
発売日:1967年12月8日
ジャンル:サイケデリック・ロック/フォーク・ロック/ブルース・ロック/ジャズ・ロック/英国サイケデリア
概要
Trafficのデビュー・アルバム『Mr. Fantasy』は、1967年の英国サイケデリック・ロックを代表する作品のひとつであり、同時に、その後1970年代に大きく発展するジャズ・ロック、フォーク・ロック、プログレッシヴ・ロック的な感覚を先取りしたアルバムでもある。The Beatlesの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』、Pink Floydの『The Piper at the Gates of Dawn』、The Jimi Hendrix Experienceの『Are You Experienced』などが相次いだ1967年という時代の中で、Trafficはより土臭く、即興性が強く、ジャンルの境界が曖昧なサイケデリアを提示した。
Trafficの中心人物はSteve Winwood、Jim Capaldi、Chris Wood、Dave Masonの4人である。
Steve WinwoodはTraffic結成以前、The Spencer Davis Groupで「Gimme Some Lovin’」「I’m a Man」などを歌い、まだ10代のうちから卓越したソウルフルなヴォーカルとオルガン演奏で注目されていた。彼の声にはRay Charlesやアメリカ南部のR&Bからの強い影響があり、当時の英国ロック・シンガーの中でも際立って黒人音楽への理解が深かった。
一方、Jim Capaldiはドラマーでありながら重要な作詞家でもあり、Chris Woodはフルートやサックスによってバンドへジャズ、フォーク、異国的な音響を持ち込んだ。Dave Masonはより簡潔なポップ・ソングを書く才能を持ち、Trafficの中では他のメンバーと異なる作曲感覚を担った。
この4人の違いこそ、『Mr. Fantasy』の豊かさの源である。
当時の多くのロック・バンドがギターを中心としていたのに対し、Trafficはオルガン、ピアノ、フルート、サックス、シタール風の音色、各種パーカッションなどを積極的に使用した。
そのため『Mr. Fantasy』は典型的な「ギター・サイケデリア」には聞こえない。
ブルース。
R&B。
英国フォーク。
ジャズ。
ミュージックホール。
インド音楽。
サイケデリック・ポップ。
これらが一枚の中で自由に出入りする。
重要なのは、Trafficがサイケデリアを単なるスタジオ特殊効果として理解していなかったことである。
1967年のサイケデリック・ロックでは、逆回転テープ、フェイザー、エコー、奇妙なステレオ配置などが盛んに使用された。
Trafficにもそうした時代性はある。
しかし彼らの場合、「異なるジャンルを同じ曲の中に共存させること」そのものがサイケデリックだった。
また、Trafficはバークシャーの田舎にあるコテージへ共同生活の拠点を置き、都市の音楽産業から少し離れた環境で曲作りを行ったことでも知られる。
これは1960年代後半のカウンターカルチャーとも深く関係する。
都会の商業システムから離れ、共同生活をしながら音楽を作る。
自然。
精神的自由。
即興。
共同体。
こうした価値観が、『Mr. Fantasy』の開放的な雰囲気につながっている。
アルバム最大の代表曲は「Dear Mr. Fantasy」である。
Steve Winwoodの切迫した歌唱とギター、Jim Capaldiの歌詞が結びついたこの曲は、サイケデリック・ロックの幻想性を持ちながら、その中心に強い孤独がある。
「人々を楽しませる幻想の人物自身は、果たして幸福なのか」。
これは単なるファンタジーではなく、芸術家と観客の関係についての曲でもある。
そのため『Mr. Fantasy』というアルバム・タイトルは、作品全体に流れる幻想と現実の境界を象徴している。
全曲レビュー
1. Heaven Is in Your Mind
アルバム冒頭の「Heaven Is in Your Mind」は、Trafficのサイケデリックな思想を端的に示す楽曲である。
タイトルは「天国はあなたの心の中にある」という意味を持つ。
幸福や救済を外部の場所に求めるのではなく、自分の意識の状態として捉える。
これは1960年代後半のカウンターカルチャーに広がった内面探索の思想とも重なる。
当時のサイケデリアでは、意識を変えることによって現実の見え方そのものを変えるという考えが重要だった。
この曲はその発想を、比較的簡潔なポップ・ソングへ落とし込んでいる。
音楽的にはオルガン、ギター、リズム隊が密接に絡み、Steve Winwoodのソウルフルなヴォーカルが中心を担う。
サイケデリックでありながら、演奏の基礎にはR&Bがある。
この「幻想的なサウンドと身体的なグルーヴの共存」がTrafficの重要な特徴である。
2. Berkshire Poppies
「Berkshire Poppies」は、英国的なユーモアとサイケデリックな奇妙さが混ざった楽曲である。
タイトルのバークシャーは、Trafficが共同生活を行っていた地域ともつながる。
「Poppies=ポピー」という言葉には花そのもののイメージがある一方、1960年代のサイケデリック文化においては薬物文化を連想させる曖昧さも持つ。
曲は重いブルースではなく、むしろミュージックホール的で、少し戯画化された英国ポップに近い。
The KinksやThe Beatlesの同時期作品にも見られる、「英国の日常文化を幻想化する」感覚がある。
Trafficがアメリカ音楽の影響だけで成立していたわけではなく、英国的な風景やユーモアもしっかり持っていたことを示す一曲である。
3. House for Everyone
「House for Everyone」は、そのタイトル通り「誰にでも開かれた家」という共同体的なイメージを持つ。
Trafficが共同生活を行っていた背景を考えると、この曲の「家」は単なる建物ではなく、理想的なコミュニティの比喩としても読むことができる。
1960年代のカウンターカルチャーでは、個人主義的な都市生活から離れ、共同体を作ることがひとつの理想とされた。
この曲には、その時代の楽観性がある。
音楽はややコミカルで、時計や機械仕掛けを思わせるような効果音的感覚も持ち、サイケデリック・ポップらしい遊び心が強い。
Trafficは後年、より長尺でジャズ的な即興へ向かうが、デビュー期にはこのような短く奇妙なポップ・ソングも重要だった。
4. No Face, No Name, No Number
「No Face, No Name, No Number」は、本作でも特に美しく内省的な楽曲である。
タイトルは「顔も、名前も、番号もない」。
つまり、語り手が想像する人物には明確な社会的アイデンティティが与えられていない。
それは理想化された恋人なのか。
記憶の中の人物なのか。
あるいは、まだ出会っていない存在なのか。
歌詞は完全な答えを与えない。
この曖昧さが、曲に夢のような質感を与える。
音楽的にはアコースティックな感触が強く、Steve Winwoodの柔らかなヴォーカルが中心となる。
サイケデリックという言葉から想像される派手な音響効果より、メロディと和声によって浮遊感を作るタイプの曲だ。
Trafficのフォーク的な側面を代表する一曲であり、後の英国プログレやフォーク・ロックにもつながる感覚を持つ。
5. Dear Mr. Fantasy
「Dear Mr. Fantasy」はTrafficの代表曲であり、1960年代英国ロックを代表するサイケデリック・ナンバーのひとつである。
曲の中心にいる「Mr. Fantasy」は、人々を楽しませ、悲しみを忘れさせる人物である。
しかし、その人物自身は笑っていない。
ここに歌詞の重要な逆説がある。
エンターテイナーは観客を幸福にする。
しかし、観客を楽しませる本人が幸福である保証はない。
このテーマは音楽家や芸術家の役割についての寓話としても読むことができる。
人々はステージ上の人物に幻想を求める。
スターは強く、自由で、特別な存在であると期待される。
しかし、そのイメージの裏には普通の人間としての孤独や疲労がある。
Steve Winwoodのヴォーカルは、この感情を強烈に表現する。
彼の歌唱にはソウルの影響が濃く、英国サイケデリアの幻想的な曲でありながら、感情の中心にはブルースがある。
ギターも重要である。
Winwoodはキーボーディストとして知られるが、この曲ではギター演奏でも強い存在感を示し、長いフレーズによって曲の緊張を高める。
楽曲構造は比較的単純だが、反復するコードと即興的なギターによって徐々に感情が深くなる。
この「単純な形式の中で演奏によって拡張する」という方法は、後のTrafficのジャム志向にもつながる。
6. Dealer
「Dealer」は、本作の中でもブルース/R&B色の強い楽曲である。
タイトルの「Dealer」は、取引をする人物を意味し、文脈によって薬物の売人も連想させる。
1967年のサイケデリック文化では薬物がしばしば自由や意識拡張と結びつけられた一方、依存や搾取という暗い側面も存在した。
「Dealer」には、そのカウンターカルチャーの裏側を感じさせる。
音楽は幻想的というより土臭い。
ギターとリズムの反復を中心に、Winwoodの声が強く前へ出る。
Trafficのルーツがサイケデリアだけではなく、ブルースとR&Bに深く根差していることを確認できる一曲である。
7. Utterly Simple
Dave Mason作の「Utterly Simple」は、Trafficの中でもインド音楽や東洋的な思想への関心が強く表れた楽曲である。
タイトルは「完全に単純」といった意味を持つ。
1960年代後半の英国ロックでは、The Beatles、とりわけGeorge Harrisonを中心にインド音楽や東洋思想への関心が急速に広がっていた。
この曲もその文化的背景の中にある。
リズムや音色にはラーガ・ロックを思わせる感触があり、西洋的なロックのコード進行から少し距離を取る。
歌詞でも、複雑に考えることをやめ、より根源的な認識へ近づこうとする態度が見える。
Dave MasonはTrafficの中では比較的ポップ志向の作曲家として知られるが、この曲ではサイケデリック期特有の実験精神を前面に出している。
8. Coloured Rain
「Coloured Rain」は、タイトルからして典型的なサイケデリック・イメージを持つ。
「色のついた雨」という、現実にはあり得ない風景を提示することで、感覚そのものが変化した世界を描く。
1960年代サイケデリアでは、通常の知覚を別の形で経験することが重要なテーマだった。
色が音になる。
音が形になる。
普通の自然現象が異様な鮮やかさを持つ。
「Coloured Rain」はその感覚をロックへ変換した曲である。
音楽的にはオルガンとリズムが非常に強く、単なる幻想的ポップではない。
Steve Winwoodの演奏にはゴスペルやR&Bの強い身体性があり、その上にサイケデリックな音響が重なる。
後にジャズ・ロックやファンクへつながるTrafficのグルーヴ感覚を早くから確認できる重要曲である。
9. Hope I Never Find Me There
「Hope I Never Find Me There」は、Dave Masonによる比較的軽やかな楽曲である。
タイトルを直訳すると、「自分がそこにいることを決して発見しませんように」といった奇妙な表現になる。
つまり、ある心理状態や場所へ自分が行き着いてしまうことへの恐れがある。
Trafficのサイケデリアには、自由や幸福だけでなく、意識を探求した結果、自分の望まない場所へ行ってしまうという不安もある。
この曲には、その微妙な影が存在する。
音楽は比較的明るいため、歌詞の不安との間にコントラストが生まれる。
Dave Masonのポップ・センスがアルバムに違う色を与え、Winwood/Capaldi中心の曲とは異なる柔らかさを作る。
10. Giving to You
アルバムを締めくくる「Giving to You」は、Trafficのジャズ、ブルース、R&B、即興性が強く融合したインストゥルメンタル主体の楽曲である。
本作の中でも、後年のTrafficへ最も直接的につながる曲のひとつといえる。
アルバム前半では3分前後のポップ・ソングが多い。
しかし「Giving to You」では、歌より演奏が中心になる。
オルガン。
フルートやサックス。
ドラム。
ベース。
ギター。
それぞれの楽器が固定された伴奏役ではなく、互いに会話するように動く。
この感覚はジャズ的である。
ロックの曲として完全に構成されたものを再現するというより、演奏中に音楽が変化していく。
Trafficは後に『John Barleycorn Must Die』『The Low Spark of High Heeled Boys』などで長尺の即興的な楽曲を発展させる。
「Giving to You」は、その方向性の初期形として非常に重要である。
アルバムの最後を簡潔なポップ・ソングではなく、開かれた演奏で終えることによって、『Mr. Fantasy』が単なる1967年型サイケデリック・ポップ作品ではないことを示している。
総評
『Mr. Fantasy』は、1967年というサイケデリック・ロックの最重要年に発表された作品でありながら、同時代の代表作とはかなり異なる個性を持っている。
The Beatlesの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』はスタジオそのものを楽器として扱った。
Pink Floydの『The Piper at the Gates of Dawn』はSyd Barrettの童話的で宇宙的な想像力を中心にした。
The Jimi Hendrix Experienceの『Are You Experienced』はエレクトリック・ギターの可能性を拡張した。
Trafficの『Mr. Fantasy』は、それらとは別の方向を向いている。
彼らが拡張したのは、バンドの中で共存できる音楽ジャンルの範囲だった。
ブルースとフォーク。
R&Bとジャズ。
インド音楽と英国ミュージックホール。
ポップと即興。
Trafficはこれらを分けない。
その結果、『Mr. Fantasy』は一曲ごとに性格が大きく変わる。
「Berkshire Poppies」の英国的なユーモアから、「No Face, No Name, No Number」のフォーク的な静けさへ。
そこから「Dear Mr. Fantasy」のブルース/サイケデリアへ移り、「Utterly Simple」では東洋的な世界へ向かう。
そして最後は「Giving to You」のジャズ的な即興で終わる。
この多様性には、Trafficが複数の作曲家と演奏家の集合体だったことが大きく影響している。
Steve Winwoodがすべてを支配していたわけではない。
もちろん彼の声とオルガンは圧倒的に重要だ。
しかしJim Capaldiの歌詞、Chris Woodの管楽器、Dave Masonの異なるソングライティングがなければ、『Mr. Fantasy』はこれほど多彩にはならなかった。
特にChris Woodの存在は重要である。
1960年代ロック・バンドにおいて、フルートやサックスを主要な音色として常用することはまだ一般的ではなかった。
彼の演奏によって、Trafficは典型的なブルース・ロック・バンドから離れた。
後にJethro Tullがフルートをロックの中心楽器へ押し出し、King CrimsonやSoft Machineなどがジャズ的な管楽器を導入するが、Trafficもこの流れの初期に位置する。
Steve Winwoodについても、本作は重要な転換点だった。
The Spencer Davis Group時代の彼は、非常に若いにもかかわらず完成度の高いR&Bシンガーとして評価されていた。
しかしTrafficでは、その黒人音楽志向を捨てずに、もっと広い世界へ進んだ。
「Dear Mr. Fantasy」の歌唱はソウルである。
「Heaven Is in Your Mind」のオルガンにはゴスペルがある。
しかし曲全体はサイケデリック・ロックだ。
この複数性がWinwoodの長いキャリアを特徴づけることになる。
後のBlind Faith、Traffic再結成期、さらにソロ作品まで、彼は常にロック、ソウル、ジャズ、R&Bの境界を横断していく。
『Mr. Fantasy』はその出発点である。
また、歌詞面では「幻想」と「現実」の関係が繰り返し現れる。
「Heaven Is in Your Mind」では天国は内面にある。
「No Face, No Name, No Number」では人物のアイデンティティが消える。
「Dear Mr. Fantasy」では幻想を提供する人物自身の悲しみが描かれる。
「Coloured Rain」では現実の自然が異なる色彩へ変わる。
つまり、本作におけるファンタジーは単なる逃避ではない。
現実の見方を変えるための方法である。
しかし、その幻想は常に幸福とは限らない。
特に「Dear Mr. Fantasy」が重要だ。
幻想を作る側の人物は、人々を楽しませる一方、自分自身は悲しみを抱えている。
これは1960年代のロック・スター文化が巨大化していく中で、非常に先見的なテーマだった。
観客はスターに自由を投影する。
しかしスター本人は、常に自由であるとは限らない。
後のロック史で何度も繰り返される「エンターテイナーの孤独」というテーマが、ここですでに明確に現れている。
音響面では、『Mr. Fantasy』は現代の基準からするとかなり時代性が強い。
ステレオ配置。
エフェクト。
楽器の処理。
1967年のサイケデリック制作らしい特徴がある。
しかし、その中心にある演奏は非常に生々しい。
これは重要だ。
Trafficはスタジオ技術だけで成立したバンドではない。
メンバーそれぞれが即興能力を持っていた。
そのため、特殊効果を外しても曲が成立する。
特に「Giving to You」は、このバンドが将来スタジオ・ポップよりも演奏中心の方向へ進む可能性を明確に示している。
Trafficの後の作品を知っていると、『Mr. Fantasy』の中にはその未来がすでに見える。
『John Barleycorn Must Die』では英国フォーク、ジャズ、ロックがより有機的に結びつく。
『The Low Spark of High Heeled Boys』では長尺のジャムとジャズ・ロックが発展する。
つまり『Mr. Fantasy』は完成されたTrafficの最終形ではない。
むしろ、その後に進む可能性を大量に内包したデビュー作である。
1960年代後半から1970年代初頭にかけて、ロックは急速に「曲を演奏する音楽」から「アルバム全体で世界を作る音楽」へ変化した。
Trafficもその変化の中心にいた。
しかし彼らはYesやGenesisのように大規模な構築美へ向かわなかった。
もっとジャム的で、もっと土着的で、もっとソウルに近かった。
この点でTrafficは、プログレッシヴ・ロックとジャズ・ロックの間にある独自の位置を占める。
また、『Mr. Fantasy』は英国ロックとアメリカ黒人音楽の関係を考えるうえでも重要である。
1960年代英国ロックの多くはブルース、R&B、ソウルから強い影響を受けていた。
The Rolling Stones。
The Animals。
The Yardbirds。
The Spencer Davis Group。
Trafficもその延長線上にある。
しかしTrafficは、その影響を単なるブルースの模倣にとどめなかった。
ジャズ。
フォーク。
サイケデリア。
東洋音楽。
それらと組み合わせることで、より独自のハイブリッドを作った。
そのため『Mr. Fantasy』は、1967年の「サマー・オブ・ラヴ」を象徴する華やかなサイケデリック作品であると同時に、1970年代ロックの複雑化を予告する作品でもある。
特に後世への影響を考えると、ジャズとロックを横断したバンド、フォークとエレクトリック・ロックを結びつけたアーティスト、そして特定のジャンルに収まらないブルーアイド・ソウル系シンガーにとって、Trafficの方法論は重要な先例となった。
『Mr. Fantasy』は、サイケデリアの時代に生まれたアルバムでありながら、その本質は「自由」にある。
楽器を限定しない。
ジャンルを限定しない。
一人の作曲家に限定しない。
曲の形式も限定しない。
短いポップ・ソングもあれば、即興的な演奏もある。
英国的なユーモアもあれば、アメリカR&Bの重さもある。
この自由さこそがTrafficの最初の魅力だった。
そしてアルバム・タイトルにある「Fantasy」は、現実から逃げるための幻想ではなく、音楽が既存の境界を越えるための想像力と理解することができる。
『Mr. Fantasy』は、その想像力がまだ整理されきっていないからこそ魅力的なデビュー作であり、1960年代サイケデリック・ロックから1970年代のジャンル横断型ロックへ向かう重要な橋渡しとなった作品である。
おすすめアルバム
1. Traffic – John Barleycorn Must Die(1970)
Trafficの音楽的成熟を代表する作品。英国フォーク、ジャズ、ブルース、ロックをより有機的に融合し、「Glad」「Freedom Rider」「John Barleycorn」などを収録する。『Mr. Fantasy』で提示された多様なアイデアが、より統一された演奏スタイルへ発展した一枚である。
2. Traffic – The Low Spark of High Heeled Boys(1971)
長尺の即興、ジャズ的なアンサンブル、Steve Winwoodのソウルフルな歌唱を融合したTraffic中期の代表作。『Mr. Fantasy』の「Giving to You」で見え始めたジャム志向が、より高度な形で完成している。
3. The Jimi Hendrix Experience – Are You Experienced(1967)
『Mr. Fantasy』と同じ1967年の英国サイケデリアを代表する作品。Trafficよりギター中心でブルース色も強いが、R&Bの基盤を残しながら新しい音響へ拡張した点で共通している。「Dear Mr. Fantasy」のブルース/サイケデリア的感覚とも比較しやすい。
4. The Beatles – Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band(1967)
1967年の英国サイケデリック・ロックを決定づけた作品。スタジオ技術、インド音楽、ミュージックホール、ロック、クラシックを横断し、「ロック・アルバムは複数ジャンルを共存させられる」という可能性を大きく広げた。『Mr. Fantasy』の時代背景を理解するうえで欠かせない。
5. Family – Music in a Doll’s House(1968)
英国サイケデリアからプログレッシヴ・ロックへ向かう過程を示す重要作。フォーク、ブルース、ジャズ、奇妙なポップ・アレンジを混在させ、Trafficと同様に一つのジャンルへ収まらない。『Mr. Fantasy』の英国的な折衷性をさらに探るうえで関連性の高い作品である。

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