アルバムレビュー：My Mind’s Eye by The Comsat Angels

アルバムレビュー

2025.04.22

発売日: 1992年
ジャンル: オルタナティヴロック、ポストパンク、ギター・ポップ

概要

『My Mind’s Eye』は、The Comsat Angelsが1992年にリリースした7作目のスタジオ・アルバムであり、バンドが90年代という新しい時代において自らの音楽性を再定義した、遅れてきた“第二の黄金期”とも呼べる作品である。

前作『Fire on the Moon』での異名義“Dream Command”による実験的方向性を経て、本作ではバンド本来の名義に戻り、より直感的かつギター中心のロックへと立ち返った。

とはいえ、単なる回帰に留まらず、グランジやシューゲイザーなど90年代初頭の新しい音楽的潮流を独自に解釈した結果として、彼らの音楽はより荒々しく、有機的な質感を帯びている。

スティーヴ・フェローズは本作を「最も自分たちらしい作品」と語っており、まさにThe Comsat Angelsというバンドの核心的な精神性が凝縮された一作である。

本作の冒頭を飾る、エネルギーに満ちたギター・ロック。
“ドライビング”というタイトルが示すように、動き続けること、止まれない衝動が音に反映されている。
ノイジーなギターと疾走感のあるビートが、90年代らしい荒削りさを体現する。

アルバムの中でも特に象徴的な一曲。
“美しき怪物”という矛盾した存在を描くこの楽曲は、愛と恐れ、魅了と破壊のあわいを表現する。
攻撃的なギターと内省的なボーカルのコントラストが際立つ。

神秘的なタイトルを持つこの曲は、東洋的なイメージを帯びつつ、ミッドテンポで展開される内省的なナンバー。
“降臨”という言葉にふさわしく、静けさと重厚さを兼ね備えている。

一見ロマンチックなタイトルだが、音楽的にはやや翳りを帯びたギター・ポップ。
“背の高い花の野原”は、自由であると同時に見通しの悪い迷路でもあり、歌詞にもその両義性が表れている。

『7 Day Weekend』にも登場した楽曲の再演。
ここではよりラフな質感で、アコースティックとエレクトリックのバランスが絶妙。
親密さと孤独のあいだを揺れるような演奏が光る。

アルバムのタイトル・トラック。
“心の目”が見るものとは何か——というテーマを中心に、幻想と現実、記憶と予兆が交錯する。
ポストパンクの詩的伝統と90年代のロック的ダイナミズムが融合した名曲である。

ダークでスリリングな雰囲気を持つトラック。
アメリカの“ルート66”の地獄的変形とも取れるタイトルに相応しく、危険な旅や精神的下り坂を描いている。

タイトル通り、過去や失敗、後退へのまなざしをテーマとした楽曲。
逆行するギターのフレーズや反復的な構成が、心理的閉塞を象徴している。

宇宙的な広がりを感じさせる美しいスロウ・ナンバー。
静寂と間を生かした演奏が、アルバム全体に深い呼吸を与える。
夜空のような余白があり、ラストトラックにふさわしい余韻を残す。

『My Mind’s Eye』は、The Comsat Angelsの“再覚醒”を告げる作品であり、バンドが過去の影と決別し、より身体的かつ本能的な音へと向かった記録である。

80年代のポストパンクをルーツに持ちながらも、このアルバムは90年代的なグランジ、インディロック、ギターポップの要素を巧みに取り入れ、彼らなりの“現代”を築き上げている。

音の質感は粗く、それゆえに感情の生々しさが際立ち、前作までの整った構築性とは異なる“ざらついた真実”がここにはある。

そして何より、アルバム全体に流れるのは“もう一度信じたい”という衝動——
それは、終わったと思われたものの中に新しい命を見出す、音楽の本質的な再生のドラマでもある。