発売日: 1971年8月
ジャンル: カントリーロック、ウェストコーストロック、アメリカーナ
概要
『New Riders of the Purple Sage』は、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアを中心に結成されたカントリーロック・バンド、New Riders of the Purple Sage(通称NRPS)のデビュー・アルバムである。
1971年にリリースされた本作は、当時のウェストコースト・ミュージックの潮流の中で、もっともピュアな“カントリーへの愛情”を音像化した作品であり、グレイトフル・デッドのスピンオフとしての話題性だけでなく、NRPS独自の軽やかで牧歌的な魅力によって、高く評価された。
ジェリー・ガルシアはペダル・スティール・ギターで参加し、フロントマンのジョン・“マーマデューク”・ドーソン(Vo/G)とデヴィッド・ネルソン(G)によるのどかでハーモニックなボーカルと共に、アメリカーナの原風景を描き出す。
楽曲はどれも素朴でユーモラス、時にサイケデリックで、NRPSはカントリーロックというジャンルに“遊び心”と“旅の精神”を加えた存在として確立された。
全曲レビュー
1. I Don’t Know You
軽快なテンポと乾いたギターが印象的なオープニング・ナンバー。
初対面の人物への微妙な距離感を描いた歌詞と、ドーソンの飄々としたヴォーカルが絶妙なマッチングを見せる。
旅の始まりを予感させる心地よい一曲。
2. Whatcha Gonna Do
カントリーブルース調のスロー・ナンバー。
“これからどうする?”という繰り返しの問いかけが、内省と諦念を織り交ぜた情感を生む。
ガルシアのペダル・スティールが哀愁を添える。
3. Portland Woman
ややダークでグルーヴィーな展開を持つ中盤の目玉曲。
ポートランドの女性への想いと、どこか影を持った感情が歌詞ににじむ。
ギターとペダル・スティールの対話が聴きどころ。
4. Henry
最も人気の高いトラックのひとつで、マリファナ運搬をテーマにしたユーモラスな物語ソング。
西部劇のような軽妙なリズムと、語り口調のボーカルが魅力。
NRPSらしい“ローカルな自由人精神”が溢れる傑作。
5. Dirty Business
8分以上に及ぶ本作随一の大作。
鉱山労働と腐敗、死と資本主義を描いたダークでサイケデリックな楽曲。
ゆったりとしたテンポの中に、不穏な空気と幻想的なギターが広がる。
ガルシアのスティール・ギターが幽玄に響き、圧巻の空間演出を見せる。
6. Glendale Train
鉄道をモチーフにした楽曲で、NRPSの中でもっともキャッチーな一曲。
陽気なメロディとシンプルなストーリーテリングが印象的で、ライブでも定番曲として親しまれた。
観客との一体感が自然に生まれる、カントリーロックの名曲。
7. Garden of Eden
“楽園”というタイトルに反して、皮肉や諧謔の混ざった内容。
楽器の掛け合いが軽やかで、カントリーの伝統的構造を崩さずに、現代的な文脈を導入している。
8. All I Ever Wanted
ラブソングとしての親しみやすさと、田舎の空気感が融合した佳曲。
“君だけが欲しかった”というシンプルな歌詞に、素直で温かな感情が込められている。
9. Last Lonely Eagle
アメリカン・ネイチャーと孤独を象徴するような美しいバラード。
“最後の孤独な鷲”というタイトルが、個人の自由や退廃的美意識を象徴的に描き出す。
フォーク・ロック的な質感と叙情性が光る一曲。
10. Louisiana Lady
ニューオーリンズ風味の陽気なエンディング・ナンバー。
ルイジアナ出身の女性に対する親しみと敬意が軽快なサウンドに乗せて語られる。
アルバム全体を締めくくるにふさわしい開放感を持った曲。
総評
『New Riders of the Purple Sage』は、カントリーロックが持つ伝統性と革新性の間に、新たな“遊牧民”の居場所を築いた作品である。
グレイトフル・デッドの影響下にありながらも、NRPSはより日常的で風通しの良い世界観を構築し、カントリーの持つ“土着性”に、ヒッピー文化の“旅”と“自由”を融合させた。
牧歌的ながら毒もあり、軽やかでありながら物悲しい。
それはアメリカの風景そのものであり、NRPSは“サイケデリックなカウボーイ”として、その風景の中を今日も漂っているように思える。
おすすめアルバム(5枚)
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Grateful Dead – Workingman’s Dead (1970)
NRPSの母体とも言えるサウンドと世界観がここに。アーシーで親密なフォーク・ロック。 -
The Flying Burrito Brothers – The Gilded Palace of Sin (1969)
カントリーロックの金字塔。NRPSの音楽性と美学の源泉。 -
Commander Cody and His Lost Planet Airmen – Lost in the Ozone (1971)
同時代のカントリー系ロックバンド。NRPSのユーモアと通じる陽気さあり。 -
Poco – Pickin’ Up the Pieces (1969)
より洗練されたコーラスとカントリーポップの融合。NRPSの“荒さ”との対比が興味深い。 -
Gene Clark – White Light (1971)
叙情的で孤高のアメリカーナ。『Last Lonely Eagle』のような静かな美しさと呼応する作品。
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