
発売日:1992年9月28日
ジャンル:Alternative Rock / Post-Punk
概要
My Mind’s Eyeは、The Comsat Angelsが1992年に発表した7作目のスタジオアルバムである。1980年代初頭の彼らは、鋭いギター、深い残響、張り詰めたリズムを特徴とするポストパンクで評価されたが、中期にはより滑らかなポップ/ロックへ接近していた。本作ではその流れから再び方向を変え、歪んだギターを大きく前へ出した硬質なバンドサウンドへ向かっている。初期作品をそのまま再現したというより、80年代を通過したバンドが90年代初頭のオルタナティブロックと接続した作品と考える方が分かりやすい。
中心にあるのはStephen Fellowsのギターとボーカル、Kevin Baconのベース、Mik Glaisherのドラムによる演奏である。ギターはきれいなコードを鳴らすより、歪みや反復によって広い壁を作る場面が多く、リズム隊はその下で重心の低い推進力を維持する。ボーカルも音の上へ派手に飛び出すのではなく、巨大なギターの中に半分埋まるように置かれている。
1992年という時期を考えると、轟音ギターにはシューゲイズや同時代のオルタナティブロックと重なる部分がある。しかしThe Comsat Angelsの場合、音を曖昧な色彩として広げるだけでなく、初期から持っていた緊張感のある反復と簡潔なメロディが骨格になっている点が特徴だ。長いキャリアの途中で過去の方法を取り戻しながら、それを当時の大きなギターサウンドへ組み替えたアルバムである。
全曲レビュー
1. 「Driving」
低くうなるギターと重いリズムが動き始めると、曲はタイトル通り一定方向へ走り続けるような感覚を作る。ギターは細かな装飾より持続する歪みを重視し、ベースとドラムがその巨大な音を前へ押していく。Stephen Fellowsの歌声は抑制されており、演奏が激しくなっても感情を露骨に爆発させない。この声と楽器の温度差が、本作の暗さを単純な攻撃性とは違うものにしている。
2. 「Beautiful Monster」
美しさと危険さを並べたタイトルに似て、メロディの親しみやすさとギターの荒れた質感が同居する。ヴァースでは比較的空間を残しながら進み、音が厚くなる部分では歪んだギターが声の周囲まで覆っていく。歌詞も相手に引きつけられながら、その魅力を無条件には信用できない関係として読むことができる。ポップソングとしての輪郭を失わず、そこへノイズの圧力を加える本作の方法がよく表れた曲だ。
3. 「Shiva Descending」
反復するギターと重量感のあるリズムによって、ゆっくり巨大なものが降りてくるような圧迫感を生む。タイトルにあるシヴァはヒンドゥー教の神を指すが、歌詞を特定の宗教的メッセージへ単純化するより、破壊や変化を連想させるイメージとして受け取る方が曲の抽象性には合っている。ボーカル以上に楽器の質量が存在感を持ち、同じフレーズを重ねることで緊張を高めていく。初期のミニマルな反復を、90年代らしい轟音へ拡大したような一曲である。
4. 「My Mind’s Eye」
タイトル曲では、外の風景よりも知覚や記憶の内側へ視線が向けられる。ギターは単純に大音量で押すのではなく、残響を伴う音を何層にも配置し、現実の距離感が曖昧になるような空間を作る。その中心に置かれるFellowsの声には醒めた静けさがあり、内面を扱っていても感傷的なバラードにはならない。アルバムタイトルにもなった「心の目」という言葉が、音そのものによって表現されているように聞こえる。
5. 「I Come from the Sun」
前半の重苦しい曲から少し表情を変え、明るさを含んだギターと開放的なメロディを聞かせる。とはいえ音の輪郭は滑らかには磨かれておらず、歪みを残したままサビへ広がるため、本作全体の手触りから外れることはない。タイトルの大きなイメージに対して歌唱は意外なほど淡々としており、誇張された宇宙的なロックには向かわない。轟音の中にも明確なポップメロディを書けるバンドの強みが表に出る。
6. 「Field of Tall Flowers」
タイトルが示す風景的なイメージと、ギターの広がりを結びつけた曲である。音の層が重なって輪郭をぼかす部分にはシューゲイズと共通する感触があるものの、ドラムは霞の中へ消えず、はっきりした拍を刻み続ける。このため夢見心地になるというより、広い景色の中を身体的に進んでいくような感覚が強い。前半で目立った圧迫感を少し緩め、アルバムに異なる種類の空間を作っている。
7. 「Always Near」
抑えた演奏の中に不安を残し、距離の近さを必ずしも安心として描かないところがThe Comsat Angelsらしい。ベースとドラムは目立った変化を避けながら一定の緊張を維持し、ギターがその上に短い音や残響を置いていく。Fellowsも声量を上げて感情を説明するより、言葉を慎重に送り出すように歌う。大きなクライマックスに頼らず、反復の中で心理的な圧力を保つことで、初期作品とのつながりを強く感じさせる。
8. 「Eye of the Lens」
硬いドラムとギターの反復が曲の中心にあり、視線を一点へ固定するような集中したサウンドを作る。レンズという題材は、見る側と見られる側、あるいは現実とその像の間に距離が生じる感覚を思わせる。演奏はその曖昧さとは対照的に直接的で、リズム隊が迷わず前へ進むため、アルバム後半でも勢いが落ちない。音響的な広がりよりバンドのまとまりを前面に出した、比較的引き締まった一曲である。
9. 「Missing in Action」
タイトルには軍事用語としての響きがあるが、曲から感じられるのはより広い意味での不在や断絶である。重いギターの下でリズムは粘り強く反復され、何かが欠けている状態から抜け出せないような閉塞感を作る。派手な展開を連続させるのではなく、限られた材料を何度も鳴らすことで感情を深めるのは、The Comsat Angelsが初期から得意としてきた方法だ。終盤へ向かうにつれ、アルバムの暗い側面をもう一度前へ押し出す。
10. 「Tiny Grains of Sand」
小さな砂粒という題名に似合う繊細さを持ちながら、音響自体は決して小さくない。ギターの残響が広い背景を作り、その中でボーカルが距離を取った位置から聞こえることで、人間の存在が風景の一部へ溶けていくような感覚が生まれる。前曲までの強い推進力から離れ、時間の流れを遅くするような配置も効果的だ。アルバム終盤に必要な余白を作り、最後の曲へ向けて視点を外側から内側へ戻していく。
11. 「Spaceman」
最終曲では、広い空間を感じさせるギターと孤立したボーカルが結びつき、本作で繰り返された距離や知覚の感覚を静かにまとめる。宇宙という題材を派手なSF的演出へ変えるのではなく、遠く離れた場所にいる人物の孤独を思わせる音作りが中心だ。リズム隊は最後まで演奏の骨格を保ち、その上でギターの残響が徐々に空間を広げていく。明確な解決を提示するより、遠ざかっていくような感触を残すことでアルバムを閉じる。
総評
My Mind’s EyeでThe Comsat Angelsが取り戻したのは、単純な意味での「初期の音」ではない。初期三作にあった反復の緊張、暗い空間、感情を抑えた歌唱を基礎にしながら、ギターそのものは以前より太く、大きく、激しく歪んでいる。その結果、1980年代初頭のポストパンクと1990年代初頭のオルタナティブロックが、一つのバンドのキャリアの中で自然につながっている。
特に優れているのは、轟音を鳴らしてもリズム隊の存在が消えない点である。ギターが何層にも重なる曲でもベースは低い位置から曲の方向を示し、ドラムは明確な推進力を保つ。この骨格があるため、シューゲイズに近い音響を使う場面でも全体が霞のようにはならない。The Comsat Angelsがもともと持っていたポストパンクの身体的なリズム感覚が、新しいギターサウンドを支えている。
Stephen Fellowsのボーカルも重要である。演奏が大きくなったからといって歌唱まで過剰にドラマティックにはせず、むしろ距離を保った声によって感情を抑える。この方法によって、孤独や不安を扱う歌詞にも一つの解釈を押しつけない余白が残る。大音量のギターと静かな人間の声が並ぶことで、アルバムには力強さだけでなく奇妙な孤立感が生まれている。
一方、似たテンポや暗いギターの質感が続くため、曲単位で劇的な変化を求めると均質に感じる部分はある。しかし本作は、その統一感を利用して一つの音響世界を作るタイプのアルバムである。80年代のポストパンク勢が90年代にどう存在できるかという問いに対して、流行へ全面的に合わせるのでも過去を再演するのでもなく、自分たちの緊張感を当時の轟音へ接続した。その点にMy Mind’s Eyeの強さがある。
おすすめアルバム
Waiting for a Miracle by The Comsat Angels
1980年のデビュー作で、冷たいギター、反復するベース、張り詰めたドラムというバンドの基本形を確認できる。My Mind’s Eyeの轟音の奥に残っているポストパンク的な骨格を理解するのに適した一枚だ。
Sleep No More by The Comsat Angels
初期The Comsat Angelsの暗さと音響的な奥行きが最も強く現れた作品の一つ。残響や反復によって不安を作る方法を聴くと、それが約10年後のMy Mind’s Eyeでどう重量化されたのかが分かりやすい。
Seamonsters by The Wedding Present
Steve Albiniによる硬く巨大なギターと、緊張を途切れさせないリズムが特徴。音楽的な出自は異なるが、90年代初頭にギターバンドの生々しい演奏を大きな音像へ変えた作品として本作と比較できる。
Mezcal Head by Swervedriver
轟音ギターを霞ませるだけでなく、強いリズムによって前へ進ませる点がMy Mind’s Eyeと共通する。こちらはより疾走感が強く、ポストパンクとシューゲイズ/オルタナティブロックの接点を別方向から味わえる。
Raise by Swervedriver
重く歪んだギターの層と明確なバンド演奏を両立させた1991年の作品。The Comsat Angelsよりサイケデリックで速度感もあるが、シューゲイズ的な音の厚みをロックバンドとしての推進力へ結びつける感覚が近い。

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