
発売日:2019年10月11日
ジャンル:ポップ、ポップ・ロック、アダルト・コンテンポラリー、アコースティック・ポップ
概要
BBMakの『Powerstation』は、1990年代末から2000年代初頭にかけてボーイズ・グループ/ポップ・ロックの文脈で人気を集めた彼らが、長い空白期間を経て発表した復帰作であり、同時に“再結成アルバム”という枠を超えて、成熟したソングライティングを提示した作品でもある。クリスチャン・バーンズ、マーク・バリー、スティーヴン・マクナリーの3人からなるBBMakは、デビュー作『Sooner or Later』(2000年)でアコースティック・ギターを基調にした爽やかなポップ・サウンドと、3人の端正なハーモニーによって広く知られるようになった。ボーイズ・グループ的な親しみやすさを持ちながらも、NSYNCやBackstreet Boysのようなダンス路線とは異なり、彼らはギターを携えたポップ・トリオとして独自の立ち位置を築いていた。
そのBBMakが『Into Your Head』(2002年)以降長く新作を出していなかったことを考えると、『Powerstation』は単なる懐古的なカムバックではなく、時代を経た自分たちの音楽性を再定義する試みとして重要である。タイトルの“Powerstation”は、エネルギーの供給源、再起動、再接続といったイメージを想起させるが、本作もまさにそうした意味合いを持つ。かつてのBBMakらしさ——アコースティック・ポップの軽やかさ、メロディの滑らかさ、ハーモニーの美しさ——を残しながらも、2010年代のポップ・ロック/アダルト・ポップの感覚を取り込み、より落ち着いた大人の作品へと仕上げている。
このアルバムの大きな特徴は、“若さのポップ”ではなく“成熟したポップ”として成立している点にある。2000年前後の彼らの魅力は、恋愛や憧れをやや無邪気なトーンで歌えるところにもあったが、『Powerstation』では感情の扱いがより慎重で、言葉も大人びている。失われた時間、関係の変化、過去との向き合い方、それでもなお続いていく愛情や希望といったテーマが、無理に若作りすることなく描かれている。これは再結成組のポップ・アーティストにとって重要なことで、かつてのスタイルをそのまま再演するのではなく、年齢や経験を経た現在の自分たちにふさわしい語り口を見つけている点で、本作はかなり誠実な作品だといえる。
サウンド面では、ギターを軸としたBBMakの個性はしっかり維持されている。だが、単なる2000年代初頭ポップ・ロックの焼き直しにはなっていない。アコースティック・ギターとエレクトリック・ギターのバランス、控えめなリズム・プログラミング、洗練されたコーラス処理、そしてバラードでも甘くなりすぎないプロダクションによって、作品は2010年代後半のアダルト・ポップとして自然に響く。Maroon 5以降のライトなポップ・ロック、あるいはOneRepublic的なメロディ重視の現代的ポップとも接点を持ちながら、根底には英国ポップらしい素直なメロディ感覚がある。
また、BBMakは元来、声の相性の良さが際立つグループだったが、『Powerstation』ではその強みがより重要になっている。若い頃のきらびやかな高揚感ではなく、少し落ち着きの出た声が重なることで、楽曲に穏やかな説得力が生まれている。ソロ・パートとハーモニーの行き来も丁寧で、グループとしての一体感が再確認できる。かつてのファンにとっては懐かしさがありつつ、初めて聴くリスナーにとっても、メロディの良さと歌の誠実さで届く作品になっている。
歴史的に見れば、BBMakは1990年代末から2000年代初頭のティーン・ポップ/ポップ・ロックの一角を担ったグループだが、その名前は巨大な同時代グループに比べるとやや過小評価されがちだった。『Powerstation』は、その彼らが「一発屋的な懐古の対象」ではなく、きちんと曲を書き、歌を重ね、今の年齢に見合うポップ・アルバムを作れるグループであることを示した作品として意義深い。大げさな路線変更や意図的な最新トレンドへの迎合ではなく、自分たちの美点を保ったまま更新する。その堅実さが、このアルバムの魅力である。
全曲レビュー
1. Bullet Train
アルバム冒頭を飾るこの曲は、再始動を告げるオープナーとして非常に機能的である。タイトルの“弾丸列車”は、勢い、移動、再出発を想起させ、長いブランクを経たBBMakの復帰作の幕開けにふさわしい。サウンドは軽快なポップ・ロックで、ギターの刻みと明快なリズムが前進感を生む。ここで重要なのは、若さ任せの疾走感ではなく、コントロールされた推進力として楽曲が成立している点である。3人のハーモニーは久々の新作であることを感じさせないほど自然で、BBMakらしい親しみやすさを早い段階で印象づける。アルバム全体の“再接続”の感覚を象徴する導入である。
2. No One Else
BBMakの持ち味であるラヴソング路線が比較的ストレートに表れた楽曲。タイトルの「他の誰でもない」というフレーズはポップの王道だが、本作では若い恋愛の独占欲というより、時間を経てもなお変わらない感情の確認として響く。メロディは滑らかで、サビにはしっかりとした高揚があり、グループのハーモニーの心地よさがよく生きている。アレンジも過剰にドラマティックにならず、アコースティックな質感と現代的なポップ処理のバランスがよい。初期BBMakを思わせる甘さを持ちながら、それを成熟した口調に調整した楽曲といえる。
3. Uncivil War
本作の中ではややシリアスな響きを持つ曲で、タイトルからも分かる通り、人間関係の対立や感情の摩耗を戦争になぞらえている。BBMakは基本的にメロディ重視の親しみやすいポップ・グループだが、この曲では感情の衝突やコミュニケーションの破綻といったテーマを、比較的陰影あるサウンドで描いている。大仰な社会批評というより、個人間の争いを普遍的なイメージへ拡張したような内容で、アルバムに必要な緊張感を与えている。穏やかなグループというイメージに対して、こうした少し苦味のある曲を置けることが、本作の成熟を物語っている。
4. Powerstation
タイトル曲にしてアルバムのテーマをもっとも明確に示す楽曲。ここでの“Powerstation”は、愛や絆、あるいは自分たち自身の音楽を再び動かし始めるエネルギー源として機能しているように聞こえる。サウンドは明快で、アルバムの中でも比較的広がりのあるポップ・ロックに仕上がっており、サビの開放感が印象的だ。BBMakはもともとキャッチーなフックを書くのが得意なグループだが、この曲ではその持ち味がよく出ている。しかも懐古的なセルフコピーにはなっておらず、今の彼らだからこそ出せる落ち着きがある。復帰作の中心としてふさわしい一曲である。
5. Always
タイトルから想像される通り、継続する感情や変わらない思いを扱ったバラード寄りの楽曲。BBMakの魅力の一つは、過度に技巧を見せるのではなく、素直なメロディを丁寧に歌い切るところにあるが、この曲ではその特性が特によく表れている。コーラス・ワークがやわらかく、歌詞の真っ直ぐさをしっかり支えている。内容としては誓いや献身を歌う王道のポップ・バラードだが、若々しい熱情ではなく、経験を経た末の持続する感情として響く点が本作らしい。派手ではないが、BBMakの美点を静かに確認できる曲である。
6. Last Call
アルバム中盤に置かれたこの曲は、終わりの気配や機会の最後をめぐるテーマを持つ。タイトルの“ラストコール”はバーの閉店前の呼びかけを思わせるが、ここでは関係の終盤や、人生のある局面における最後のチャンスとしても読める。楽曲はやや切なさを帯びつつも、過度に沈み込みすぎないバランスが絶妙である。BBMakはもともとメランコリーを爽やかさで包むのがうまいグループだが、この曲でもその手つきは健在だ。終わりを認めながらも完全な絶望には向かわない、その中間の感情がうまく描かれている。
7. Kingdom
タイトルが示すように、やや大きなスケール感を持った楽曲。王国という言葉は恋愛関係の比喩としても、自分たちが築いてきた居場所の象徴としても読める。サウンドも少しアンセミックで、アルバムの中では視界の開けた印象がある。とはいえ、過度にアリーナ向けの大仰さにはならず、あくまでBBMakらしいメロディとハーモニーが中心にある。再結成作においてこの種の“自分たちの場所”を思わせる曲があることは意味深く、彼らが過去を懐かしむだけでなく、今の立ち位置を肯定しようとしていることが伝わる。
8. Gretna Green
本作の中でも特に印象的なタイトルを持つ曲。スコットランドのグレトナ・グリーンは、駆け落ち婚の地として知られる歴史的な場所であり、そのイメージを踏まえると、この曲は愛と逃避、決断とロマンティシズムを結びつけた楽曲として聴くことができる。BBMakは英国出身グループであるだけに、この地名の持つ文化的ニュアンスが自然に作用している。メロディはロマンティックで、アレンジもやや抒情性を帯びており、アルバムの中では物語性のある一曲となっている。単なるラヴソング以上に、場所の記憶や象徴性が楽曲に奥行きを与えている点が興味深い。
9. Out of My Heart
失われた関係や消せない感情を扱う、BBMakらしいメロディ重視のミッドテンポ曲。タイトルの“心から追い出せない”という感覚はポップ・ソングの定番だが、本作では未練そのものより、感情が簡単には整理できない大人の複雑さとして響く。3人の歌い分けも自然で、グループとしての呼吸のよさがよく出ている。サウンドは比較的シンプルだが、そのぶんメロディの良さが前に出ており、初期からのBBMakファンには特に馴染みやすいタイプの曲だろう。アルバム中盤から終盤へかけての感情的な軸を担う一曲である。
10. What It’s Like
ここではより内省的な視点が強く、自分の立場や経験を相手に理解してほしいという欲求がテーマになっているように聞こえる。タイトルの「それがどんなものか」は、単純な説明ではなく、感情の共有の難しさを示す言葉でもある。BBMakの楽曲は基本的に分かりやすい感情表現を取ることが多いが、この曲には少し苦味があり、成熟した人間関係の厄介さが滲む。音の作りも落ち着いていて、派手な盛り上がりより余韻を重視している点が印象的だ。アルバム全体の“若さから成熟へ”という流れをよく象徴している。
11. Delirious
アルバムの終盤に置かれたこの曲は、やや感情の高ぶりを前面に出したポップ・ナンバー。“我を忘れるほど”というタイトルどおり、理性よりも感情が勝ってしまう瞬間を描いており、他の落ち着いた楽曲群に対するアクセントとして機能している。とはいえ、全体のサウンド設計はあくまで上品で、若々しい衝動を無理に再現しているわけではない。むしろ、大人になってなお揺さぶられる感情の強さとして表現されているところに説得力がある。アルバム終盤にエネルギーを補充する役割を果たす曲だ。
12. This Is All We Have
ラストを飾るこの曲は、タイトルの段階で非常に象徴的である。「これが僕たちのすべてだ」という言葉は、恋人同士の関係にも、グループとしての現在地にも重なる。復帰作の最後にこのタイトルを置くことには明らかに意味があり、過去の栄光でも未来の大きな約束でもなく、“今ここにあるもの”を静かに差し出すような誠実さが感じられる。楽曲自体も穏やかで、メロディとコーラスが丁寧に積み上げられ、アルバムをやわらかく締めくくる。派手なフィナーレではないが、それゆえに本作全体の等身大の魅力をよく体現している。
総評
『Powerstation』は、BBMakが再結成後にただ懐かしさを売るのではなく、自分たちの音楽性を現在の感覚で再構築した作品として高く評価できるアルバムである。ここには2000年代初頭の彼ららしさ——アコースティック・ポップの爽やかさ、わかりやすいメロディ、心地よいハーモニー——がきちんと残っている。しかし、それは当時の自分たちを無理に再現したものではなく、時間を経た声と感情によって自然に更新されている。その成熟の仕方が本作の最大の美点だろう。
音楽的には、ポップ・ロック、アダルト・コンテンポラリー、アコースティック・ポップのバランスがよく、聴きやすさと感情の陰影が両立している。派手な実験性や強烈なフックで押し切る作品ではないが、そのぶん曲の作りの丁寧さと歌の温度感がじわじわと伝わる。特にハーモニーの自然さは、再結成グループとして非常に大きな強みであり、3人の関係性そのものがサウンドの説得力になっている。
また、この作品はボーイズ・グループ/ポップ・トリオの“その後”を考えるうえでも興味深い。若い頃のキャラクターや時代の空気に依存していたアクトは、年月を経ると自己模倣か完全転向のどちらかに陥りやすい。だがBBMakは『Powerstation』で、そのどちらにも極端に振れず、過去の美点を活かしながら年齢相応のポップを鳴らす道を選んだ。これは派手ではないが、かなり難しい成功例である。
BBMakの代表作として最初に挙がるのは、やはり『Sooner or Later』かもしれない。しかし、『Powerstation』はその初期作とは別の意味で重要だ。これは復帰作であると同時に、彼らが本質的にメロディの良いポップ・グループであり続けていることを証明した作品である。かつてのファンにとっては誠実な再会であり、新しく聴くリスナーにとっては成熟したギター・ポップとして十分に魅力的な一枚である。
おすすめアルバム
- BBMak『Sooner or Later』
デビュー作にして彼らの代表作。『Back Here』をはじめ、若々しいBBMakの魅力とアコースティック・ポップの原型が詰まっている。
– BBMak『Into Your Head』
2作目で、より洗練されたポップ・ロック路線が強まった作品。『Powerstation』の成熟を理解するうえで比較しがいがある。
– A1『The A List』
2000年代初頭の英国ポップ・グループ作品として近い感触を持ち、メロディ重視の爽やかなポップが楽しめる。
– Westlife『Spectrum』
再結成後の成熟したボーカル・ポップ作品として好対照。往年のグループが現在形のポップをどう作るかという点で共通する。
– OneRepublic『Native』
もう少し現代的なポップ・ロックだが、メロディの強さとアダルトな洗練という点で、『Powerstation』を気に入ったリスナーに相性が良い。



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