
発売日: 2010年1月12日
ジャンル: アート・ロック、エレクトロ・ポップ、エクスペリメンタル・ロック、オルタナティブ
概要
『Of the Blue Colour of the Sky』は、OK Goが2010年にリリースした3枚目のスタジオ・アルバムであり、バンドの音楽性における大きな“進化”と“変化”を示した作品である。
タイトルは、1876年に出版された疑似科学書『The Influence of the Blue Ray of the Sunlight and of the Blue Color of the Sky』から取られており、人間の感情や健康と“青色”との関係を論じた奇書にインスパイアされている。
この文学的でコンセプチュアルな出発点からも、本作がそれまでのOK Goのキャッチーなパワーポップ路線から一歩踏み出し、より内省的かつサウンド実験的な方向へとシフトしていることがわかる。
プロデューサーには、Gnarls BarkleyやBeckを手がけたDave Fridmannを迎え、サイケデリックで歪んだサウンド、スペーシーなシンセ、分厚いエフェクトのレイヤーが特徴的な音像が構築されている。
OK Goはこのアルバムで、単なる“ビデオの面白いバンド”を脱却し、芸術的表現を音楽面でも追求するアーティストとしての立場を確立するに至った。
全曲レビュー
1. WTF?
プリンスを思わせるファンクネスと、変拍子を含む構成がユニークなオープニング。
ファズギターとファルセット・ボーカルが絡み合い、混沌の中に官能性が滲む。
バンドの“変化”を最も象徴する先制パンチのような一曲。
2. This Too Shall Pass
本作の中で最もポップかつ感動的な代表曲。
「これもまた過ぎ去る」というタイトルは、儚さと希望を同時に内包しており、OK Goの哲学性が凝縮されている。
マーチングバンド・バージョンのMVも大きな話題を呼び、彼らのビジュアル表現の頂点のひとつとなった。
3. All Is Not Lost
ミニマルなビートと繊細なボーカルで構成される、浮遊感のあるエレクトロ・ポップ。
インタラクティブMVとの連動も話題になった。
「失われたわけではない」というメッセージが、聴き手に穏やかな救いを与える。
4. Needing/Getting
のちに車を楽器に見立てた壮大なMVで注目を集めた一曲。
荒削りでパーカッシブなアレンジと、内省的なリリックが見事にマッチする。
“満たされること”の意味を問う、コンセプチュアルな楽曲。
5. Skyscrapers
ディスコ・ファンクの構造を下敷きにした、ゆるやかなグルーヴが特徴。
高層ビル=スカイスクレイパーという比喩で描かれる都市と孤独、そして美しさが静かに胸を打つ。
6. White Knuckles
疾走感あふれるダンスロック・チューン。
“必死に耐えること”のメタファーとしての「ホワイト・ナックル」が痛々しくも力強い。
犬との完璧なダンスMVでも知られ、ビジュアルと音楽の融合が最高潮に達した曲でもある。
7. I Want You So Bad I Can’t Breathe
エモーショナルな爆発を、重厚なサウンドで包み込んだ一曲。
切実な欲望と喪失感が交錯し、まるでラブレターのような内的叫びが鳴り響く。
8. End Love
スロー・テンポのアンビエント・ポップ。
タイムラプスとスローモーションの映像とともに、“終わる愛”の美学を提示する。
心拍のようなリズムと、静かなボーカルが心に残る。
9. Before the Earth Was Round
サイケデリックで実験的なアレンジが特徴の楽曲。
原始的な時代、円ではなかった地球という比喩で、無垢で不確かな時代を象徴する。
アルバム中最も“浮世離れ”した空間表現。
10. Last Leaf
アコースティック・ギター一本で進行する、異色のフォーク・バラード。
淡く切ないメロディが、アルバムの“核”として機能しており、壊れやすい感情をそのまま音にしたような静けさが魅力。
11. Back from Kathmandu
チベット風のリフと反復するフレーズが中毒性を生む、スピリチュアル・ポップ。
宗教性や異文化に対する遊び心が感じられるユニークな試み。
12. While You Were Asleep
夢と現実のあわいを漂うような短いインタールード。
儚さと神秘を同時に感じさせる、詩的な間奏曲。
13. In the Glass
アルバムのラストを飾るにふさわしい、幻想的でドラマチックな展開を見せる大作。
自己との対話、そしてその鏡像としての“他者”との関係を音で描く。
終盤に向けて高揚していく構成は、静かなるカタルシスをもたらす。
総評
『Of the Blue Colour of the Sky』は、OK Goにとっての音楽的“再出発”であり、ビジュアル重視から“音そのもの”への深いアプローチへと舵を切った転換点である。
かつてのパワーポップ路線とは異なり、本作ではエレクトロニック、ファンク、フォーク、アンビエントといった要素が複雑に交差し、楽曲ごとに異なる世界観を構築している。
それは、バンドが自身のポテンシャルと真剣に向き合い、“アートとしての音楽”を追求した結果なのだ。
同時に、インタラクティブなMVやアートワークと連動することで、21世紀の音楽体験を再定義する“マルチメディア的実験”としても極めて先進的な作品である。
本作によってOK Goは、単なる“面白いバンド”を超え、コンセプチュアルかつ革新的なアーティストとしての評価を確立したと言ってよいだろう。
おすすめアルバム(5枚)
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Beck / Sea Change
エレクトロニックとフォークの融合。内省的なムードに通じる。 -
Gnarls Barkley / The Odd Couple
ポップとアート性の絶妙な融合。プロデューサーDave Fridmannの感触も重なる。 -
MGMT / Congratulations
OK Goと同時期に“サイケ+ポップ”を追求した代表作。 -
TV on the Radio / Dear Science
ジャンルを横断する革新的なアート・ロック。OK Goと同じく映像との親和性も高い。 -
Animal Collective / Merriweather Post Pavilion
視覚と音のシンクロを重視する、21世紀型サイケ・ポップの先鋭的アプローチ。
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