
発売日:1974年9月
ジャンル:Progressive Rock / Jazz Rock / Folk Rock
概要
When the Eagle Fliesは、Trafficが1974年に発表したスタジオ・アルバムで、1970年代前半の活動期を締めくくる作品となった。中心人物Steve Winwoodに加え、Jim Capaldi、Chris Wood、Rosko Geeという編成で制作され、前作Shoot Out at the Fantasy Factoryで広がっていたジャズ・ロック的な演奏を残しながら、より暗く内向きな音へ進んでいる。ギターを前面に押し出すより、Winwoodのオルガン、ピアノ、シンセサイザーとWoodの木管楽器を軸にした曲が多く、長い即興演奏よりも歌と音色の組み合わせに重点が置かれている。
歌詞を主に担うCapaldiの視線も重い。自然と人間の関係、精神的な探求、都市生活への違和感などが曲ごとに現れ、タイトル曲では文明の行方にまで視野が広がる。ただし、明確な物語を持ったコンセプト・アルバムではなく、共通する問題意識が各曲を緩やかにつないでいると考える方が近い。初期Trafficのサイケデリアとも、1970年代初頭の開放的なジャム中心の音とも違う、晩期ならではの緊張感を持った作品である。
全曲レビュー
1. 「Something New」
オルガンとリズム隊が作る軽快な動きから始まり、アルバムの中では比較的明るい入口になっている。Rosko Geeのベースは単に低音を支えるだけでなく細かく動き、Capaldiのドラムと組み合わさってファンクに近い弾力を作る。その上でWinwoodのボーカルは力まずに旋律を運び、鍵盤が隙間を埋めていく。新しい方向を探そうとする歌詞も含め、後半の重い曲へ進む前にTrafficの演奏力を簡潔な形で示す曲である。
2. 「Dream Gerrard」
11分を超える長尺曲で、Trafficが得意としてきたジャズ、ロック、即興的な演奏の接点がもっとも明確に現れる。一定のリズムを土台にしながら、Winwoodの鍵盤とChris Woodの管楽器が長いフレーズを交わし、歌の部分とインストゥルメンタル部分の境界が徐々に曖昧になっていく。Vivian Stanshallが歌詞に関わっており、言葉も通常の物語を追うというより夢や精神世界を思わせるイメージを連ねる。長さを劇的な展開のためではなく、同じ空気の中を深く進むために使った曲だ。
3. 「Graveyard People」
タイトル通り陰のある曲で、都会の生活に埋没した人々を眺めるような歌詞と、沈んだ演奏が結びついている。Winwoodのオルガンは華やかなソロを取るより暗い和音を置き、ベースとドラムも重心を低く保つため、演奏全体に閉塞感がある。Woodの管楽器が入ると音色は広がるものの、雰囲気が明るくなるわけではない。前曲の夢のような抽象性から、社会の中で生きる人間への視線へ焦点を戻す役割も担っている。
4. 「Walking in the Wind」
リズム隊が前面へ出たファンキーな曲で、アルバム前半の重苦しさをいったん解放する。Geeのベースが拍の間を縫うように動き、Capaldiのドラムがそれを押し出すことで、Trafficらしいジャズ的な柔軟さを残しながら身体的なグルーヴを作っている。Winwoodの歌も比較的開放的で、鍵盤はリズム楽器として細かくアクセントを加える。構成を複雑にするより、メンバー同士の反応の速さを聞かせるタイプの曲である。
5. 「Memories of a Rock n’ Rolla」
題名にはロックンロールへの言及があるものの、単純に昔のロックを再現する曲ではない。ピアノを中心とした演奏にはどこかくたびれた温かさがあり、過去を振り返る歌詞も無邪気な懐古というより、時間の経過を意識したものとして聞こえる。Winwoodのソウルに根差した歌唱が曲の中心に置かれ、派手なアンサンブルより言葉と旋律が優先されている。アルバム後半で人間的なスケールへ戻る、落ち着いた一曲だ。
6. 「Love」
短いタイトルとは対照的に、演奏には複数の層があり、単純なラブソングには収まらない。Winwoodの鍵盤を中心にリズムがゆったりとうねり、ボーカルも強く押し出すのではなく、その流れに溶け込むように歌われる。Trafficがブルースやソウルから受け継いだ感覚と、1970年代に深めたジャズ寄りのアンサンブルが自然に同居している。長尺の曲が多い後半にありながら、技巧を誇示せず、繰り返しによって穏やかな集中を作っている。
7. 「When the Eagle Flies」
タイトル曲はアルバムの問題意識をもっとも大きなスケールへ広げる。ピアノやシンセサイザーを含む鍵盤の暗い響きと抑えたリズムによって緊張を作り、Winwoodの声も次第に力を増していく。歌詞では自然、精神性、人間の行動とその結果を結びつけ、鷲を象徴的なイメージとして使いながら文明への警告を思わせる内容へ進む。派手な解決を用意せず、不安を残したままアルバムを閉じることで、Trafficの1970年代前半の活動にも重い終止符を打っている。
総評
When the Eagle Fliesは、Trafficの代表的な要素を持ちながら、それまでとは異なる密度で組み直した作品である。初期に目立ったサイケデリックな色彩やフォーク的な軽さはかなり薄れ、1970年代の作品で発展したジャズ的なアンサンブルも、ここでは長いジャムを楽しむためだけには使われない。鍵盤、サックスやフルート、ベース、ドラムが互いに空間を残し、必要なところだけを埋めるため、音数が多くない場面にも緊張が続く。
特にRosko Geeの参加は、アルバムのリズム感を理解するうえで重要である。Winwoodがベースまで担当する形ではなく、専任ベーシストがCapaldiと組むことで、「Something New」や「Walking in the Wind」では低音が独立して動けるようになった。その一方でChris Woodの管楽器とWinwoodの鍵盤というTraffic固有の組み合わせは残されている。新しいリズム隊と以前からの音色が共存していることが、本作独特のファンクとジャズ・ロックの混ざり方につながった。
曲による即効性にはかなり差がある。「Dream Gerrard」の長い反復や、全体に漂う暗い音色は、John Barleycorn Must Dieのような代表作と比べても簡単には入り込みにくい。しかし、その閉じた感触は歌詞の内容とよく一致している。都市生活や過去への視線から自然と文明をめぐるタイトル曲まで、楽観的な結論へ向かわない言葉を、演奏も無理に華やかに見せようとしない。
結果として本作は、Trafficの魅力を一曲ごとに分かりやすく整理した入門盤というより、バンドが長年混ぜてきたロック、ソウル、フォーク、ジャズを晩期の落ち着いた演奏へ集約したアルバムである。発表後にTrafficは活動を停止し、Winwoodはやがてソロ活動へ本格的に進むことになる。その歴史を知らなくても、タイトル曲まで聴けば、開放的な未来を提示する作品というより、一つの時期の終わりを感じさせる音になっていることが分かる。
おすすめアルバム
Shoot Out at the Fantasy Factory by Traffic
直前の1973年作で、長尺の演奏とジャズ・ロック的なアンサンブルをより開放的に展開している。そこからWhen the Eagle Fliesの暗く引き締まった音へ移る変化が分かりやすい。
John Barleycorn Must Die by Traffic
Traffic再始動期を代表する1970年作。ジャズ的な即興、フォーク、ソウルを少人数の演奏で結びつけており、後期Trafficの基本的な音楽語法がどこから発展したのかを確認できる。
The Low Spark of High Heeled Boys by Traffic
長い演奏の中で反復するグルーヴと即興を発展させた1971年作。When the Eagle Fliesより開放感があり、Trafficがジャズとロックを独自の方法で接続した時期の中心作である。
Solid Air by John Martyn
フォークを基盤にしながら、ジャズ的な演奏や深い低音、曖昧な音響を取り込んだ1973年作。Trafficとは曲作りが異なるが、英国ロックがジャンルの境界を緩めていた同時代の感覚を共有する。
Sneakin’ Sally Through the Alley by Robert Palmer
1974年発表。ファンクやソウルをロックの枠内で扱い、リズム隊の細かな動きを曲の中心に据えている。When the Eagle Fliesのファンキーな側面を、同時代の別方向から味わえる作品である。

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