオ・フレンドリーな感覚が絶妙に両立した一曲。
2. I’m Your Daddy
Dr. Lukeが共同プロデュースしたエレクトロ風味のポップロック。
ダンスビートとギターリフが融合した軽快なトラックで、歌詞はあくまでシンプルに“僕は君のものだ”と訴えるストレートさ。
3. The Girl Got Hot
ギターポップとディスコパンクが交錯する、エネルギッシュなアップテンポ・チューン。
“地味だったあの子が突然イケてる女子に変貌”という青春あるあるなテーマを、ユーモラスに描いている。
4. Can’t Stop Partying (feat. Lil Wayne)
Lil Wayneをゲストに迎えた問題作。
オートチューンを駆使したRivers Cuomoのボーカルと、トラップ系のビートが印象的。
批評的には賛否が分かれたが、「パーティーの奴隷」的なリリックが示す諦念は、単なるパーティーソングにとどまらない皮肉を帯びている。
5. Put Me Back Together
ポップ・ロックバンド、All-American Rejectsのメンバーとの共作による、バラード調のナンバー。
メロディの甘さと切なさが際立ち、アルバムの中では感情的な中核を担う楽曲。
6. Trippin’ Down the Freeway
疾走感あふれるロックナンバー。
ギターとドラムの軽快な掛け合いと、恋人との旅を描いたポップなストーリーテリングが魅力的。
7. Love Is the Answer
やや実験的なアレンジが施された一曲で、ヒンディー語の女性ボーカルが挿入されるなど、異国情緒を帯びたトラック。
のちにSugar Rayがこの曲をカバーしていることからも、そのポップ普遍性がうかがえる。
8. Let It All Hang Out
Butch Walkerのプロデュースによる、開き直りのポップパンク。
タイトル通り「全部さらけ出してしまえ」という無防備さと勢いが詰まっている。
9. In the Mall
Weezerらしいユーモラスなリリックが楽しい、ショッピングモール讃歌。
キーボードとギターの絡みが絶妙で、チープさを逆手に取った仕上がりが印象的。
10. I Don’t Want to Let You Go
アルバムのラストを飾る、しっとりとしたバラード。
ポップ全開だったアルバムを静かに締めくくる一曲で、Rivers Cuomoの真摯なボーカルが心に残る。
総評
『Raditude』は、Weezerが“ロックバンド”という枠組みをあえて飛び出し、ポップ、ヒップホップ、ダンスロックといったジャンルを無邪気に横断した問題作である。
その音楽的多様性は必ずしも一貫性を持つわけではないが、そこには「楽しむこと」や「型にはまらないこと」への強い意志が宿っている。
「中年になったWeezerが青春をやり直すとこうなる」という、セルフ・パロディ的な一面すらあるこの作品は、彼らのキャリアにおける最も“変化に富んだ章”のひとつと言えるだろう。
一方で、ポップ志向の強さゆえに、初期ファンからの評価は分かれた。だがその分、本作は“開き直りの楽しさ”と“自由な音楽作り”を純粋に楽しめる稀有な作品でもある。
決して深刻にならず、それでいて時折しんみりとさせる。その落差こそがWeezerの本質なのだろう。
おすすめアルバム(5枚)
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Make Believe / Weezer
キャッチーで大衆的なポップロック路線の原型が見える作品。『Raditude』の前段階ともいえる。 -
Sugar Ray / Sugar Ray
ミクスチャー感覚とキャッチーなメロディの融合が共通する。夏っぽさと軽快さを好むならおすすめ。 -
Does This Look Infected? / Sum 41
ポップパンク的なノリを楽しみたい人向け。エネルギッシュなロックと青春感がリンクする。 -
Hot Fuss / The Killers
シンセとギターを融合させた2000年代のポップロック代表作。ポップで華やかなWeezer像と重なる部分がある。 -
Everything Will Be Alright in the End / Weezer
『Raditude』とは対極的に、原点回帰を果たした“再出発”の一枚。両者を聴き比べることでWeezerの幅の広さが見えてくる。
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