発売日: 1974年8月
ジャンル: ハードロック、ブギーロック、アリーナロック
頑丈なロックの塊——BTO流ワーキングクラス・アンセムの頂点
1974年、カナダ発のロックバンドBachman-Turner Overdrive(BTO)がリリースした3枚目のアルバムNot Fragileは、その名の通り「壊れ物注意」どころか、無骨で力強いハードロックの塊である。
元The Guess WhoのギタリストであるRandy Bachmanを中心に結成されたBTOは、この作品で全米1位を獲得し、アメリカの労働者階級層を中心に圧倒的な支持を集めた。
このアルバムには、技巧や華美な装飾は存在しない。
代わりにあるのは、突き進むビート、泥臭いギターリフ、そして「日常」を歌うリアルな声。
それこそが、70年代の北米ハードロックの“現場感”であり、Not Fragileはその象徴的な一枚なのだ。
全曲レビュー
1. Not Fragile
タイトル曲にして重厚なイントロが印象的なインストゥルメンタル・ロック。
ぶ厚いギターリフと重量感あるベースが絡み合い、アルバムの幕開けから聴き手を圧倒する。
バンド名にも通じる“頑丈さ”をサウンドで体現している。
2. Rock Is My Life, and This Is My Song
タイトル通り、ロックへの誓いを堂々と歌い上げるナンバー。
ツアー生活やプレッシャーに疲弊しながらも、音楽への情熱を手放さないBTOの姿勢が滲む。
3. Roll On Down the Highway
BTOらしさ全開のドライブチューン。
スピード感あるギターとタイトなリズムが、ハイウェイを駆け抜ける映像を想起させる。
商業的にも成功したシングルであり、今なお人気の高い楽曲である。
4. You Ain’t Seen Nothing Yet
バンド最大のヒット曲。
印象的な吃音風ヴォーカルとキャッチーなメロディが特徴で、当初は冗談半分で録音されたものの、そのまま採用されたという逸話も残る。
飾らない言葉と親しみやすいフックが、BTOの魅力を凝縮している。
5. Free Wheelin’
ギターインストゥルメンタルに近い構成。
スライドギターやブルージーなフレーズが軽快に飛び交い、バンドの技術的な側面を垣間見せる。
6. Sledgehammer
その名の通り“ハンマー”のような重量級リフが炸裂する一曲。
ミドルテンポながら押し寄せるようなパワーがあり、バンドの肉体的な音楽性を象徴する。
7. Blue Moanin’
ややメランコリックなイントロから始まるブルースロック。
夜のドライブや孤独な時間を思わせるムードがあり、アルバム中でも異色の存在感を放つ。
8. Second Hand
テンポをやや落としつつも、社会や人間関係の“使い古された”現実を歌う。
ヴォーカルの吐き捨てるような語り口が印象的で、アルバムに陰影を与えている。
9. Givin’ It All Away
ラストにふさわしい大らかでスケールの大きなロックナンバー。
「すべてを差し出しても構わない」という開き直りと寛容さが同居する。
バンドの一体感が際立つ締めくくりだ。
総評
Not Fragileは、テクニカルな技巧やアートロック的な野心ではなく、あくまで“大衆のロック”を貫いたアルバムである。
それは酒場のジュークボックスで鳴っているようなロック、工場帰りの車で流すロック、誰かの人生のBGMとなるような音楽だ。
BTOの真骨頂は、そうした“地に足のついたサウンド”にある。
その頂点が、このNot Fragileなのだ。
派手さはないが、確かな説得力がある。
だからこそ、今聴いてもなお、ずしりと響くのである。
おすすめアルバム
- Grand Funk Railroad – We’re an American Band
同時期のアメリカンハードロックの代表格。土臭さと親しみやすさが共通点。 - Lynyrd Skynyrd – Pronounced ‘Lĕh-‘nérd ‘Skin-‘nérd
南部的なブルースとハードロックの融合。労働者階級の魂が息づく作品。 - Foghat – Fool for the City
ブギーロックとハードロックの快楽的融合。BTOファンなら楽しめるはず。 - AC/DC – High Voltage
シンプルで剛健なロックンロール。BTOの無骨な魅力と通じ合うエネルギー。 - The Guess Who – American Woman
Randy Bachmanが在籍していたカナダの名バンド。彼のルーツを知るうえで欠かせない一枚。
コメント