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ジャングル・ポップを知るなら、まず名盤から
ジャングル・ポップは、きらびやかに鳴るエレクトリックギターと軽快なリズム、親しみやすいメロディを軸にしたロック/ポップのスタイルである。とりわけ1980年代のアメリカやイギリスのインディーシーンで存在感を強め、のちのインディーポップやオルタナティブロックにも大きな影響を与えた。
このジャンルは明確な境界を持つというより、「ジャングリー」と形容されるギターサウンドを共有するアーティストを横断的に捉える場合が多い。そのため、R.E.M.のようなカレッジロックの代表格から、The Smiths、The Go-Betweens、The Feelies、The Churchまで、異なる背景を持つバンドが同じ文脈で語られている。
最初に聴くなら、個々の楽曲だけでなくアルバム単位で触れるのがおすすめである。ギターの響かせ方、リズムセクションとの組み合わせ、フォークやポストパンクからの影響などを比較すると、ジャングル・ポップという言葉が指す音の広がりが見えてくるからだ。
ジャングル・ポップとはどんなジャンルか
ジャングル・ポップの「ジャングル」とは、密林を意味する「jungle」ではなく、ギターが「jangly」と鳴る感触に由来する。代表的なのは、クリーントーンを基調とした高音域のギター、アルペジオや開放弦を生かしたコード、そして12弦ギターなどによる明るく倍音豊かな響きである。
その源流として欠かせないのが1960年代のThe Byrdsだ。Roger McGuinnが鳴らした12弦ギターは、その後のギターポップにとって重要な参照点となった。1980年代になると、ポストパンク以降のDIY的なバンド文化とこのギター感覚が結びつき、R.E.M.をはじめとするアメリカのカレッジロックや、イギリス、オーストラリアのインディーバンドへ広がっていく。
パワーポップほどギターリフや大きなコーラスを前面に押し出すとは限らず、ドリームポップほど音響処理を中心に据えるわけでもない。むしろギターの細かなストロークやアルペジオをポップな楽曲の骨格として使うところに、このスタイルならではの魅力がある。
ジャングル・ポップの名盤10選
1. Murmur by R.E.M.
1983年に発表されたR.E.M.のデビューアルバム『Murmur』は、1980年代のアメリカン・インディーを語るうえで避けて通れない一枚である。ジョージア州アセンズから登場した彼らは、この作品によってカレッジラジオを中心とする新しいロックの流れを象徴する存在となった。
Peter Buckのギターは歪みに頼らず、アルペジオやコードストロークによって曲を動かしていく。Michael Stipeの輪郭をあえて曖昧にした歌唱、Mike MillsとBill Berryによるしなやかなリズムセクションも重要で、「Radio Free Europe」や「Talk About the Passion」には初期R.E.M.の特徴が凝縮されている。
ジャングル・ポップを初めて聴くなら最優先で触れたい作品だ。ギターの音色だけでなく、そのサウンドが1980年代のオルタナティブなロックにどう組み込まれたのかまで理解できる。
2. The Queen Is Dead by The Smiths
1986年発表の『The Queen Is Dead』は、The Smithsの代表作であり、1980年代イギリスのギターロックを象徴するアルバムのひとつである。バンド自体はインディーロックやオルタナティブロックとして広く扱われるが、Johnny Marrのギタースタイルはジャングル・ポップを理解するうえでも重要だ。
Marrは単純なパワーコードだけで押すのではなく、コードの構成音を分散させ、複数のギターパートを重ねながら豊かな響きを作る。「Cemetry Gates」や「The Boy with the Thorn in His Side」では、その繊細なギターワークとMorrisseyの旋律が自然に結びついている。
ポップソングとしての完成度が高いため、ジャングリーなギターに馴染みがない人でも入りやすい。ギター単体ではなく、ヴォーカルを支えるアレンジとして聴くと魅力がつかみやすい作品である。
3. 16 Lovers Lane by The Go-Betweens
オーストラリアのThe Go-Betweensが1988年に発表した『16 Lovers Lane』は、ジャングル・ポップとインディーポップが交差する地点を知るのに適した一枚である。Robert ForsterとGrant McLennanという二人のソングライターを擁する彼らは、文学的な歌詞と端正なギターポップを組み合わせて独自の立ち位置を築いた。
このアルバムでは初期作品にあったポストパンク的な硬質さが薄まり、アコースティックギターやヴァイオリンなどを交えた柔らかなアレンジが目立つ。「Streets of Your Town」はその特徴がわかりやすく、軽やかなギターと明快なメロディによって親しみやすいポップソングに仕上がっている。
ジャングル・ポップを激しいロックではなく、メロディ中心のギターポップとして聴きたい人には特におすすめできる。
4. Crazy Rhythms by The Feelies
ニュージャージー出身のThe Feeliesが1980年に発表したデビュー作『Crazy Rhythms』は、ジャングル・ポップが1980年代に発展していく直前の重要な作品である。ポストパンク、ニューウェイヴ、アートロックなど複数の要素を持ちながら、後続のアメリカン・インディーにつながるギターアンサンブルを提示した。
タイトル通りリズムへの意識が強く、乾いたパーカッションと反復的なギターが曲を前へ進めていく。派手なディストーションではなく、細かなストロークや単音のフレーズを重ねて緊張感を作る手法が特徴だ。
R.E.M.のようなバンドが登場する前段階を知りたい人には格好の作品である。ジャングリーなギターが必ずしも甘いポップサウンドだけを意味しないことも、このアルバムから理解できる。
5. Fables of the Reconstruction by R.E.M.
1985年の『Fables of the Reconstruction』は、初期R.E.M.のジャングリーなギターを残しながら、より暗く複雑なサウンドへ踏み込んだ作品である。プロデューサーにJoe Boydを迎え、アメリカ南部を思わせる物語性とフォーク的な感触が強く表れている。
「Driver 8」ではPeter Buckらしいギターの反復と力強いリズムが組み合わされ、バンドの魅力が非常にわかりやすい。一方でアルバム全体には『Murmur』とは異なる重さがあり、同じバンドでもジャングル・ポップ的なギターを多様な方向へ発展させられることがわかる。
『Murmur』を聴いて初期R.E.M.をさらに掘り下げたくなった人におすすめしたい一枚である。
6. Starfish by The Church
オーストラリアのThe Churchが1988年に発表した『Starfish』は、ジャングル・ポップとサイケデリックロック、ドリームポップ的な音響感覚が接近した作品として聴くことができる。
代表曲「Under the Milky Way」の印象が強いが、アルバム全体ではMarty Willson-PiperとPeter Koppesによる二本のギターが重要な役割を担う。アルペジオやエフェクトを組み合わせた立体的なギターサウンドは、単純なコードストロークとは違ったジャングリーな響きを作っている。
明るく軽快なタイプだけでなく、もう少し広がりのあるギターサウンドを聴きたい人に向いている。ジャングル・ポップからドリームポップ方面へ進む橋渡しとしても興味深い作品だ。
7. Especially for You by The Smithereens
ニュージャージーのThe Smithereensが1986年に発表した『Especially for You』は、1960年代のロックやポップから受け継いだメロディ感覚を、1980年代のギターバンドとして再構成した作品である。
「Blood and Roses」などに代表されるように、彼らのサウンドはR.E.M.ほど繊細一辺倒ではなく、より骨太なロックの感触を持っている。それでも、明快なコード進行、キャッチーな旋律、ヴィンテージなギターサウンドという点ではジャングル・ポップやパワーポップとの接点が多い。
ジャングル・ポップから少しロック寄りの作品へ進みたい人におすすめである。The ByrdsやThe Beatlesから1980年代のオルタナティブロックへつながる系譜も感じ取りやすい。
8. Life’s Rich Pageant by R.E.M.
1986年発表の『Life’s Rich Pageant』では、R.E.M.のサウンドがそれまで以上に力強くなった。Don Gehmanをプロデューサーに迎え、ヴォーカルやドラムを明瞭に押し出しながら、Peter Buckのギターも鋭さを増している。
「Fall on Me」のような楽曲では、ジャングリーなギターと美しいコーラス、簡潔なポップソングとしての構成が高い水準でまとまっている。一方、「Begin the Begin」のようにロックバンドとしての重量感を前面に出す曲もある。
初期インディー期のR.E.M.から、後年の世界的ロックバンドへ向かう途中を記録した作品でもある。ジャングル・ポップがより大きなロックサウンドと共存できることを示す好例だ。
9. The Good Earth by The Feelies
The Feeliesが1986年に発表したセカンドアルバム『The Good Earth』は、『Crazy Rhythms』から約6年を経て制作された作品である。Peter Buckが共同プロデューサーとして参加している点からも、R.E.M.周辺のアメリカン・インディーとのつながりが見えてくる。
デビュー作の神経質なリズム感と比較すると、ここではアコースティックギターを含む自然なアンサンブルが前面に出ている。反復するギターフレーズを少しずつ積み重ねていく構成にはThe Feeliesらしさが残りつつ、全体としてはより温かく聴きやすい。
『Crazy Rhythms』より穏やかな作品から入りたい人にも適しており、1980年代アメリカのジャングル・ポップとフォークロックの接点を知ることができる。
10. Green by R.E.M.
1988年の『Green』は、R.E.M.がメジャーレーベルのWarner Bros.へ移籍して発表したアルバムである。初期のジャングル・ポップ的な感触を残しながら、より幅広いサウンドへ進んだ転換点として重要な作品だ。
「Stand」のような明快なポップナンバーがある一方、アコースティックな曲やマンドリンを取り入れた曲もあり、バンドの音楽的な選択肢が大きく広がっている。ジャングリーなギターだけでアルバム全体を統一するのではなく、それをひとつの語彙として扱っているところがポイントである。
初期R.E.M.の作品よりポップな入口を求める人には聴きやすい。1980年代のインディー/カレッジロックが1990年代のオルタナティブロックへ接続していく過程を知るうえでも重要な一枚だ。
初心者におすすめの3枚
最初の一枚として最もおすすめしやすいのは、R.E.M.の『Murmur』である。ジャングリーなギター、独特のヴォーカル、フォークロックから受け継いだメロディとポストパンク以降の感覚が一枚にまとまっており、1980年代型ジャングル・ポップの基本を理解しやすい。
よりメロディのわかりやすさを重視するなら、The Smithsの『The Queen Is Dead』がよい。Johnny Marrのギターを意識して聴くと、コードをただ鳴らすのではなく、細かなフレーズを組み合わせながら楽曲を構築するジャングリーなギタースタイルがよくわかる。
さらに柔らかなポップサウンドを求めるなら、The Go-Betweensの『16 Lovers Lane』がおすすめだ。フォークやインディーポップに近い親しみやすさがあり、ジャングル・ポップから別のギターポップへ聴き進める入口にもなる。
この3枚を順番に聴けば、アメリカのカレッジロック、イギリスのインディーロック、オーストラリアのギターポップという異なるシーンから、ジャングル・ポップの輪郭を捉えられるはずだ。
関連ジャンルへの広がり
ジャングル・ポップを気に入ったなら、まずインディーポップへ広げると自然である。ギターの音色だけでなく、シンプルな編成、親しみやすいメロディ、インディーレーベルを中心とした文化まで含めて共通点が多い。The Go-Betweensのようなバンドは、その接点を理解するうえでわかりやすい存在だ。
もうひとつ重要なのがパワーポップである。こちらはThe BeatlesやThe Whoなど1960年代のポップ/ロックから受け継いだキャッチーなメロディと、より力強いギターを特徴とする場合が多い。The Smithereensのようなバンドを経由すると、ジャングル・ポップとの違いと共通点をつかみやすい。
さらにThe Churchのような奥行きのあるギターサウンドが好みなら、ドリームポップやサイケデリックロックへ進むのもよい。逆にR.E.M.やThe Feeliesのバンド感に惹かれたなら、カレッジロックや1980年代以降のオルタナティブロックを掘り下げることで、このスタイルが後世へ与えた影響を追うことができる。
まとめ
ジャングル・ポップは、ひとつの決まったサウンドだけで定義できるジャンルではない。R.E.M.の『Murmur』にはアメリカン・インディーの感覚があり、The Smithsの『The Queen Is Dead』には緻密なギターアレンジがあり、The Go-Betweensの『16 Lovers Lane』にはインディーポップへつながるメロディの強さがある。
まずは『Murmur』『The Queen Is Dead』『16 Lovers Lane』の3枚から入り、ギターの鳴り方に注目して聴き比べるとよい。その後、The Feeliesで1980年代アメリカの地下シーンを掘り下げたり、The Churchからドリームポップ方面へ進んだりすることで、ジャングル・ポップの広がりが見えてくる。
そして1960年代のThe Byrdsまで遡れば、なぜ1980年代のインディーバンドがこのギターサウンドを受け継いだのかも理解しやすくなる。ジャングル・ポップの名盤は、インディーポップやカレッジロック、パワーポップ、オルタナティブロックへと聴き進めるための入口でもある。

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