発売日: 2015年1月19日
ジャンル: アルタナティブ・ロック、アメリカーナ、ブルース・ロック、ルーツ・ミュージック
『Modern Blues』は、The Waterboysが2015年にリリースした11作目のスタジオ・アルバムであり、
そのタイトル通り、伝統的なアメリカ南部音楽と現代的なロック精神を融合した“モダン・ブルース”の探求作である。
スコットランドやアイルランドのケルト的ルーツから離れ、マイク・スコットは本作で初めて録音をアメリカ・ナッシュビルで実施。
ナッシュビルという“聖地”がもたらす空気と音楽性を吸収しながら、
スコット流の詩情、ロックンロール、そして人生賛歌が高らかに鳴り響くアルバムとなっている。
マイク・スコットはこの作品を「魂の自由と拡張のためのロック・レコード」と称し、
サウンドはスワンプ、ゴスペル、ブルース、ソウル、アートロックがミックスされた開かれた音像を形成。
その一方で、リリックはこれまで以上に自己肯定的でユーモラス、かつスピリチュアルな哲学に根ざしている。
全曲レビュー
1. Destinies Entwined
熱量あるギターとホーンがぶつかり合う、力強いロック・オープナー。
“運命は絡み合っている”というタイトルの通り、
人生と恋、選択と偶然のドラマが、ブルースの熱を帯びて描かれる。
2. November Tale
穏やかでナレーション風の楽曲。
秋の終わりに起きた出会いと別れをめぐる、切なくもユーモラスな物語。
スコットの語りが詩的で親密に響く。
3. Still a Freak
本作中もっともアグレッシブで挑発的なロックナンバー。
「俺はいまでもフリークだ」と叫ぶスコットが、自身のアウトサイダー性を祝福する。
ギターの重厚なリフとリズムが全体を牽引。
4. I Can See Elvis
死者の幻影と交信するような、不思議なブルース・バラード。
“エルヴィスが見える”という一節は、音楽の神性と幻想、過去へのノスタルジーを共鳴させる。
5. The Girl Who Slept for Scotland
一種の寓話のような内容。スコットランドを眠り続ける少女に象徴し、
故郷やアイデンティティの変容を滑稽かつ感傷的に描いている。
6. Rosalind (You Married the Wrong Guy)
タイトル通り、間違った男と結婚したロザリンドへの告白ソング。
スコットの辛辣さと愛情が混じったリリックが魅力。
ルーツ・ロックとポップが心地よく融合。
7. Beautiful Now
アルバム随一のスピリチュアル・トラック。
“今この瞬間こそ美しい”というシンプルな肯定が、
包み込むようなサウンドとともに沁みわたる。ライヴでも人気の一曲。
8. Nearest Thing to Hip
ユーモアと郷愁に満ちたナンバー。
失われた文化、場所、人物へのラブソングであり、
“ヒップな何か”を探し続けるスコットの姿が見えてくる。
9. Long Strange Golden Road
10分に及ぶ壮大なエピック・ナンバーであり、アルバムの総括的トラック。
スコットの語りと歌が交錯し、人生、旅、芸術のすべてが大河のように流れていく。
ビート詩、ディラン、ゴスペル、ブルースすべてが凝縮された名曲。
総評
『Modern Blues』は、The Waterboysが築いてきた詩的ロックの系譜を、アメリカーナという広大な土壌に根ざして再起動させた作品である。
かつてのケルト的郷愁は鳴りを潜め、代わりにナッシュビルの陽光、ミシシッピの泥、アメリカのポップ・スピリットがその音を満たしている。
しかし、どれだけ土地が変わろうとも、そこに鳴っているのはやはり**“マイク・スコットの言葉”**であり、
その言葉は、夢と現実のあいだを行き来しながら、私たちの人生を祝福し、慰め、鼓舞してくれる。
これは旅のアルバムであり、再発見のアルバムであり、
そして何より、“年齢を重ねた魂の自由”を高らかに謳う、モダンな祝祭音楽なのだ。
おすすめアルバム
-
Bob Dylan / Modern Times
時代とともに歩むブルース詩人の代表作。 -
Lucinda Williams / Car Wheels on a Gravel Road
アメリカーナと個人の旅路が交差する心震えるアルバム。 -
Neil Young / Prairie Wind
郷愁と再生を同時に歌うフォーク・ロックの傑作。 -
Wilco / Sky Blue Sky
オルタナ・カントリーと内省的ポップの極致。 -
The Rolling Stones / Exile on Main St.
泥臭さと輝きが同居するアメリカ音楽への旅の原点。
特筆すべき事項
- 本作の録音はナッシュビルのBlackbird Studiosで行われ、現地ミュージシャンとのセッションによって**“Waterboys流アメリカーナ”**が形作られた。
-
参加メンバーにはギタリストの**Zach Ernst(元-Black Joe Lewis)やベーシストのDavid Hood(Muscle Shoals Rhythm Section)**など、
アメリカ南部ルーツを象徴するミュージシャンが名を連ねている。 -
『Modern Blues』はイギリスでTOP20入りし、批評的にも“最もパーソナルで親しみやすい作品”として高く評価された。
特に“Long Strange Golden Road”は、ライヴにおける新たな代表曲として定着している。
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