1. 歌詞の概要
「Misunderstood」は、Better Than Ezraが2001年にリリースしたアルバム『Closer』に収録されたナンバーであり、アルバム全体に流れる“再出発”というテーマの中で、特に「誤解」と「アイデンティティの再構築」に焦点を当てた楽曲である。
タイトルの“Misunderstood(誤解された)”という言葉が示すとおり、歌詞は他者との関係性におけるすれ違い、自分の真意が伝わらないもどかしさ、そして誤解されたままでいることの痛みと、それでもなお自分を取り戻そうとする強い意志を描いている。語り手は、自らの思いや行動が他人に誤って解釈されることに心を痛めつつも、その誤解に屈することなく、静かに立ち上がろうとする。
全体としては、内省的でありながらも希望を内包したトーンで進行し、Better Than Ezraの持ち味である“心にそっと寄り添うロック”の本質がにじみ出た作品となっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Misunderstood」が収録された『Closer』は、前作『How Does Your Garden Grow?』(1998)の実験的でアート志向なアプローチから一転して、よりメロディアスで親しみやすいロック・アルバムとして制作された。バンドの活動も新たなフェーズに入りつつあったこの時期、ケヴィン・グリフィンのソングライティングには“振り返り”と“癒し”という要素が色濃く表れており、本作もそうした作品群のひとつと位置づけられる。
また、“誤解”というテーマは、バンド自身のキャリアにも通じている。90年代中期の成功以降、グランジやオルタナの枠で語られがちだった彼らが、より繊細で文学的な表現を模索し、リスナーや批評家との間に“見えない溝”を抱えていたことが、本作の詩情の根にあるようにも思える。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、本曲の核となるリリックの一部を紹介し、英語と日本語訳を併記する(出典:Genius Lyrics):
Did you think it wouldn’t show?
You thought I’d never know
「顔に出てないと思ったかい?
僕が気づかないとでも思っていたのか」
And if you’re misunderstood
Then so am I
「君が誤解されているなら
僕だってそうさ」
このやり取りからは、語り手が“誤解されることの孤独”に共感し、それを共有しようとする姿勢が見て取れる。ここに描かれるのは、単なる自己弁護ではなく、相互理解を希求する切実な人間性である。
4. 歌詞の考察
「Misunderstood」は、対人関係の中で誰もが一度は経験する“自分が正しく伝わらないこと”の痛みを、非常に静かで繊細な筆致で描いた楽曲である。特に印象的なのは、語り手が“自分だけが傷ついている”という視点を取らず、相手の立場や心情に寄り添おうとする点だ。
“もし君が誤解されているなら、僕も同じだ”という一節には、自己と他者の境界を越えて、同じ場所に立とうとする共感の試みが込められている。つまりこの曲は、単なる“悲しみ”や“嘆き”ではなく、“理解されたい”という本能的な願いと、それが叶わない現実の間で揺れる心の記録なのである。
また、曲調も歌詞の世界観を見事に支えている。リズムは穏やかで、ギターとピアノが淡く絡み合いながら、どこか“言いたいことを言えずにいる”ような緊張感を保ちつつ進行していく。それが歌詞に込められた曖昧さや不完全性と絶妙に呼応している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Somewhere Only We Know by Keane
他人には理解されない“ふたりだけの場所”を求める心が重なる。 - Round Here by Counting Crows
都市の孤独と誤解の中で、人とつながろうとする語りの力が共鳴。 - The Scientist by Coldplay
過ちと誤解のあとで、関係をやり直したいという願いがにじむバラード。 - All I Want by Toad the Wet Sprocket
理解されたいという本音と、それでも届かない現実との葛藤を描く。 - Disarm by The Smashing Pumpkins
幼少期の痛みと誤解が、大人になった自分を形づくっているという告白的ロック。
6. “伝わらなさ”とどう共に生きるか
「Misunderstood」は、誤解という名の“すれ違い”が、ただの悲劇ではなく、“人と関わることそのもの”に内在する避けがたい側面であることを教えてくれる。そのうえで、この曲が伝えてくるのは、誤解されながらも、それでもなお他者とつながろうとする姿勢の尊さである。
Better Than Ezraはこの曲で、“完全な理解など存在しないかもしれないが、それでも分かり合おうとすることには意味がある”という、静かだが深い哲学を提示した。だからこの曲は、孤独や齟齬を抱えるリスナーにとって、自分だけではないという安心と、まだ対話は続けられるという希望をそっと灯してくれる。
「Misunderstood」は、伝わらないことが当たり前になってしまった現代において、なお“伝えたい”と願う人々のための歌である。わかってほしい、でもわかられない——そのジレンマのなかで、私たちはなお誰かに手を伸ばす。この曲は、その行為の静かな肯定なのだ。
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