No Peace for the Wicked by The Only Ones(1978)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「No Peace for the Wicked」は、The Only Onesのデビュー・アルバム『The Only Ones』(1978年)に収録された楽曲で、タイトル通り、罪深き者に安息は訪れないという宿命的な主題が中心に据えられている。愛と裏切り、罪悪感と諦念、そして自らの中に潜む破壊衝動――この楽曲は、それらを鋭くえぐるように描いた、短くも濃密なロック・ナンバーである。

歌詞の語り手は、過去に犯した過ちと向き合いながら、どうしても安らぎや赦しを見いだすことができない。愛する人を傷つけてしまったこと、そしてそれを悔いているにもかかわらず、同じ過ちを繰り返してしまう弱さ。そうした葛藤が、激しいギターサウンドとピーター・ペレットの乾いたヴォーカルによって鋭利に表現されている。

「悪しき者に平穏なし(No peace for the wicked)」というフレーズは、聖書(イザヤ書48章22節、57章21節)からの引用としても知られ、それを踏まえることでこの楽曲には宗教的・道徳的な重みが加わる。The Only Onesはこのテーマを個人的な罪の物語に転換し、ロックの形式で告解するように歌い上げている。

2. 歌詞のバックグラウンド

The Only Onesのフロントマンであり、作詞作曲を手がけるピーター・ペレットは、薬物使用や反社会的な生き方を体現したような人物だったが、その一方で文学的な感性と深い自己省察を併せ持っていた。「No Peace for the Wicked」は、そのようなペレットの内面が強く反映された作品であり、短いながらも強烈な印象を残す楽曲である。

この曲が収録されたアルバム『The Only Ones』は、1978年にリリースされ、当時のパンク/ニューウェイブの潮流に乗りながらも、メロディアスなギター・ロックと文学的な歌詞で際立った存在感を放っていた。この楽曲はアルバムの中盤に位置し、前後の曲とのテンションの落差が印象的で、アルバム全体のバランスを象徴的に支える一曲でもある。

音楽的には、疾走感のあるギターリフとシャープなリズムが特徴で、わずか2分ほどの短さでありながら、怒りと後悔が交錯する感情の波を詰め込んだ濃密な構成となっている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「No Peace for the Wicked」の中から印象的な一節を抜粋し、和訳を添えて紹介する。

Why do I go through these deep emotional traumas?
どうしてこんなにも深い感情のトラウマに苛まれるんだろう?

I always feel guilty
いつも罪悪感を抱えている

And I always feel sick
いつだって、気分が悪いんだ

この冒頭のフレーズから、語り手の精神状態が非常に不安定であることが伝わってくる。自分の内側でうねる感情に対してコントロールを失っており、罪の意識が身体的な不調にまで及んでいる様が描かれている。

There ain’t no peace for the wicked
悪人に安らぎなどありはしない

I said there ain’t no peace for the wicked
そうさ、悪人には決して平穏なんて訪れないんだ

ここではタイトルにもなっている決定的なフレーズが繰り返され、語り手が自らを「悪しき者」と定義し、その運命を受け入れているようにも見える。この繰り返しは、単なる嘆きではなく、自らへの呪詛や自己罰のような響きを帯びている。

※引用元:Genius – No Peace for the Wicked

4. 歌詞の考察

「No Peace for the Wicked」は、罪と後悔の物語である。語り手は、自分が“正しくないこと”を知っていながら、その生き方を止めることができない。彼は愛を求め、赦しを願いながらも、どこかで「自分にはそれを受ける資格がない」と信じている。それが、「安らぎはない」という繰り返しに凝縮されている。

この楽曲における“wicked(悪しき者)”という言葉は、単なる道徳的な悪ではなく、愛を台無しにし、自分も他人も傷つける存在としての“自己破壊者”の意味合いを帯びている。ペレット自身の過去(薬物依存や関係性の破綻)と重ねることで、歌詞のリアリティはさらに深みを増す。

また、「No Peace for the Wicked」は、愛と自罰的傾向の交差点にある楽曲だ。誰かを深く愛しているのに、その愛を傷つけることでしか表現できない、あるいはその愛を信じられない――そういった倒錯した心理が、この短くも痛烈な曲の中に凝縮されている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Death is Not the End by Nick Cave & The Bad Seeds
    死や罪、贖罪のテーマを穏やかに歌ったゴシック・フォーク。精神の暗部に光を当てる。

  • Waltzing Back by The Cranberries
    過去の過ちと痛みに向き合うリリックと、エモーショナルなヴォーカルが響く曲。
  • Ghost Town by The Specials
    社会的崩壊と個人の孤独を重ね合わせた1980年代のダークアンセム。

  • Venus in Furs by The Velvet Underground
    倒錯と快楽、罪と美が交差する文学的楽曲。ペレットとルー・リードの精神性の近さが感じられる。

6. 「悪しき者」たちのための小さな祈り

「No Peace for the Wicked」は、ピーター・ペレットの書く詩の中でも、特に内省的で、かつ自己破壊的な側面が強く表れた一曲である。わずか2分という短い時間の中に、後悔、怒り、無力感、そして静かな諦念が詰め込まれており、それが曲の緊張感を高めている。

この楽曲は、聖書の引用をそのままタイトルに冠しながらも、道徳的な説教ではなく、むしろ「赦されることのない者が、それでも生きようとする姿」を描いている。ペレットの語り口は冷たくも、どこか切実で、聴き手はその“孤独な悪”の苦しみに共感せざるを得ない。

「No Peace for the Wicked」は、傷つけ、傷つけられ、それでもなお救いを求める人間の業を描いた、小さくて静かな告白のような楽曲である。パンクのエネルギーの裏側にある、壊れた心の声に耳を傾けたとき、初めてこの曲の持つ深さと儚さが立ち現れる。

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