発売日: 1969年11月
ジャンル: ハードロック、サイケデリックロック、ボブ・ディラン風ロックンロール
概要
『Mott the Hoople』は、イアン・ハンター率いるMott the Hoopleが1969年にIsland Recordsから発表したデビュー・アルバムであり、後のグラム・ロック期とは異なる“初期英国ロックの混沌と衝動”を記録した重要作である。
ガイ・スティーヴンスによって結成されたこのバンドは、ボブ・ディランとローリング・ストーンズの間に位置するような荒々しくも詩的なサウンドを武器に、当時の音楽シーンに登場した。
本作では、サイケデリックとプロト・ハードロック、ブルース・ロックが雑多に混じり合い、すでに後のMott the Hoopleに見られる劇場性や退廃的美学の萌芽が垣間見える。
また、演奏の未成熟さゆえのラフさが逆に魅力となり、“ロックとは何か”という問いへの一つの原始的な答えを鳴らしているともいえる。
全曲レビュー
1. You Really Got Me
キンクスの名曲をカバーした、爆音オープニング。
ハードで重厚なアレンジにより、オリジナルのビート・ポップをよりサイケデリックに変換。
初期のザ・フーを思わせる暴力的なエネルギーが迸る。
2. At the Crossroads
ダグ・サーム（Sir Douglas Quintet）の楽曲をディラン風にカバー。
イアン・ハンターのしゃがれたヴォーカルが哀愁を帯び、道を選びきれない男の孤独がにじむ。
バンドの叙情的側面が初めて顔を出す一曲。
3. Laugh at Me
ソニー・ボノのカバー。
アウトサイダーの視点で描かれた歌詞が、Mottの美学と絶妙にマッチする。
社会に対する反抗とユーモアが同居した、初期グラム精神の先駆的楽曲。
4. Backsliding Fearlessly
本作で初めて登場するハンターのオリジナル曲。
抒情的なピアノと勇壮なメロディが、後の“ロック叙事詩”的路線を予感させる。
“恐れずに後退せよ”という逆説的なメッセージがユニーク。
5. Rock and Roll Queen
本作中もっともタフなロックンロール・ナンバー。
鋭利なギター・リフとドライブ感に満ちたリズムが、のちのグラム時代の原型となる。
ガレージロックとしての完成度も高い。
6. Rabbit Foot and Toby Time
インストゥルメンタルの小品。
オルガンとブルース調のギターがゆったりと展開し、アルバムに一時の休息をもたらす。
7. Half Moon Bay
約10分に及ぶ壮大なサイケデリック・ジャム。
静かなピアノから始まり、ギターとオルガンが延々とうねり続ける展開は、Pink FloydやProcol Harumにも通じる。
Mott the Hoopleの“詩的幻想”の最初の爆発であり、異様に美しい混沌。
8. Wrath and Wroll
“Rock and Roll”と“Wrath（怒り）”のダブルミーニングを含む、ファズギター主体の荒々しい短編。
バンドの即興性と破壊衝動を象徴するようなフィナーレ。
総評
『Mott the Hoople』は、未完成でありながらもひたすらに“ロックの精神”を体現したデビュー作である。
グラム・ロックの華麗さやキャッチーさとは無縁だが、ここには“音楽で叫ぶ”という衝動、そして詩的な敗北感と内なるロマンが同居している。
ボブ・ディランの語り口、ローリング・ストーンズの荒さ、そしてピアノによる叙情性という異なる要素を混ぜ合わせたサウンドは、粗削りながら非常にユニーク。
後年のグラム時代よりもパンクやガレージ・リヴァイヴァルとの親和性が高く、現代的に再評価されるべき作品でもある。
バンドの旅はここから始まり、“道を踏み外した詩人たちのロックンロール”という彼らの個性は、すでにこのデビュー盤で確かに鳴っていた。
おすすめアルバム（5枚）
-
The Rolling Stones – Beggars Banquet (1968)
荒々しいブルース・ロックと社会性が融合。Mottの粗削りな美学と共通。 -
Bob Dylan – Highway 61 Revisited (1965)
イアン・ハンターの語り口に影響を与えた名盤。詩とロックの融合の源流。 -
The Pretty Things – S.F. Sorrow (1968)
サイケデリックとロックンロールの混淆。Mottの『Half Moon Bay』と近似。 -
The Faces – First Step (1970)
豪快さと繊細さを併せ持つロックンロール・バンドとしての共振。 -
T. Rex – Unicorn (1969)
グラム以前のボヘミアン的精神とサイケの混合。Mottの初期スタイルと響き合う。
コメント