
1. 歌詞の概要
U2の「One」は、1991年にリリースされたアルバム『Achtung Baby』に収録された楽曲であり、世界中のリスナーに深い感動を与え続けているバラードである。表向きはラブソングのようにも見えるが、その本質はもっと複雑で、普遍的なテーマ——人間関係の修復、赦し、連帯、そして痛みを抱えたまま共に生きていくこと——が中心に据えられている。
タイトルの「One」は、「ひとつであること」や「つながり」を意味し、曲中では「愛」と「違い」「葛藤」と「連帯」のあいだで揺れる人間の関係性が繊細に描かれている。語り手は、相手との関係が壊れかけていることを自覚しつつも、その中でなおつながり続けようとする希望を失っていない。痛みを共有しながら、それでも一緒にいようとすること。その矛盾を抱えたまま進んでいく意志が、この曲にはこめられている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「One」が誕生したのは、U2が音楽的にも人間関係的にも大きな転換点に立っていた時期だった。前作『The Joshua Tree』によって大成功を収めた後、バンドは新しい方向性を模索していたが、その過程で内部の衝突が激化していた。そんな中、ベルリンで行われたレコーディング・セッションで奇跡的に生まれたのが、この「One」である。
きっかけは、ギタリストのエッジ(The Edge)が弾いたコード進行にボノが即興で歌を重ねたことだったという。セッション中に突然空気が変わり、沈んでいたメンバーたちの間に希望が差し込んだ瞬間だったとされる。その感覚が、そのまま楽曲の中心にある「赦しと再生」というテーマに昇華された。
この楽曲はリリース当時、エイズ支援のためのチャリティ・シングルとしても用いられ、そのメッセージは個人的な愛の物語を越えて、より広い社会的文脈へと拡張されていった。まさに「個」と「世界」をつなぐ一曲として、今なお世界中で愛され続けている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「One」の中でも象徴的な一節を抜粋し、日本語訳とともに紹介する。
Is it getting better
状況は良くなっているのかい
Or do you feel the same?
それとも、変わらず苦しいままかい?We’re one, but we’re not the same
僕らは“ひとつ”だ でも同じではない
We get to carry each other, carry each other
それでも僕らは、お互いを支え合うんだLove is a temple, love a higher law
愛は神殿であり、もっと高次の掟
You ask me to enter, but then you make me crawl
君は僕に入れと言う、でもその後で地を這わせるんだ
出典:Genius – U2 “One”
4. 歌詞の考察
「One」は、愛と人間関係の本質を、理想化することなく非常にリアルに描いている。歌詞は甘い言葉に満ちているわけではなく、むしろ関係のなかで生じる傷や苛立ち、すれ違いといった“陰”の側面に正面から向き合っている。そこにこの曲の深みと、時代を超える普遍性が宿っている。
「We’re one, but we’re not the same(僕らは“ひとつ”だけど、同じじゃない)」というラインは、「違い」を認めつつ「つながる」ことの困難と尊さを象徴している。人は他者と完全に理解しあうことはできないが、それでも支え合い、共に生きていく——その矛盾に満ちた現実を、U2は正面から受け入れ、音楽として昇華している。
また、「You ask me to enter, but then you make me crawl(君は僕に入れと言う、でも地を這わせる)」というフレーズには、愛するがゆえの屈辱や試練が含まれており、無条件の愛がいかに難しいかを示している。それでもなお、「carry each other(支え合おう)」という結びの言葉は、絶望の中に希望の光を残してくれる。
「One」は、分断や対立が色濃くなった現代社会においても、人と人とが共に生きていくために何が必要なのかを静かに問いかけてくる。そしてその答えは、感情の一致ではなく、違いを受け入れながら続いていく「関係性の継続」そのものである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Hurt by Johnny Cash(Nine Inch Nailsカバー)
人間の脆さと赦しを静かに描いた、魂に触れるようなバラード。 - Let It Be by The Beatles
混乱の中にあっても静かに前へ進む意志を持った、普遍的な癒しの名曲。 - The Scientist by Coldplay
「戻れたら」という後悔と愛への未練をエモーショナルに描いた傑作。 - Landslide by Fleetwood Mac
変化と時間の流れ、家族や愛の喪失と受容を詩的に綴った名曲。 - Tears in Heaven by Eric Clapton
深い喪失のなかで、なお愛を見つめ続けることの意味を問いかける。
6. 「違いの中の“ひとつ”」——U2が提示する希望のかたち
「One」は、ただのラブソングではない。それは、人と人との関係における最も根源的な問いかけ——“私たちは、違っていても、共にいられるか?”というテーマに挑んだ一曲である。
U2はこの楽曲を通して、「完璧な一致」を追い求めるのではなく、「不完全なまま支え合うこと」の尊さを讃えている。ボノの声は、怒りや悲しみを経て、それでもなお歩み寄ろうとする優しさと痛みを含んでおり、その一音一音がリスナーの心に深く届く。
「One」は、恋人同士、家族、仲間、社会、そして世界といったすべての関係性に共通する、切実な感情を描いた“共感の歌”である。そして今もなお、国境や文化、宗教の壁を越えて、「私たちはどう生きるか」を問い続ける音楽として、世界中に響き渡っている。
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