アルバムレビュー：Painting With by Animal Collective

発売日: 2016年2月19日
ジャンル: エクスペリメンタルポップ、サイケデリックポップ、アヴァンポップ

Painting Withは、Animal Collectiveが2016年にリリースした10作目のスタジオアルバムで、彼らのサウンドがよりポップで直接的な方向へと進化した作品だ。過去作のような広がりのあるサイケデリックサウンドから、タイトでリズミカルな構造へとシフトし、アヴァンポップの要素が強く表れている。シンセサイザーとサンプリングを多用し、断片的でありながらもカラフルなサウンドスケープを作り出している。全体的に、遊び心にあふれ、速いテンポで展開される楽曲が多く、明るくエネルギッシュな作品となっているが、Animal Collectiveならではの実験性は健在である。

各曲ごとの解説:

FloriDada
　アルバムのオープニングトラックで、明るくエネルギッシュなビートとキャッチーなメロディが際立つ。Dadaアートにインスパイアされた遊び心にあふれた楽曲で、シンセサイザーがリズミカルに鳴り響き、ボーカルの掛け合いが印象的。リスナーをアルバムの軽快な雰囲気に引き込む。
Hocus Pocus
　急速なテンポとリズミカルなシンセのパターンが目立つ楽曲。抽象的で断片的な歌詞が、不安定さと楽しさを同時に感じさせる。動きのあるサウンドデザインが、Animal Collectiveの遊び心を前面に押し出している。
Vertical
　シンセのフレーズが中心となり、緊張感のあるビートが印象的。少し暗めのトーンがアルバム全体の明るい曲調とは対照的で、ボーカルとシンセのリフが複雑に絡み合う。スリリングでエクスペリメンタルな構造が耳に残る。
Lying in the Grass
　キャッチーなメロディと軽快なリズムが特徴のトラック。ボーカルの掛け合いが楽曲全体を引き立てており、シンプルながらも中毒性のあるメロディラインが印象的だ。動きのあるサウンドスケープが、このアルバムのポップで楽しい側面を強調している。
The Burglars
　速いテンポのシンセと跳ねるようなリズムが特徴の曲で、軽やかなビートが聴いていて楽しい。歌詞は断片的で、ボーカルのリズミカルなフレージングが際立つ。音の断片が組み合わさって、サウンドのパズルを構築しているような感覚がある。
Natural Selection
　エネルギッシュなビートとシンセのリフが繰り返され、緊張感のある展開が特徴的。ボーカルのエコーと繊細なサウンドデザインが、曲全体に幻想的な雰囲気を与えている。実験的な要素が強く、独特なリズムの変化が印象的。
Bagels in Kiev
　比較的ミニマルな構成で、ボーカルが中心に据えられているトラック。控えめなシンセと柔らかいリズムが楽曲を包み込み、内省的で感情豊かな一面が表れている。歌詞には故郷や喪失感がテーマとして描かれており、アルバム全体の中で落ち着いたトーンの楽曲。
On Delay
　アップテンポでありながらも、ゆるやかに流れるシンセが印象的なトラック。ボーカルの掛け合いとリズムの多層性が目立ち、動きのあるサウンドスケープを形成している。サイケデリックな要素が控えめに盛り込まれ、心地よい浮遊感が感じられる。
Spilling Guts
　断片的なシンセと速いビートが絡み合うアグレッシブなトラック。複雑なリズムと変則的な展開が、Animal Collectiveの実験性を強く感じさせる。カオスと秩序が同時に存在するようなサウンドで、リスナーを圧倒するエネルギーに満ちている。
Summing the Wretch
　不穏な雰囲気を漂わせるトラックで、低音のシンセと不規則なリズムが特徴的。ボーカルは控えめに配置され、サウンドの緊張感が増している。ミニマルな要素とサイケデリックな要素が交差し、実験的なサウンドの冒険を感じさせる。
Golden Gal
　明るく、キャッチーなサウンドが特徴のこの曲は、アルバムの中でも特にポップな一曲。サンプルの使用や軽快なビートが耳に残り、シンプルでありながらも楽しいエネルギーに満ちている。ポップなメロディラインと実験的なサウンドが見事に融合している。
Recycling
　アルバムの締めくくりにふさわしい、動きのあるビートと柔らかなメロディが融合したトラック。ポップでありながらも実験的な要素が随所に散りばめられており、アルバム全体を通してのテーマを再確認させるような構成となっている。

アルバム総評:

Painting Withは、Animal Collectiveが持つ遊び心と実験精神をポップなアプローチで具現化した作品である。過去の作品に比べて、曲構成はよりタイトで速いテンポを持ち、ポップな感覚が強調されている。しかしながら、その中には依然として複雑なリズムやサウンドの重層性があり、バンドの実験的な側面が色濃く反映されている。特に「FloriDada」や「Golden Gal」はキャッチーでありながらも、音の遊びが詰まった楽曲だ。全体を通してカラフルでエネルギッシュな作品となっており、Animal Collectiveの新たな方向性を示す一作である。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚:

Centipede Hz by Animal Collective
Painting Withの前作で、エレクトロニックなサウンドと複雑なリズムが前面に出た作品。よりアグレッシブで実験的なサウンドが特徴で、エネルギッシュな楽曲が詰まっている。
Person Pitch by Panda Bear
Animal CollectiveのメンバーPanda Bearによるソロアルバム。アンビエントやサイケデリックな要素が強く、ドリーミーでありながらも実験的な音作りがPainting Withと共鳴する。
Veckatimest by Grizzly Bear
ポップと実験音楽が融合したアルバムで、複雑なハーモニーと緻密なアレンジが特徴。Animal Collectiveのファンには、この音響的な冒険と繊細なメロディが響くだろう。
The Age of Adz by Sufjan Stevens
エレクトロニカとオーケストラ要素を融合させた実験的なアルバム。複雑な構成とポップなメロディがPainting Withの持つカラフルなエネルギーに通じる。
Odd Blood by Yeasayer
エクスペリメンタルなポップとエレクトロニックサウンドが特徴のアルバムで、キャッチーなメロディと実験的なアレンジがPainting Withと共鳴する。明るくエネルギッシュな曲が多く、リスナーを楽しませる。