
- 発売日: 1997年9月16日
- ジャンル: R&B、ニュー・ジャック・スウィング、ヒップホップ・ソウル、ポップ・ソウル、コンテンポラリーR&B
概要
Usherの『My Way』は、1997年にリリースされたセカンド・アルバムであり、彼を1990年代後半のR&Bシーンを代表する若きスターへ押し上げた重要作である。1994年のデビュー作『Usher』では、まだ10代前半の新人シンガーとしての可能性を示していたが、商業的にも音楽的にも決定打には至らなかった。そこから約3年を経て発表された『My Way』では、Usherは少年シンガーから、恋愛、欲望、自己主張を歌う本格的なR&Bアーティストへと大きく成長している。
本作の核心にあるのは、「若さ」と「大人びたR&B表現」の緊張関係である。リリース当時のUsherはまだ10代でありながら、アルバム全体では恋愛の駆け引き、誘惑、嫉妬、身体的な親密さ、自立した男性像が繰り返し描かれる。そのため『My Way』は、単なるティーン向けポップR&Bではなく、90年代R&Bの成熟したサウンドを若い声で体現した作品として機能している。ここでのUsherは、まだ完全な大人ではない。しかし、自分の声、スタイル、恋愛観を確立しようとする強い意志を持っている。
アルバム・タイトルの『My Way』は、フランク・シナトラの有名曲を連想させる言葉でもあり、「自分のやり方」という意味を持つ。Usherにとってこのタイトルは、アーティストとしての自己宣言である。デビュー作では周囲のプロデュースに導かれる新人という印象もあったが、本作では自分自身のキャラクター、歌唱、ダンス、ヴィジュアル、恋愛的な魅力を明確に打ち出している。後に『8701』や『Confessions』で確立されるUsher像、すなわち高い歌唱力、滑らかなダンス、甘さと色気を併せ持つR&Bスターとしての原型が、本作でほぼ完成している。
制作面では、Jermaine Dupri、Babyface、Teddy Riley、Daryl Simmonsなど、1990年代R&Bを支えた重要なプロデューサー/ソングライターが関わっている。特にJermaine Dupriの存在は大きい。彼はヒップホップのリズム感とR&Bのメロディを融合させることに長けており、「You Make Me Wanna…」のような楽曲で、Usherの若さ、滑らかな声、都会的なグルーヴを見事に引き出している。Babyface系のバラード感覚、Teddy Riley以降のニュー・ジャック・スウィングの残響、ヒップホップ・ソウルのビート感が重なり、本作は90年代後半R&Bのサウンドを非常に分かりやすく示している。
1990年代のR&Bは、80年代末から90年代初頭にかけてのニュー・ジャック・スウィングを経て、ヒップホップとの結びつきを強めていた。Mary J. Blige、Jodeci、R. Kelly、Boyz II Men、TLC、Brandy、Aaliyah、Monicaなどが、それぞれ異なる形でR&Bの表現を更新していた時代である。その中でUsherは、Michael Jackson以降の歌って踊れる男性ポップ・スターの系譜と、90年代R&Bのメロウな歌唱、ヒップホップ的なリズム感を結びつける存在として登場した。『My Way』は、そのポジションを決定づけたアルバムである。
本作の大きな特徴は、シングル曲の強さである。「You Make Me Wanna…」は、恋人の友人に惹かれてしまうという倫理的に危うい恋愛の揺れを、軽やかで洗練されたR&Bとして提示した代表曲であり、Usherのブレイクを決定づけた。「Nice & Slow」は、スロウ・ジャムとしての官能性とメロディの強さを兼ね備え、彼のバラード・シンガーとしての魅力を示した。「My Way」は、自己主張とダンス・ポップ的な勢いを持ち、アルバム・タイトルの精神を体現する楽曲である。これらのシングルは、Usherを90年代末のR&Bシーンの中心へと導いた。
歌詞の面では、恋愛における欲望と自己意識が中心にある。相手を求めること、関係をコントロールしたいこと、誘惑に揺れること、相手に自分を選ばせたいこと。こうしたテーマは、R&Bの伝統的なラブソングの範囲にあるが、Usherの若い声によって、どこか未成熟で危うい魅力を持つ。彼は大人の恋愛を完全に理解した人物として歌っているわけではない。むしろ、大人の世界に踏み込み始めた若者の自信と不安が同時に聞こえる。この点が『My Way』を単なる滑らかなR&B作品以上のものにしている。
日本のリスナーにとって『My Way』は、1990年代後半のR&Bを理解するうえで非常に聴きやすいアルバムである。現代のR&Bに比べると、ビートやプロダクションは明確で、メロディも非常に親しみやすい。ヒップホップの影響を受けながらも、歌を中心に据えた構成であり、ヴォーカルの魅力が分かりやすい。後のUsher作品、とくに『Confessions』の完成度を知っているリスナーにとっては、本作はその前段階として、若いUsherが自分のスタイルをつかむ瞬間を記録した重要なアルバムとして聴ける。
全曲レビュー
1. You Make Me Wanna…
「You Make Me Wanna…」は、『My Way』を象徴する楽曲であり、Usherのキャリアを大きく変えた代表曲である。冒頭から流れる控えめで洗練されたギターのフレーズ、軽やかなビート、そしてUsherの柔らかくも切実な声が、90年代後半R&Bの空気を端的に伝える。派手に盛り上げる曲ではないが、メロディ、リズム、歌詞の設定が非常に強く、聴き手をすぐに物語の中へ引き込む。
歌詞のテーマは、恋人がいるにもかかわらず、その友人に惹かれてしまうという複雑な恋愛感情である。これは単純なラブソングではなく、欲望、罪悪感、友情、裏切りの可能性が絡み合った曲である。タイトルの「You make me wanna」は、「君のせいでそうしたくなる」という意味を持ち、語り手が自分の衝動を相手の魅力によって正当化しようとしているニュアンスがある。ここには、若い恋愛における未熟さと誘惑の危うさがある。
音楽的には、Jermaine Dupriのプロダクションが非常に効果的である。ビートは重すぎず、ヒップホップ的な揺れを持ちながら、R&Bとしての滑らかさを失っていない。ギターのループは曲全体に親密なムードを与え、Usherの声を前面に押し出す。サウンドは控えめだが、その抑制によって歌詞の心理的な揺れが際立つ。
Usherのヴォーカルは、この曲で大きな魅力を発揮している。彼は強く歌い上げるのではなく、迷い、誘惑、告白のニュアンスを声の細かな揺れで表現する。若さゆえの甘さがありながら、歌唱は十分にコントロールされている。これにより、曲はティーン向けの軽い恋愛ソングではなく、大人のR&Bとして成立している。
「You Make Me Wanna…」は、Usherが単なる若手シンガーではなく、恋愛の複雑な感情をポップに表現できるR&Bアーティストであることを示した楽曲である。90年代R&Bの洗練と、若いスターの魅力が理想的に結びついた名曲である。
2. Just Like Me
「Just Like Me」は、アルバムの中でヒップホップ・ソウル的な質感が強く出た楽曲であり、Usherの自己意識と恋愛の駆け引きを描いている。タイトルは「僕と同じように」という意味を持ち、相手との似た者同士の感覚、あるいは自分にふさわしい相手を見つけるようなニュアンスを含んでいる。
歌詞では、相手との関係性の中で、互いに似た欲望や態度を持っていることが示される。Usherはここで、相手に振り回されるだけの少年ではなく、自分もまた恋愛のゲームを理解している人物として振る舞う。これは『My Way』全体に通じるテーマである。彼は恋愛において受け身ではなく、自分の魅力を自覚し、相手との駆け引きを楽しむ存在として描かれる。
音楽的には、ビートが前面に出ており、メロディも比較的リズミックである。ニュー・ジャック・スウィングの残響と、90年代後半のヒップホップR&Bの感覚が混ざっている。ヴォーカルは滑らかだが、リズムに対する乗り方にはラップ的な感覚もあり、Usherがダンス・パフォーマンスと歌唱を一体化させていく後のスタイルを予感させる。
この曲の重要な点は、Usherのキャラクター形成にある。『My Way』では、彼は単に美しいバラードを歌うシンガーではなく、リズムに乗り、相手を挑発し、自分の存在感を示すパフォーマーとして提示される。「Just Like Me」は、その側面を支える曲である。甘いだけではなく、少し自信過剰で、少し遊び慣れた態度がある。
楽曲としては、シングル曲ほど大きな印象を残すタイプではないが、アルバム全体の流れにおいては重要である。バラードとアップテンポの間をつなぎ、UsherのR&Bスターとしての多面的な魅力を見せる。『My Way』が単なるスロウ・ジャム集ではなく、90年代の都会的なR&Bアルバムであることを示している。
3. Nice & Slow
「Nice & Slow」は、Usherのバラード・シンガーとしての評価を決定づけた代表曲であり、『My Way』の中でも特に重要な楽曲である。タイトルが示す通り、ゆっくりとした親密な時間、官能的なムード、相手への丁寧な接近が中心にある。90年代R&Bのスロウ・ジャムの伝統を受け継ぎながら、Usherの若い声によって独自の魅力を持つ曲になっている。
歌詞は、夜に相手を迎えに行き、二人だけの時間を過ごそうとする内容であり、非常に直接的なロマンティック/官能的なラブソングである。しかし、曲調は過度に露骨ではなく、滑らかでメロディアスに作られている。Usherは誘惑を歌っているが、その声にはまだ少年らしい甘さも残っている。この甘さと官能性のバランスが、曲の大きな魅力である。
音楽的には、ゆったりとしたビート、柔らかいシンセ、控えめなベースが中心となり、Usherのヴォーカルを際立たせる。R&Bバラードとして非常に完成度が高く、余計な装飾を避けながら、曲全体に夜の親密な空気を作っている。サビは覚えやすく、メロディの流れも自然である。
ヴォーカル面では、Usherの表現力が大きく成長していることが分かる。彼は声を張り上げすぎず、低めのトーンからファルセット的な柔らかさまでを使い分け、相手に語りかけるように歌う。これは、後の「U Got It Bad」や「Burn」などにつながる、Usherのバラード表現の原型である。感情を大げさに爆発させるのではなく、滑らかさとコントロールによって官能性を作る。
「Nice & Slow」は、1990年代R&Bのスロウ・ジャムとして非常に優れた楽曲であると同時に、Usherが若くして大人のR&Bの文法を身につけていたことを示す曲である。『My Way』の商業的成功とアーティスト像の確立において、欠かせない一曲である。
4. Slow Jam feat. Monica
「Slow Jam」は、Monicaをフィーチャーしたデュエット曲であり、90年代R&Bにおける男女ヴォーカルの対話の魅力をよく示している楽曲である。タイトルの通り、スロウ・ジャムの伝統に則った曲であり、親密な時間、音楽を介した接近、恋愛のムードが中心にある。
Monicaの参加は、本作にとって非常に重要である。彼女もまた90年代R&Bを代表する若手シンガーであり、Brandyと並んでティーンR&Bの時代を象徴する存在だった。UsherとMonicaは同世代的な感覚を共有しており、この曲では若い男女が大人びたR&Bを歌うという、90年代後半らしい魅力が生まれている。
歌詞では、スロウ・ジャムを聴きながら二人の距離が近づいていく感覚が描かれる。ここでの音楽は、単なる背景ではなく、恋愛の媒介である。R&Bそのものが、親密さを作る装置として歌われている。これはR&Bの自己言及的な魅力でもある。スロウ・ジャムを歌う曲が、実際にスロウ・ジャムとして機能するという二重構造がある。
音楽的には、柔らかいビートとメロウなコード進行が中心で、UsherとMonicaの声が互いに呼応する。二人の声質は異なるが、どちらも若さと滑らかさを持っているため、楽曲全体は非常に自然に流れる。Monicaの声はUsherよりもやや力強く、彼の甘い声に対して芯のある響きを加えている。
「Slow Jam」は、アルバムの中でデュエットの魅力を担う楽曲であり、90年代R&Bの文化そのものを感じさせる曲である。ラジオ、夜、恋愛、男女の声のやり取り。そうした要素が、控えめながら丁寧にまとめられている。
5. My Way
表題曲「My Way」は、アルバムの自己宣言として機能する楽曲であり、Usherが自分のスタイルを確立しようとする姿勢を最も明確に示している。タイトルの「My Way」は「自分のやり方」を意味し、恋愛においても音楽においても、自分のペース、自分のルール、自分の魅力を主張する言葉として響く。
歌詞では、相手に対して自分のやり方を受け入れるよう促すような態度が見える。ここでのUsherは、ただ相手に愛を求めるだけではなく、自分の存在感を強く示す。これは、アルバム全体で描かれる若い男性R&Bスター像の中心である。彼はまだ若いが、自分の魅力を知っており、それを武器として使おうとしている。
音楽的には、アップテンポでダンス性があり、シングルとしての即効性が高い。ビートはタイトで、シンセやリズムの配置には90年代後半らしい光沢がある。スロウ・ジャムの「Nice & Slow」とは対照的に、この曲ではUsherのダンス・パフォーマーとしての側面が前面に出る。後に彼がMichael Jackson以降の歌って踊れるR&Bスターとして評価されることを考えると、この曲は非常に重要である。
ヴォーカルは、バラードのように感情を細かく揺らすというより、リズムに乗りながら軽快に進む。Usherは声をビートの一部として使い、フックを強調する。ここでは歌唱力の誇示よりも、キャラクターとグルーヴが重視されている。ダンス・トラックとしての機能性と、R&Bとしてのメロディの強さが両立している。
「My Way」は、アルバムのタイトル曲として非常に象徴的である。Usherが自分の音楽的アイデンティティを確立し、少年シンガーから本格的なR&Bスターへ移行する瞬間を捉えている。自己主張、ダンス性、ポップなフックが結びついた、本作の中心曲である。
6. Come Back
「Come Back」は、失われた相手に戻ってきてほしいという願いを歌う楽曲であり、アルバムの中でより切実な感情を担っている。『My Way』には自信に満ちた誘惑や自己主張の曲が多いが、この曲では相手を失った側の弱さや後悔が表に出る。これにより、アルバムの恋愛像に奥行きが加わる。
歌詞では、別れた相手、あるいは距離ができてしまった相手に対して、戻ってきてほしいと願う気持ちが描かれる。ここでのUsherは、相手を支配しようとする人物ではなく、相手の不在によって傷ついている人物である。自信と弱さが同じアルバムの中で描かれる点が、彼のR&B表現の魅力である。
音楽的には、ミディアム・テンポのR&Bであり、ビートは控えめながらしっかりとしたグルーヴを持つ。バラードほど静かではないが、アップテンポ曲ほど軽快でもない。その中間的なテンポが、未練や待つ感情をよく表している。曲は前へ進みながらも、心は過去に引き戻されている。
Usherのヴォーカルは、ここで柔らかく、やや懇願するようなニュアンスを持つ。彼は感情を大げさに叫ぶのではなく、メロディの中に寂しさを込める。これにより、曲は過度に重くならず、アルバム全体の滑らかな流れを保っている。
「Come Back」は、『My Way』の中で、恋愛における喪失と未練を描く重要な楽曲である。自信満々な表題曲や官能的な「Nice & Slow」と対比することで、Usherの若い恋愛像がより立体的になる。
7. I Will
「I Will」は、約束、決意、相手への献身をテーマにした楽曲である。タイトルの「I will」は、未来に向けた強い意志を示す言葉であり、恋愛において自分が何をするのか、相手にどう向き合うのかを宣言する表現である。『My Way』の中では、比較的誠実なラブソングとして機能している。
歌詞では、相手に対して自分が支える、愛する、応えるという姿勢が示される。Usherの本作では、誘惑や駆け引きが多く描かれるが、この曲ではより安定した愛情が中心になる。若い男性が、自分の感情を単なる衝動ではなく、責任ある約束として示そうとする姿が浮かび上がる。
音楽的には、メロウなR&Bバラード寄りの構成であり、ヴォーカルを聴かせる曲である。ビートは控えめで、コード進行は滑らかに流れる。派手なアレンジではなく、Usherの声の柔らかさとメロディの親しみやすさが中心に置かれている。90年代R&Bらしい温かみのあるサウンドが印象的である。
ヴォーカル面では、Usherの誠実な表現が聴ける。彼は官能的な曲では色気を出し、アップテンポ曲ではリズム感を見せるが、「I Will」ではより素直な感情表現が求められる。若さゆえの甘さが、ここでは曲のテーマとよく合っている。完璧に成熟した大人の約束というより、真剣に相手へ向き合おうとする若者の声として響く。
「I Will」は、アルバムの中で愛情の安定した側面を担う楽曲である。『My Way』の恋愛像は誘惑や駆け引きだけではなく、約束や献身も含んでいる。そのバランスを示す一曲である。
8. Bedtime
「Bedtime」は、タイトルが示す通り、夜、親密さ、官能的な時間をテーマにした楽曲である。『My Way』におけるUsherの大人びたR&B表現をさらに進める曲であり、「Nice & Slow」と同じくスロウ・ジャム的な性格を持つ。ただし、「Nice & Slow」がシングルとしての洗練された官能性を持つのに対し、「Bedtime」はよりアルバム・トラックとしての親密さが強い。
歌詞では、相手と夜を過ごすこと、身体的な距離が近づくことが描かれる。R&Bの伝統において、ベッドルームは単なる場所ではなく、愛、欲望、信頼、誘惑が交差する象徴的な空間である。この曲でも、ベッドタイムは日常の終わりであると同時に、親密な関係が始まる時間として描かれる。
音楽的には、ゆっくりとしたテンポ、柔らかいキーボード、滑らかなリズムが中心である。曲全体に夜の空気があり、過度なドラマ性よりもムードが重視されている。90年代R&Bのベッドルーム・バラードとして、サウンドは非常に分かりやすいが、Usherの若い声によって独自の軽さも生まれている。
この曲でのUsherの歌唱は、声の柔らかさとフレーズの置き方が重要である。強い声で押すのではなく、相手に近づくように歌う。これは彼の後のスロウ・ジャム表現にもつながる特徴である。甘さ、息遣い、抑制が曲の魅力を作っている。
「Bedtime」は、『My Way』の中で官能的なR&Bアルバムとしての側面を支える楽曲である。若いUsherが大人のR&Bの文法を学び、自分のものにしようとしている過程がよく分かる曲である。
9. One Day You’ll Be Mine
アルバムの最後を飾る「One Day You’ll Be Mine」は、相手への強い願望と未来への確信を歌う楽曲である。タイトルは「いつか君は僕のものになる」という意味を持ち、ロマンティックな期待と、やや所有的なニュアンスを同時に含んでいる。『My Way』の締めくくりとして、恋愛における欲望、自信、未成熟さが重なった曲である。
歌詞では、現在はまだ相手が完全に自分のものではないが、いつかそうなるという期待が描かれる。ここには若い恋愛特有の強い思い込みがある。相手を求める気持ちが未来への確信として語られる一方で、その確信には少し危うさもある。『My Way』全体におけるUsherの恋愛観、すなわち相手を惹きつけたい、選ばれたい、そして自分のやり方で関係を進めたいという感覚が、この曲にも表れている。
音楽的には、アルバムの最後にふさわしく、メロディアスで滑らかなR&Bとしてまとめられている。派手なクライマックスを作るのではなく、余韻を残すように進む。ビートは穏やかで、ヴォーカルが前面に出る構成である。これにより、アルバムは大きな爆発ではなく、恋愛への期待を残して終わる。
Usherのヴォーカルは、ここで若さと自信が混ざった響きを持つ。彼は相手を強く求めているが、その表現はまだ完全に成熟した大人の余裕ではない。その未完成さが、本作の魅力でもある。『My Way』は、完成された大人のR&Bスターではなく、そこへ向かう若いUsherの姿を記録した作品である。
「One Day You’ll Be Mine」は、アルバムのテーマを静かに回収するラスト・トラックである。欲望、未来、自己主張、恋愛への執着が、滑らかなR&Bの中に込められている。『My Way』の締めくくりとして、Usherの若きR&Bスター像を印象づける楽曲である。
総評
『My Way』は、Usherを90年代後半R&Bの中心的存在へ押し上げた決定的なアルバムである。デビュー作で示された可能性が、本作では明確なアーティスト像として結実している。若さ、歌唱力、ダンス性、官能性、ポップなフック、ヒップホップ以降のリズム感。これらがバランスよく組み合わさり、Usherは単なるティーン・シンガーではなく、次世代R&Bスターとしての地位を確立した。
本作の最大の強みは、シングル曲の完成度である。「You Make Me Wanna…」は、恋愛の複雑な誘惑を洗練されたミディアムR&Bに落とし込んだ名曲であり、「Nice & Slow」は、スロウ・ジャムとしての官能性とメロディの美しさを兼ね備えた代表曲である。「My Way」は、Usherの自己主張とダンス・パフォーマーとしての魅力を示す。これらの曲だけでも、本作が90年代R&Bの重要作であることは十分に分かる。
音楽的には、ニュー・ジャック・スウィング以降のR&Bが、ヒップホップ・ソウル、スロウ・ジャム、ポップ・ソウルへと整理されていく時期の音をよく捉えている。Jermaine Dupriのプロダクションは、Usherの声を過剰に飾らず、リズムとメロディのバランスを取っている。Babyface的な滑らかなバラード感覚、Teddy Riley以降のビート感、90年代後半の都会的なR&Bサウンドが自然に混ざっている。
歌詞のテーマは、恋愛と欲望が中心である。相手に惹かれること、誘惑に揺れること、身体的な親密さを求めること、戻ってきてほしいと願うこと、いつか自分のものになると信じること。これらはR&Bの伝統的な題材だが、Usherの若い声によって独特の緊張が生まれている。彼は大人の恋愛を歌っているが、そこにはまだ若さゆえの強引さ、甘さ、未熟さがある。その危うさが、本作の魅力である。
アルバム全体として見ると、『My Way』は後の『Confessions』ほどの深い物語性や完成度を持つ作品ではない。曲によっては90年代R&Bの定型に収まっている部分もあり、アルバム後半はシングル曲ほど強い印象を残さない。しかし、それでも本作はUsherのキャリアにおいて極めて重要である。なぜなら、ここで彼は自分の声、自分の魅力、自分のスタイルを確立したからである。
Usherのヴォーカルは、本作の最大の魅力である。彼は力強く歌い上げるタイプのシンガーであると同時に、柔らかく囁くような表現にも長けている。「Nice & Slow」や「Bedtime」では官能性を、「Come Back」や「I Will」では感情の弱さを、「My Way」では自信とリズム感を表現する。若いながらも、曲ごとに声の使い方を変える柔軟さがある。
また、本作はUsherをMichael Jackson以降の「歌って踊れるR&Bスター」の系譜へ明確に位置づけた作品でもある。『My Way』は音だけでなく、ミュージック・ビデオやパフォーマンスを通じて受け取られるアルバムだった。ダンス、ファッション、ヴィジュアル、声が一体となって、Usherというスター像を作っていく。これは90年代後半以降のR&Bにおいて非常に重要な要素である。
日本のリスナーにとって『My Way』は、90年代R&Bの入口として非常に有効な作品である。メロディが強く、ビートも聴きやすく、スロウ・ジャムとアップテンポのバランスも良い。現代R&Bの抽象的な音像やトラップ以降のビートに比べると、歌と曲の構造が分かりやすく、R&Bの基本的な魅力をつかみやすい。特に「You Make Me Wanna…」と「Nice & Slow」は、90年代R&Bの美点を凝縮した楽曲である。
総じて『My Way』は、Usherが少年からスターへと変わる瞬間を記録したアルバムである。まだ未成熟な部分もあるが、その未成熟さも含めて、若いR&Bアーティストが自分のスタイルを確立していく過程が鮮やかに刻まれている。90年代後半のR&Bサウンド、若い恋愛の危うさ、スロウ・ジャムの官能性、ダンス・ポップの即効性が一体となった、Usher初期の代表作である。
おすすめアルバム
1. Usher – 8701(2001)
『My Way』で確立したUsherのスタイルを、より成熟した形へ発展させたアルバム。「U Remind Me」「U Got It Bad」などを収録し、メロディ、ヴォーカル、プロダクションの完成度が大きく向上している。『My Way』の若さと比較すると、Usherがより洗練されたR&Bスターへ成長していることが分かる。
2. Usher – Confessions(2004)
Usherの最高傑作として広く評価されるアルバム。恋愛、裏切り、罪悪感、後悔をテーマにした物語性が強く、R&Bアルバムとしての完成度も非常に高い。『My Way』で示された恋愛の駆け引きや官能性が、より大人びたドラマとして結実している。
3. Aaliyah – One in a Million(1996)
90年代後半R&Bの革新を象徴する作品。TimbalandとMissy Elliottによる斬新なビートと、Aaliyahの抑制された歌唱が融合している。Usherの『My Way』よりも未来的でミニマルな質感を持つが、同時代の若いR&Bアーティストがどのように新しい音を作っていたかを理解するうえで重要である。
4. Ginuwine – Ginuwine… The Bachelor(1996)
Timbalandのプロダクションによって、90年代男性R&Bの新しい方向性を示した作品。官能的なヴォーカル、ヒップホップ以降のリズム、未来的な音作りが特徴である。Usherの『My Way』と比較すると、同時代の男性R&Bがどれほど多様だったかが分かる。
5. Brandy – Never Say Never(1998)
90年代後半のポップR&Bを代表するアルバム。洗練されたプロダクション、若い視点からの恋愛表現、滑らかなヴォーカルが特徴である。Usherの『My Way』と同じく、ティーンR&Bから大人のR&Bへ向かう過程を示す作品として関連性が高い。



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