
1. 楽曲の概要
「Please, Please, Please, Let Me Get What I Want」は、イギリスのロック・バンド、The Smithsが1984年に発表した楽曲である。シングル「William, It Was Really Nothing」のB面としてリリースされ、同年の編集盤『Hatful of Hollow』にも収録された。作詞はMorrissey、作曲はJohnny Marrによる。
The Smithsは、1980年代の英国インディー・ロックを代表するバンドである。Morrisseyの文学的で自己憐憫を含む歌詞、Johnny Marrの繊細で複雑なギター、Andy Rourkeの流麗なベース、Mike Joyceの端正なドラムによって、ポストパンク以後のギター・ロックに大きな影響を与えた。
この曲は、The Smithsの楽曲の中でも特に短い。演奏時間は2分に満たず、構成も非常に簡潔である。しかし、その短さの中に、願望、諦め、自己認識、祈りに近い感情が凝縮されている。シングルA面ではないにもかかわらず、後年まで非常に高い人気を保ち、映画やテレビ、カバー・バージョンを通じて広く知られるようになった。
曲の中心にあるのは、「今度こそ自分の望むものを得たい」という願いである。だが、その願いは力強い自己主張ではない。むしろ、何度も失望してきた人物が、最後の頼みのように口にする言葉として響く。The Smithsらしい皮肉や知性は残っているが、この曲ではそれ以上に、むき出しの弱さが前に出ている。
2. 歌詞の概要
歌詞は非常に短く、語り手の状況も細かく説明されない。語り手は、これまでの人生で運に恵まれず、その経験によって善良な人間でさえ悪くなってしまうと語る。そして「どうか、今度こそ自分の望むものを手に入れさせてほしい」と願う。
この曲の特徴は、願望が具体的に明かされない点にある。語り手が求めているものは、恋愛なのか、成功なのか、安心なのか、あるいはもっと漠然とした幸福なのかは示されない。そのため、聴き手は自分自身の願いをこの曲に重ねやすい。
Morrisseyの歌詞にはしばしば誇張、皮肉、自己劇化が含まれるが、この曲ではそれらがかなり抑えられている。言葉は短く、直接的である。だからこそ、「良い時が来てほしい」という単純な願いが、かえって切実に響く。
また、歌詞には自己憐憫だけでなく、自己への不信も含まれている。語り手は、自分が傷ついているだけでなく、その傷によって自分自身が悪く変わってしまう可能性を理解している。ここに、単なる「かわいそうな自分」の歌に収まらない深さがある。
3. 制作背景・時代背景
「Please, Please, Please, Let Me Get What I Want」は、1984年8月にリリースされた「William, It Was Really Nothing」のB面曲として登場した。同シングルの12インチ盤には「How Soon Is Now?」も収録されており、結果的にThe Smithsの重要曲が一枚に集まったリリースとなった。
1984年のThe Smithsは、デビュー・アルバム『The Smiths』を発表し、英国インディー・シーンで急速に存在感を高めていた時期である。同年の『Hatful of Hollow』は、ラジオ・セッションやシングル曲をまとめた編集盤で、スタジオ・アルバムとは異なる形で初期The Smithsの魅力を伝える作品となった。
この曲の録音は非常に簡潔で、バンド全体が大きく鳴るタイプではない。Johnny Marrのアコースティック・ギターを中心に、短いマンドリン風の響きが加わり、Morrisseyの声が静かに置かれる。The Smithsの中でも、特に余白を生かした曲である。
1980年代前半の英国ポップには、シンセポップやニュー・ロマンティックの派手な音像が広がっていた。その中でThe Smithsは、ギター・バンドとして異なる方向を示した。特にこの曲は、装飾を削ぎ落とすことで、ギターと声だけでも強い感情表現が可能であることを示している。
4. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の引用は、批評・解説に必要な範囲にとどめる。
Please, please, please
和訳:
どうか、どうか、どうか
この反復は、曲の性格を決定づけている。語り手は要求しているのではなく、懇願している。強い権利主張ではなく、ほとんど祈りに近い姿勢である。
Let me get what I want
和訳:
僕が望むものを手に入れさせてほしい
この一節では、願いの内容があえて具体化されない。だからこそ、歌詞は個人的であると同時に普遍的でもある。聴き手は、恋愛、承認、平穏、幸福など、それぞれの欠落をこの言葉に重ねることができる。
この曲では、歌詞の短さが重要である。多くを語らないことで、言葉の周囲に大きな余白が生まれる。その余白が、曲を単なる失望の歌ではなく、静かな祈願の歌にしている。
5. サウンドと歌詞の考察
「Please, Please, Please, Let Me Get What I Want」のサウンドは、The Smithsの楽曲の中でも特に控えめである。大きなドラムの展開や、鋭いエレクトリック・ギターのリフはない。曲の中心にあるのは、Johnny Marrのアコースティック・ギターと、Morrisseyの抑制されたボーカルである。
Marrのギターは、非常に繊細に響く。コードの動きはシンプルに聞こえるが、響きには独特の陰影がある。曲が短いため、余計な装飾を入れる余地はほとんどない。その中で、ギターは歌詞の願いを支える静かな土台になっている。
曲の終盤に現れるマンドリン風のフレーズも印象的である。この短い楽器の響きは、曲に一瞬だけ別の光を与える。希望が確実に訪れるわけではないが、完全な絶望でもない。その微妙な感覚が、短いフレーズによって表されている。
Morrisseyの歌唱は、ここでは過剰に演劇的ではない。彼の声にはいつもの癖や独特の節回しがあるが、曲全体としてはかなり抑制されている。だからこそ、歌詞の懇願が大げさな芝居ではなく、静かな本音として聞こえる。
この曲の強さは、感情を盛り上げすぎない点にある。通常、願いや祈りを歌う曲は、後半で大きく展開することが多い。しかしこの曲は、短いまま終わる。願いが叶ったかどうかは示されない。聴き手は、願いの途中で曲から離されることになる。
その未完の感覚が、この曲を印象的にしている。語り手は、何かを得たわけではない。ただ、望んでいる。その状態だけが音楽として残る。The Smithsの楽曲には、欲望が満たされないまま宙づりになるものが多いが、この曲はその最も簡潔な例である。
「How Soon Is Now?」と比較すると、この曲の静けさは際立つ。「How Soon Is Now?」が巨大なギター・サウンドで孤独を描くのに対し、「Please, Please, Please, Let Me Get What I Want」は、ほとんどささやきのような形で孤独と願いを表す。どちらもThe Smithsの重要曲だが、表現方法は対照的である。
また、この曲が多くの映画やカバーで使われてきた理由も理解しやすい。歌詞が具体的な物語を持たないため、さまざまな場面に重ねることができる。恋愛、失敗、青春、喪失、願望の場面に自然に寄り添う。短く、静かで、感情の焦点が明確だからこそ、映像作品との相性も高い。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Asleep by The Smiths
The Smithsの中でも特に静かで沈んだ曲である。「Please, Please, Please, Let Me Get What I Want」と同じく、願いや疲労が最小限の音で表現されている。ただし、こちらはより死や眠りに近い感覚を持つ。
- That Joke Isn’t Funny Anymore by The Smiths
傷つける冗談や孤独を扱った曲で、Morrisseyの歌詞の内省的な面が強く出ている。長めの構成の中で、感情がゆっくり沈んでいく点が特徴である。
- I Know It’s Over by The Smiths
『The Queen Is Dead』収録の重要曲で、自己憐憫、拒絶、孤独が大きなスケールで描かれる。「Please, Please, Please, Let Me Get What I Want」の短い祈りを、より長く劇的に展開した曲として聴ける。
- There Is a Light That Never Goes Out by The Smiths
The Smithsの代表的なロマンティックな楽曲である。死のイメージを含みながらも、強い憧れと逃避願望がある。叶わない願いを美しいメロディに変える点で共通している。
Joy DivisionからNew Orderへ受け継がれた楽曲で、喪失と再生の感覚を持つ。The Smithsとは音楽性が異なるが、短い言葉とギターの響きで、曖昧な希望を描く点に近さがある。
7. まとめ
「Please, Please, Please, Let Me Get What I Want」は、The Smithsが1984年に発表したB面曲でありながら、バンドの代表的な楽曲のひとつとして長く聴かれている。短い曲尺、簡潔な歌詞、控えめなアレンジによって、願いと諦めが非常に濃く表現されている。
歌詞は、今度こそ望むものを得たいという単純な願いを中心にしている。しかし、その願いが具体的に明かされないため、曲は個人的な告白であると同時に、多くの人が自分の経験を重ねられる歌になっている。
サウンド面では、Johnny Marrの繊細なギターと、Morrisseyの抑制された歌唱が中心である。曲は大きく盛り上がらず、短いまま終わる。その未完のような構造が、願いがまだ叶っていない状態をそのまま音楽にしている。
この曲は、The Smithsの魅力を最小限の形で示している。皮肉よりも祈り、装飾よりも余白、物語よりも感情の一点が重視されている。だからこそ、B面曲でありながら、The Smithsの作品群の中でも特別な位置を占めている。
参照元
- Discogs – The Smiths / William, It Was Really Nothing
- Discogs – The Smiths / Hatful of Hollow
- Apple Music – Hatful of Hollow
- Spotify – Please, Please, Please, Let Me Get What I Want
- Wikipedia – Please, Please, Please, Let Me Get What I Want
- Pitchfork – The Smiths Complete Review
- Pitchfork – She & Him Cover the Smiths for 500 Days of Summer Soundtrack

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