発売日: 2013年6月18日
ジャンル: エレクトロポップ、シンセ・ロック、オルタナティブ・ヒップホップ
概要
『Omens』は、3OH!3が2013年に発表した4枚目のスタジオ・アルバムであり、かつての“パーティー野郎”なイメージを一度脱ぎ捨て、より内省的かつ暗めのサウンドに舵を切った異色作である。
『Want』『Streets of Gold』といった過去作では、過激で下品、キャッチーでパリピ――そんなイメージを最大限に押し出していた彼らだが、2010年代半ばを迎える頃にはエレクトロポップの過剰消費にも陰りが見えはじめていた。
そうした時代感の変化を鋭く察知し、3OH!3は『Omens』で、音の密度を減らし、ビートと空間を重視したミニマルかつダークな作風へとシフト。
“オーメン（予兆）”というタイトルが象徴するように、前作までのカラフルな享楽主義とは正反対の、不穏な空気と孤独感が全体を覆っている。
過激さを抑え、代わりに残された“自己の内面”を照射したこのアルバムは、3OH!3にとっての転機であり、同時にある種の“終章”のようにも感じられる静かな爆発作である。
全曲レビュー
1. Omens
不穏なシンセで幕を開ける表題曲。
ビートは抑制され、過去のパーティー感は完全に封印。
内省的で崩れそうなナレーション的ラップが、今作の方向性を明確に示す。
2. Eyes Closed
アルバム随一のキャッチーさを持つエレクトロ・ポップ。
“目を閉じていても君を感じられる”という歌詞には、恋愛の依存と幻想が見え隠れする。
3. You’re Gonna Love This
過去のノリの良さが一瞬戻ってくるような陽性トラック。
だがどこか力なく、明るさがフェイクのように響く。それがかえって切ない。
4. Black Hole
タイトル通り、吸い込まれるようなディープなビートとエフェクトが印象的。
「ブラックホール」は、失われた自己や愛の喪失を象徴している。
5. Make It Easy
ミニマルなシンセとファルセット気味のヴォーカルが印象的なスロウ・チューン。
「物事を簡単に考えよう」という願いとは裏腹に、不安定な心理描写が展開される。
6. Back to Life
再生＝“Back to Life”をテーマにしたアッパー寄りの楽曲。
だがビートは軽く、どこか抜け殻のような雰囲気も漂う。
7. Two Girlfriends
再び過激な3OH!3節が復活。
奔放で猥雑なテーマが炸裂するが、どこか空虚さも感じさせる奇妙なテンション。
8. Do or Die
人生の決断を迫るようなシリアスな内容。
ドラマティックなコード展開と、エモーショナルなボーカルが印象的。
9. Safe With Me
恋人を守るという約束を歌うR&B色の強いバラード。
前作には見られなかった“優しさ”が滲み出ている。
10. Youngblood
過去を振り返るノスタルジックな歌詞と、青春の“血の熱さ”を回想するトラック。
切なさと郷愁のバランスが秀逸。
11. Waste of Time
「それは無駄な時間だった」と断言するビターな別れの歌。
冷静で淡々とした語り口が、かえって感情を深く刻む。
12. Hungover
二日酔いをテーマにしたダウンテンポな曲。
比喩としての“失恋の後遺症”としても機能し、ラストトラックにふさわしい倦怠感で幕を閉じる。
総評
『Omens』は、3OH!3というグループが、それまでの派手な外向性を脱ぎ捨てて、自らの内側に静かに沈んでいく過程を音にしたアルバムである。
その意味で、この作品は“陰の名作”とも呼ぶべき存在だ。
音楽的には、これまでの暴走気味なエレクトロポップから一転し、空間系エフェクト、ミッドテンポ、ビートの間合いなど、構造的なミニマリズムが随所に見られる。
テーマも、「パーティーの後」「恋愛の空白」「繋がりの喪失」など、精神的な空洞を描くものが多く、”虚無”と”再構築”の狭間を彷徨うような、繊細なトーンが全体に漂っている。
もちろん、「You’re Gonna Love This」や「Two Girlfriends」のように過去の路線を引きずる楽曲もあるが、それらでさえどこか疲れており、意図的に“古い自分”を皮肉っているようにさえ思える。
『Omens』は、3OH!3が“イケてる不良キャラ”から、“自らの仮面を見つめる表現者”へと変わろうとした痕跡の記録である。
それは成功だったかもしれないし、失敗だったのかもしれない――だが確かに、このアルバムには「予兆」がある。
ポップの裏側にある深淵、その入り口としての予兆だ。
おすすめアルバム（5枚）
- Twenty One Pilots『Vessel』
エレクトロ、ヒップホップ、オルタナティブを横断する構成力。『Omens』の内省と地続き。 - AWOLNATION『Megalithic Symphony』
ダークでサイケなエレクトロ・ロック。ポップでありながら影のある世界観が共通。 - The Neighbourhood『I Love You.』
都会的で虚無感の漂う音像と、静かな憂いが『Omens』と共鳴する。 - Breathe Carolina『Savages』
クラブ・ロックから落ち着いたトーンへ移行した例として比較的近いポジション。 -
Jon Bellion『The Definition』
ポップでありつつ個人的・内省的な物語性に優れた作品。3OH!3の後期に似た進化を感じさせる。
後続作品とのつながり
『Omens』は、3OH!3にとってひとつの“脱皮”のような作品であった。
だが、次作『Night Sports』（2016年）では、再びクラブ・ポップ路線への回帰が見られ、よりカラフルで開放的なスタイルに戻っている。
そう考えると、『Omens』は彼らにとっての“内省の谷間”であり、いったんすべてを削ぎ落とすことで、再び何かを手にするための準備期間だったのかもしれない。
その意味で『Omens』は、3OH!3のキャリアにおけるもっとも静かで深い「間奏曲」――だが最も“真実”に近い一章だったとも言える。
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