アルバムレビュー：Petitioning the Empty Sky by Converge

アルバムレビュー

2025.05.10

発売日: 1996年（初版）、2005年（再編・再発盤）
ジャンル: カオティック・ハードコア、メタルコア、ポストハードコア

概要
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム（5枚）
後続作品とのつながり
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概要

『Petitioning the Empty Sky』は、Convergeが1996年に発表した**セカンド・フルアルバム（もしくはEP＋ライブのコンピレーションとされることもある）**であり、**後のメタルコア／カオティック・ハードコアという文脈を切り開く“革新の序章”**として語り継がれている。

自主盤『Halo in a Haystack』（1994）からわずか2年、本作においてConvergeはハードコアの怒りとメタルの重厚感、そしてエモーショナルな自己探求を大胆に融合。
とくに、「The Saddest Day」は以後の代表曲となり、シーンの象徴的なアンセムとして数多くのバンドに影響を与える。

タイトルの「Petitioning the Empty Sky（空虚な空への嘆願）」は、神なき世界で叫ぶ存在の痛みや、届かない祈りを繰り返す精神の孤独を象徴しており、本作全体に通底するテーマでもある。
録音・構成ともにラフで荒削りな側面を残しつつ、Convergeはこの作品で感情のダイナミズムと構築のバランスという独自性を一気に開花させる。

全曲レビュー

1. The Saddest Day

Converge初期の代表曲にして、ジャンルの壁を越える金字塔。
冒頭の切迫したリフから、ジェイコブ・バノンの悲痛な叫びが走り出す。
**「これこそがメタルコアの原点」**と評されるほどの影響力を持ち、複雑な構成とエモーショナルな爆発が共存した完璧な一曲。

2. Forsaken

タイトなリフとスラッジ的な重量感が際立つミドルテンポの楽曲。
「捨てられた者」としての自己を描きながら、怒りと諦念が交差する内的葛藤をえぐり出す。
激情とストイックさのバランスが絶妙。

3. Albatross

重く、執拗に繰り返されるギターとリズムの波。
“アホウドリ”という象徴的タイトルが示すように、罪と贖罪、背負うべき十字架がモチーフとなっている。
メタリックでスローな展開が、精神的な重圧を形にしている。

4. Dead

瞬発的に爆発し、1分強で終わる短いカオス。
ハードコアの原点を思わせる無慈悲な衝動が前面に出ており、シンプルな構成ながら全体の緊張感を高める。

5. Shingles

ライブ感が強く、ノイズとブレイクを繰り返しながら、精神的に“ひび割れた”状態を音で描写するような不安定な構成。
タイトルの「Shingles（帯状疱疹）」も、内的苦痛のメタファーと読める。

6. Buried But Breathing

『Halo in a Haystack』収録曲の再録。
より攻撃的に、より緻密にブラッシュアップされており、Convergeが自らの過去をアップデートしていくプロセスがうかがえる。
“埋められていても呼吸している”というコンセプトは、死生観を揺さぶるような存在論的メッセージ。

7. Farewell Note to This City

パンクに近い疾走感を持ちながらも、コードワークとブレイクで破壊と抒情を往復する楽曲。
“この街への別れの手紙”というタイトルからは、過去の自分や場所への決別を感じさせる。

8. Color Me Blood Red

サイケ的要素も含んだ、Converge流スラッジ・ナンバー。
不気味なイントロと粘着質な展開が、アルバムの終盤に“血のような感情の濃度”を与えている。
暴力的だがどこか哀しみを感じる不思議な魅力を持つ。

総評

『Petitioning the Empty Sky』は、Convergeが“感情と構造の両立”というスタイルを確立する前段階として、圧倒的な熱量で聴き手に挑みかかる記録である。
音質や構成には荒さが残るが、それを補って余りあるほど、楽曲の熱量と叫びの切実さが突出している。

ジェイコブ・バノンの叫びは、怒りというよりも祈りに近い。
それは空虚な空に対して行われる無力な行為かもしれないが、だからこそ**“届かないこと自体が価値となる”ような表現**として成立しているのだ。

この作品は、後の傑作『Jane Doe』のような構築美はまだ獲得していない。
しかしその代わりに、**“感情のままに音が変形していくような凶暴さと透明さ”**があり、Convergeというバンドが“叫びと芸術”の両方を本気で追い求めていたことが明確に伝わってくる。

後続作品とのつながり

『Petitioning the Empty Sky』で提示された**“暴力的な感情と構造の葛藤”**は、次作『When Forever Comes Crashing』でより洗練され、2001年の『Jane Doe』でひとつの完成形へと到達する。
その流れにおいて本作は、原点以上に“方法論の試行錯誤”という意味で非常に重要な橋渡しとなっている。

また、複数曲がのちのライブでも繰り返し演奏されることからもわかる通り、Convergeの“現在”を支える礎として今なお息づいている作品である。
それはまさに、“空虚な空に嘆願した声”が、時を超えて響き続けている証拠なのである。