1. 歌詞の概要
「Pattern Against User」は、At the Drive-Inが2000年にリリースした名盤『Relationship of Command』の中盤に収録された楽曲であり、バンドの代名詞である爆発的なテンション、実験的な構成、社会への鋭利な批評精神を象徴する一曲である。
このタイトルは直訳すると「ユーザーに抗するパターン」。ここでの“ユーザー”とは、社会の消費者・情報の受信者・管理された個人など、現代の自己喪失した主体の象徴であり、そのユーザーに対して作用する“パターン=見えない構造・抑圧の連鎖”を意味している。
歌詞は一見支離滅裂で、抽象的かつ難解な言葉が次々に飛び出すが、その背後には明確な怒りと混乱がある。
それは、自己と他者の境界が曖昧になり、情報と権力に呑み込まれていく現代人の不安と暴力的なリアリティだ。
この曲はその苛立ちを音と詩の両面で爆破し、ポストモダン社会における“存在の脆さ”そのものを音楽に変換している。
2. 歌詞のバックグラウンド
At the Drive-InのフロントマンであるCedric Bixler-Zavalaは、この曲について明言は避けているが、バンドの全体的な文脈を踏まえると、これは単なるラブソングや自己告白ではない。
むしろここで語られているのは、アイデンティティの消耗、制度的な暴力、そして社会における“観察される個人”の運命である。
「Pattern Against User」は、セドリックとギタリストOmar Rodríguez-Lópezが長年興味を持っていた構造主義、ポスト構造主義的なテーマ――例えば「見る/見られる」「記録する/される」「操作する/される」という二項対立の解体――が色濃く反映された作品であり、音楽というよりも“思考の断面”に近いとも言える。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、楽曲の印象的な歌詞を抜粋し、和訳とともに紹介する。
Pattern against user / Dilated bastard waiting for nothing
ユーザーに抗うパターン 何も待たずに広がりゆくろくでなしOscillating the apparent / Flickering between dull and dumb
明滅しながら揺れ動く 鈍さと愚かさのあいだで点滅するRecline / This is the new design
背を倒せ これが新たなデザイン(支配構造)だPut the “o” in office / Then yeah, yeah it’s officious
“O”を“Office(権力の場)”にねじ込めば それは傲慢な指示命令へと変わる
出典:Genius.com – At the Drive-In – Pattern Against User
この歌詞の背後には、「君はシステムに組み込まれている」という絶望的なメッセージが潜む。
“Recline”という命令形は、単なる身体動作のようでいて、服従や思考停止の象徴であり、「新たなデザイン」は、自分の意志すら“誰か”によって設計されているという示唆でもある。
4. 歌詞の考察
この曲は、At the Drive-Inが得意とする「言葉によるカットアップ的世界認識」が最も鮮烈に現れた例のひとつである。
断片的な言葉の連なりは、意味不明であればあるほど、現代社会の“意味過多”に対する拒絶として機能している。
「ユーザー(User)」という言葉の選択は偶然ではない。
インターネット、メディア、国家権力、製薬会社、宗教、教育システム――あらゆる“支配の仕組み”のなかで、我々は自覚的であれ無自覚であれ「使われている」存在なのだ。
その構造=“Pattern”に対して、この曲は明確に「NO」を突きつけている。
また、音楽的には不安定な拍子、唐突なリズムチェンジ、叫びと囁きの交錯によって、秩序のない時代を生きる者の内面を具現化している。
怒り、困惑、諦め、ユーモア――あらゆる感情がひとつの波となり、最後には制御不能なエネルギーの爆発として昇華される。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Sleepwalk Capsules by At the Drive-In
テクノロジーと人体、人工物と意識の融合を描いた前衛的ポストハードコア。 - Glass House by Screaming Females
パターンと自己のあいだで揺れる叫びが、鋭いギターとともに炸裂する。 - Please, Please, Please Let Me Get What I Want by The Smiths
一見まったく異なるが、「見られる存在の悲哀」をテーマにした内省の古典。 - Love Rhymes with Hideous Car Wreck by Blood Brothers
暴力的な比喩とハイテンションなヴォーカルで現代的感情の混乱を具現化。
6. ユーザーは誰なのか? ― 制御と観察の時代に抗うサウンド
「Pattern Against User」は、2000年代初頭における社会構造と個人の関係性を予言的に撃ち抜いた作品である。
テクノロジーが加速し、個人が「商品」として分解される時代において、
At the Drive-Inはこの曲で、**「誰が誰を見ているのか?」「君は君自身か?」「お前は操作されていないか?」**と問い続ける。
**「Pattern Against User」**は、
自分の名を呼ばれない世界で、
自分という名を必死に守ろうとする者たちの戦いのテーマ曲である。
音は混乱している。言葉もバラバラだ。
だが、その混沌の中にこそ、最もリアルな“現代の自画像”が存在している。
そして、その叫びは今なお、耳の奥で警報のように鳴り響いている。
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