発売日: 1974年2月
ジャンル: パワーポップ、ロック
アルバム全体の印象
Big Starの2作目となる「Radio City」は、パワーポップというジャンルを語る上で欠かせない名盤である。前作「#1 Record」の商業的失敗を経て、バンドはメンバーのクリス・ベルを欠いた3人編成で制作を進めた。本作は、アレックス・チルトンの天才的なソングライティングとエネルギッシュな演奏が光る作品であり、バンドの方向性を再定義するものとなった。
アルバムは、シンプルながら心に刺さるメロディと、荒削りながらも洗練されたアレンジが特徴だ。楽曲はポップスの甘美さを保ちつつ、チルトンのボーカルが時折見せる不安定なエッジが独特の緊張感を生み出している。プロデュースはジョン・フライとバンド自身が手掛け、独立系レーベルArdent Studiosからリリースされた。時代のトレンドを超越した作風は、後年のインディー・ロックやオルタナティブ・シーンに多大な影響を与えた。
商業的には再び失敗に終わったが、その革新性と独創性は長い年月を経て再評価され、今日では伝説的なステータスを持つアルバムとして認知されている。スピーカーから流れる音は、当時のリスナーには早すぎたのかもしれないが、今聴くとその普遍的な魅力に改めて驚かされる。
各曲解説
1. O My Soul
オープニングを飾るこの楽曲は、ファンキーなリズムセクションとギターワークが際立つ。ルーズでスウィンギーなグルーヴが新鮮で、チルトンのソウルフルな歌声が印象的だ。5分を超える構成ながら飽きさせない展開力を持ち、アルバムの幕開けにふさわしいダイナミックな一曲。
2. Life Is White
この曲はハーモニカの切ない旋律が特徴的。歌詞は恋愛の終わりを描きながらも、明るいメロディと軽快なピアノアレンジが対照的な印象を与える。メロディの背後にある感情の複雑さが、アルバム全体に流れるテーマを予感させる。
3. Way Out West
ベーシストのアンディ・ハメルがリードボーカルを取った珍しい曲。牧歌的な雰囲気のあるアコースティックなアレンジが魅力だ。アルバムの中では軽めのトーンで、ホッと一息つけるような心地よさがある。
4. What’s Going Ahn
アルバムの中でも特にメランコリックな一曲。アコースティックギターのアルペジオが中心となり、歌詞は混乱と孤独をテーマにしている。チルトンのボーカルには壊れやすさと力強さが同居しており、胸に迫るものがある。
5. You Get What You Deserve
ジャングリーなギターとエネルギッシュなドラムが主導する楽曲。タイトルの通り、自分の行動に応じた報いを受けるというテーマが歌われている。シンプルな構成だが、ギターソロの切れ味は鋭く、一聴の価値がある。
6. Mod Lang
ブルージーなロックンロールが炸裂するアップテンポの曲。チルトンのちょっとした悪ふざけが感じられる歌詞や、歪んだギターの音色が楽しい。ライブ映えしそうな疾走感が心地よい。
7. Back of a Car
ポップセンスが炸裂した一曲で、アルバムのハイライトと言える。甘酸っぱいメロディと歌詞が青春の瞬間を切り取っており、多くのリスナーの心に残る。ストリングス風のギターパートも印象深い。
8. Daisy Glaze
静と動の対比が際立つ構成が特徴的。前半は控えめで抑制された雰囲気だが、中盤以降は爆発的なエネルギーを見せる。アルバムの中でもドラマチックな展開を持つ一曲だ。
9. She’s a Mover
ギターリフが強烈な存在感を放つロックンロールの楽曲。シンプルなビートが全体を支えつつ、チルトンのボーカルが熱量を与えている。アルバムの中でも特に勢いのある曲。
10. September Gurls
本作の代表曲であり、パワーポップの代名詞とも言える名曲。爽やかなギタージャングルとノスタルジックなメロディが融合し、時代を超越した魅力を持つ。多くのアーティストにカバーされた理由がよく分かる。
11. Morpha Too
ピアノを主体とした短い楽曲で、繊細な美しさが光る。チルトンの歌声が優しく響き、アルバムの中でもユニークな一曲となっている。
12. I’m in Love with a Girl
アルバムを締めくくるアコースティックなバラード。シンプルな構成ながら、愛情に満ちた歌詞とチルトンの親密な歌声が心に残る。控えめながらも感動的なエンディングだ。
アルバム総評
「Radio City」は、音楽的な野心とポップスの親しみやすさが見事に融合したアルバムだ。荒削りな部分がある一方で、それが逆にバンドの魅力を引き立てている。特に「September Gurls」や「Back of a Car」のような楽曲は、ジャンルを超えて愛される名曲だ。Big Starが残した遺産は、後続のアーティストたちにとって永遠のインスピレーションであり続けるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
「#1 Record」 by Big Star
デビューアルバムであり、「Radio City」と対を成す作品。より洗練されたポップセンスと初期のエネルギーを堪能できる。
「Something/Anything?」 by Todd Rundgren
多彩なジャンルを融合したポップの傑作。Big Starのファンにも響くキャッチーなメロディと深みがある。
「The Velvet Underground & Nico」 by The Velvet Underground
ラフで実験的なサウンドが「Radio City」の荒削りな魅力と通じる部分がある。
「The Cars」 by The Cars
パワーポップの明快なメロディと洗練されたプロダクションが、「Radio City」に親しみを覚えるリスナーにおすすめ。
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