1. 歌詞の概要
「No More Tears」は、Ozzy Osbourneが1991年にリリースした同名アルバム『No More Tears』のタイトル・トラックであり、彼のキャリアの中でも特に評価が高い長編楽曲です。7分を超える構成の中で、重厚なリフとメロディアスな展開が融合し、メタルの持つ破壊力と哀しみの表現力を同時に体現しています。
歌詞では、精神的な闇や孤独、そして女性を標的とする凶行が描かれており、一説には連続殺人鬼の視点をなぞっているとも言われています。しかし単なる暴力的な視点に終始するのではなく、そこには内面の苦悩と後悔、涙を流し尽くした果ての空虚さが表現されており、ホラー的な描写を通じて人間の心の闇を映し出す作品となっています。
「もう涙は流さない(No More Tears)」というタイトルは、表面上の冷酷さとは裏腹に、悲しみや絶望の末にたどり着いた“感情の枯渇”を象徴しており、破壊的でありながらも非常に感情的な楽曲に仕上がっています。
2. 歌詞のバックグラウンド
「No More Tears」は、OzzyのバンドメンバーであるZakk Wylde(ギター)、Mike Inez(ベース)、John Purdell(キーボード)らとともに作曲され、Ozzyの1991年作『No More Tears』のリードトラックとして収録されました。作詞にはMotörheadのLemmy Kilmisterも参加しており、鋭く文学的な語彙が特徴的です。
Ozzyはこの曲について、明確なモデルとなった殺人者がいたわけではないと語りながらも、「自分の心の奥にある邪悪な部分と向き合って書いた」と明かしています。つまりこれは、架空の殺人者を描いているというよりも、破壊的衝動を持つ“もう一人の自分”との対話のような構造を持っていると言えるでしょう。
また、この曲はアルバム全体の中でも最もドラマチックかつシンフォニックなサウンドで構築されており、Zakk Wyldeの重くうねるリフと叙情的なギターソロが、楽曲の物語性をさらに高めています。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Musixmatch – Ozzy Osbourne / No More Tears
“The light in the window is a crack in the sky”
「窓に差し込む光は、空に走るひびのようだ」
“A stairway to darkness in the blink of an eye”
「それは一瞬で闇へと続く階段になる」
“And the woman in black’s gonna make you cry”
「黒衣の女はお前を泣かせるだろう」
“You know the time is right / You know it’s time to bleed”
「時は満ちた/流血の時が来たのさ」
“You know it’s never coming back / Look into these eyes”
「それはもう戻らない/この瞳を見ろ」
“I’m crying / It’s the end of the line”
「泣いている/すべての終わりに」
“No more tears”
「もう涙は流さない」
このように、リリックにはホラーや暴力的なイメージが多く登場しますが、その語り口は冷淡ではなく、むしろ悲しみと無力感がにじんだ叙情性を帯びています。
4. 歌詞の考察
「No More Tears」は、破壊的な衝動と悲しみの狭間で揺れる“もう一人の自分”の語りとも言える構造を持っています。そこにあるのは単なる悪や狂気ではなく、人間の内部に潜む深い孤独と抑圧された感情です。
特に、「No more tears」というフレーズには、涙を流し切った果ての冷静さ、あるいは感情が枯れてしまったことによる“空虚”が込められており、それがこの曲の悲劇性を際立たせています。また、暴力の視点に立つ語り手が「I’m crying」と告白することで、狂気と感情の境界が一気に崩れていく瞬間が生まれ、リスナーはそこにゾッとするような哀しみを感じ取るのです。
この曲の構成もまた、そうした心理的変化を音楽的に表現しています。ヘヴィで不穏なリフで始まりながら、中盤では浮遊感のあるキーボードとギターソロで一瞬の美しさが訪れ、再び激しさへと帰っていく――それはまるで感情のジェットコースターのような構造です。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Estranged” by Guns N’ Roses
長編構成と感情の断絶をテーマにしたドラマチックなバラード。 - “Fade to Black” by Metallica
死と絶望をテーマにした、メタルにおける内省的名作。 - “Alone Again” by Dokken
孤独と後悔を描いたハードロック・バラード。叙情性が共通。 -
“Heaven and Hell” by Black Sabbath
善と悪、内なる葛藤という点で同じくOzzy作品の精神的祖先。 -
“The Unforgiven” by Metallica
感情の凍結と赦しの不在というテーマが近しい。
6. 哀しみと狂気の交錯――Ozzyが描いた“感情の終焉”
「No More Tears」は、Ozzy Osbourneが“プリンス・オブ・ダークネス”の異名にふさわしい形で、人間の深層心理に潜む狂気と哀しみを描いた壮大な楽曲です。暴力的な視点で始まりながらも、そこには単なる恐怖ではなく、誰もが持つ“もう一つの顔”への共感が流れています。
そして、「もう涙は流さない」というフレーズが示すように、この曲の本質は痛みを通じて感情を超越しようとする試みにあります。音楽的にもドラマチックな展開と情緒的なギターが一体となり、リスナーを物語の中に引き込みながら、最後には圧倒的な余韻を残します。
「No More Tears」は、破壊衝動と哀しみが渦巻く心の深淵を、メタルという音楽で映し出したOzzy Osbourneの叙事詩。涙を失ったその先に、何が残るのか――その答えを彼は、この曲で私たちに問いかけている。
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