
1. 歌詞の概要
「Queen Bitch」は、シアトルのバンドGreen Riverが1987年にリリースしたコンピレーションEP『Dry As a Bone / Rehab Doll』に収録された楽曲である。曲名から分かるように、デヴィッド・ボウイが1971年に発表した『Hunky Dory』収録曲「Queen Bitch」のカヴァーである。Green River版はオリジナルのグラム・ロック的な軽快さを引き継ぎながらも、より粗削りでノイジーなサウンドへと変貌させている。
歌詞自体はボウイの原曲と同じく、奔放で挑発的な女性像を描き出し、彼女に翻弄される男性の姿をユーモラスに歌い上げる。オリジナルではグラム・ロックの洒脱なアイロニーが漂っていたが、Green Riverの演奏ではそのスタイリッシュさが荒々しさに変わり、アンダーグラウンドな熱気と切迫感が強調されている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Green Riverは1984年に結成され、のちにMudhoneyやPearl Jamへとつながるメンバーを輩出し、「グランジの始祖」として知られる存在となった。1987年に発表された『Rehab Doll』は彼らの唯一のフル・アルバムであり、同時期にSub Popから『Dry As a Bone』も発表され、両作はのちにまとめて再発されている。
「Queen Bitch」は当時のライヴでも演奏され、彼らのルーツを示す一曲といえる。ボウイのグラム・ロックを取り上げることで、Green Riverが単にハードコア・パンクの直系ではなく、より広範なロックの伝統を飲み込みつつ新たなスタイルを生み出そうとしていたことが浮かび上がる。ボウイの曲が持つ性的挑発やシニカルなニュアンスは、シアトルの湿った空気の中で別の表情を帯び、荒々しいグランジ的感触へと変換された。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下はGreen River版「Queen Bitch」の元となったDavid Bowie原曲からの抜粋である。
(歌詞引用:Genius)
She’s so swishy in her satin and tat
彼女はサテンや安物の布に身を包み、とてもひらひらしている
In her frock coat and bipperty-bopperty hat
フロックコートにおどけた帽子をかぶって
Oh God, I could do better than that
ああ、もっとマシな女を選べるはずなのに
I’m up on the eleventh floor
僕はビルの11階にいて
And I’m watching the cruisers below
下を走る車を眺めている
He’s down on the street
彼は路上にいる
And he’s trying hard to pull sister Flo
そして必死にフロウという女を口説こうとしている
歌詞は挑発的で皮肉に満ち、ボウイの都会的ユーモアが反映されている。Green River版はこの詞をそのまま歌いながら、音楽的にはより粗暴でラフな解釈を与えている。
4. 歌詞の考察
「Queen Bitch」という曲は、David BowieにとってVelvet Undergroundへのオマージュであり、ニューヨークの退廃的なナイトライフや奔放な女性像を描いた作品である。Green Riverがこの曲をカヴァーしたことは、彼らのサウンドの背後にパンクやハードロックだけでなく、グラムやアートロックの血脈が流れていたことを示している。
Green River版は、オリジナルのスタイリッシュなシニシズムをそぎ落とし、むき出しのノイズと荒いヴォーカルで塗り替える。そこに感じられるのは「都会的アイロニー」ではなく「退屈な日常をぶち壊す衝動」である。結果的に、同じ詞を歌っていても全く異なる意味合いを帯び、グランジ的感性の萌芽として響くのだ。
(歌詞引用:Genius)
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Touch Me I’m Sick by Mudhoney
Green Riverから派生したバンドの代表曲で、同じ荒々しい衝動が貫かれている。 - Personality Crisis by New York Dolls
グラム・ロックの代表的ナンバーで、BowieとGreen Riverの双方に通じる。 - White Light/White Heat by The Velvet Underground
「Queen Bitch」のルーツ的存在で、アンダーグラウンドな衝動が共通する。 - Search and Destroy by The Stooges
荒削りなパンクの典型で、Green River版の攻撃性と響き合う。 - Smells Like Teen Spirit by Nirvana
グランジの爆発的瞬間で、Green Riverがまいた種の開花を象徴する。
6. Green Riverにとっての意義
「Queen Bitch」は、Green Riverが単にシアトルのローカル・パンクにとどまらず、広範なロック史の流れを意識していたことを示すカヴァーである。Bowieの都会的な退廃を、シアトル特有の湿った荒々しさに変換した点に、彼らの独自性が表れている。
この曲は彼らのオリジナル曲と同様に、のちのグランジ・ムーヴメントの基盤を築く重要な断片であり、Green Riverが「ロックの伝統を破壊しつつ継承する」バンドであったことを象徴している。



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