- イントロダクション:Luscious Jacksonは“Beastie Boys周辺の女性バンド”だけではない
- アーティストの背景と歴史:East Village、Grand Royal、そして“Beastie Girls”という誤解
- 音楽スタイルと影響:ヒップホップの構造、ファンクの低音、オルタナの空気
- 代表曲の楽曲解説
- “Daughters of the Kaos”:初期Luscious Jacksonの地下室的グルーヴ
- “Citysong”:ニューヨークを歩くためのファンク・ポップ
- “Deep Shag”:90年代オルタナ・ファンクの隠れた名曲
- “Here”:映画『Clueless』にもつながる90年代ガール・グルーヴ
- “Naked Eye”:Luscious Jackson最大のヒット、涼しい官能とポップな開放感
- “Under Your Skin”:優しいメロディの奥にある不穏さ
- “Why Do I Lie?”:自分自身への問いをグルーヴにする
- “Ladyfingers”:甘いタイトルに隠れたエレクトロ・ポップ感
- “Nervous Breakthrough”:解散前のポップな焦燥
- “Show Us What You Got”:2013年の復活と女性たちの連帯
- アルバムごとの進化
- In Search of Manny:地下室から生まれた初期EP
- Natural Ingredients:NYの生活感をポップにしたデビュー・フルアルバム
- Fever In Fever Out:最大の成功作であり、洗練された名盤
- Electric Honey:よりポップで甘い後期作
- Greatest Hits:90年代の記憶をまとめたベスト盤
- Magic Hour:14年ぶりの再会としての復活作
- Jill Cunniffという軸:ベース、声、生活のポップ感覚
- Gabrielle GlaserとKate Schellenbach:ギターとドラムが作るNYの骨格
- Vivian Trimbleの役割:甘さ、鍵盤、ハーモニー
- Beastie BoysとGrand Royal:近さと距離
- 影響を受けたアーティストと音楽
- 影響を与えた音楽シーン:女性バンドのグルーヴ表現を広げた存在
- 他アーティストとの比較:Beastie Boys、Cibo Matto、Garbage、Le Tigreとの違い
- 近年の活動:大きなツアーは少ないが、再発と記憶は続く
- 文化的意義:Luscious Jacksonは90年代NYの“女性のグルーヴ”を残した
- まとめ:Luscious Jacksonは、街を歩く女性たちのグルーヴを鳴らしたバンドである
イントロダクション:Luscious Jacksonは“Beastie Boys周辺の女性バンド”だけではない
Luscious Jacksonは、アメリカ・ニューヨークで結成されたオルタナティブ・ロック/ファンク/ヒップホップ/ダウンテンポ系のバンドである。中心メンバーは、ベース/ボーカルのJill Cunniff、ギター/ボーカルのGabrielle Glaser、ドラムのKate Schellenbach、そしてキーボード/ボーカルのVivian Trimble。1990年代、Beastie BoysのレーベルGrand Royalと強く結びつきながら、女性バンドとしては珍しい形で、ヒップホップのビート、ファンクのベース、オルタナティブ・ロックのギター、ポップなコーラスを混ぜた音楽を作った。
彼女たちの音楽を一言で表すなら、“ニューヨークのストリート感と、女性同士の会話のようなハーモニーを持つグルーヴ・ポップ”である。Luscious Jacksonの曲は、ロックのように叫びすぎない。ヒップホップのようにラップだけで押し切るわけでもない。ファンクのように腰で聴けるが、ポップソングとしても耳に残る。そこに、ゆるいラップ、涼しい歌声、サンプル感覚、都会的な余白がある。
代表曲は、1996年のアルバムFever In Fever Outから生まれた“Naked Eye”である。この曲はBillboard Hot 100で36位、Modern Rock Tracksで18位を記録し、イギリスではUKシングルチャート25位に入った。Luscious Jacksonにとって最大のクロスオーバー・ヒットである。
ただし、Luscious Jacksonの魅力は一曲だけではない。“Citysong”、“Deep Shag”、“Here”、“Daughters of the Kaos”、“Under Your Skin”、“Why Do I Lie?”、“Ladyfingers”など、90年代のニューヨーク的な空気を濃く閉じ込めた曲が多い。Pitchforkは、彼女たちをBeastie BoysのGrand Royalが最初に契約したバンドとして紹介し、初期EPIn Search of Mannyを見落とされがちな魅力作として振り返っている。Pitchfork
アーティストの背景と歴史:East Village、Grand Royal、そして“Beastie Girls”という誤解
Luscious Jacksonは、1991年ごろのニューヨークで結成された。バンド名は、NBA選手Lucious Jacksonに由来するとされる。中心となったJill CunniffとGabrielle Glaserは、友人Tonyの地下スタジオでサンプルやコーヒーをめぐりながら曲を作り始めた。公式系のバイオ資料でも、最初期の曲がその地下スタジオで生まれたことが紹介されている。The Luscious Jackson Source
彼女たちの周囲には、Beastie Boysがいた。特にKate Schellenbachは、Beastie Boysがまだハードコア・パンク寄りだった初期にドラマーとして関わっていた人物である。そのためLuscious Jacksonは、早い段階から“Beastie Boysの女性版”“Beastie Girls”のようなラベルを貼られた。実際、彼女たちはBeastie BoysのGrand Royalから作品を出しており、PitchforkもLuscious JacksonをGrand Royal最初の契約バンドとして紹介している。Pitchfork
しかし、このラベルは半分正しく、半分間違っている。たしかにLuscious Jacksonには、Beastie Boys的なニューヨークの雑多な音楽感覚がある。ヒップホップ、ファンク、パンク、ダブ、サンプル、ストリート感。しかし、彼女たちの音楽はもっと柔らかく、女性同士の会話のようで、メロディとハーモニーが前に出る。Beastie Boysが少年たちの悪ふざけとコラージュの爆発なら、Luscious Jacksonは街角で話しながら歩く女性たちのグルーヴである。
音楽スタイルと影響:ヒップホップの構造、ファンクの低音、オルタナの空気
Luscious Jacksonの音楽は、ジャンルで切り分けるのが難しい。ロックバンドだが、普通のギターロックではない。ヒップホップ的だが、ラップグループでもない。ファンクだが、ヴィンテージ・ファンクの再現でもない。
まず重要なのは、ベースとドラムのグルーヴである。Jill Cunniffのベースは、曲の中心にいる。Luscious Jacksonの音楽は、ギターリフよりもベースラインが身体を動かす。Kate Schellenbachのドラムも、ロック的に叩きつけるだけではなく、ヒップホップのブレイクビーツやファンクの跳ねを意識している。
次に、サンプル/コラージュ感覚がある。実際のサンプル使用だけでなく、曲の作り方がコラージュ的だ。リズム、声、ギター、キーボード、効果音が、ニューヨークの街の断片のように重なる。あるレビューでは、彼女たちの音を、BeckのOdelayやBeastie BoysのIll Communicationと比較し、ブレイクビーツとギター・テクスチャー、サンプル的な構成が混ざる“音のコラージュ”として捉えている。ディアゴッドプロダクションズ
さらに、女性ボーカルの重なりが非常に重要だ。Jill Cunniff、Gabrielle Glaser、Vivian Trimbleの声は、ソウルフルに張り上げるより、淡く、近く、会話的に重なる。そこにLuscious Jackson特有の温度がある。攻撃的な女性ロックとも、清楚なガール・ポップとも違う。クールで、少し気だるく、しかし芯がある。
代表曲の楽曲解説
“Daughters of the Kaos”:初期Luscious Jacksonの地下室的グルーヴ
“Daughters of the Kaos”は、初期EPIn Search of Mannyを象徴する曲である。タイトルからして、混沌の娘たち。Luscious Jacksonの出発点にふさわしい言葉だ。
この曲には、初期の荒いサンプル感、ヒップホップ的なビート、低くうねるベース、少しダークなムードがある。PitchforkはIn Search of Mannyを、ファンキーでボヘミアンなGen-X的空気を持つ見落とされがちなEPとして振り返っており、“Daughters of the Kaos”のような曲に初期の暗さと魅力を見ている。Pitchfork
この曲を聴くと、Luscious Jacksonが最初から“かわいい女性バンド”として出てきたわけではないことが分かる。彼女たちは、ニューヨークの地下でビートを組み、ベースを鳴らし、声を重ねながら、自分たちのグルーヴを探していた。
“Citysong”:ニューヨークを歩くためのファンク・ポップ
“Citysong”は、Luscious Jacksonの世界観をよく表す曲である。タイトル通り、街の歌だ。高層ビル、地下鉄、アパート、歩道、クラブ、レコード店、友人たち。そうしたニューヨークの断片が、ビートの中に入っている。
この曲の魅力は、街を説明するのではなく、街のリズムをそのまま鳴らしているところだ。ベースは歩くように動き、ドラムは軽く跳ね、声は近くで話すように響く。Luscious Jacksonは、ニューヨークを観光名所として歌うのではなく、生活する場所として鳴らした。
“Deep Shag”:90年代オルタナ・ファンクの隠れた名曲
“Deep Shag”は、1994年のアルバムNatural Ingredientsを代表する曲の一つである。ギター、ベース、リズム、声のバランスが非常によく、Luscious Jacksonのポップセンスが前に出ている。
この曲には、90年代らしいゆるさがある。グランジのような怒りではなく、ヒップホップの硬いビートでもなく、もっと身体を横に揺らすような感覚だ。曲名の“Shag”にはダンスや性的ニュアンスもあるが、Luscious Jacksonはそれを露骨に押し出さず、涼しい顔でグルーヴにする。
“Here”:映画『Clueless』にもつながる90年代ガール・グルーヴ
“Here”は、Luscious Jacksonの中でもポップで親しみやすい曲である。1995年の映画『Clueless』のサウンドトラックにも収録され、90年代の若者文化と結びついた曲として記憶されている。
この曲では、彼女たちのメロディの強さがよく出ている。ビートはしっかりしているが、曲の中心には声とコーラスがある。軽やかで、都会的で、少しだけメランコリック。まさに90年代中盤のオルタナ・ポップの空気だ。
“Naked Eye”:Luscious Jackson最大のヒット、涼しい官能とポップな開放感
“Naked Eye”は、Luscious Jackson最大の代表曲である。1996年のアルバムFever In Fever Outからのシングルで、Billboard Hot 100で36位、Modern Rock Tracksで18位を記録し、UKシングルチャートでは25位に入った。
この曲の魅力は、涼しさと官能性のバランスにある。タイトルの“Naked Eye”は「肉眼」を意味するが、同時に裸の視線、飾らない見方、剥き出しの感覚も連想させる。曲はセクシーだが、過剰に熱くならない。むしろ、夜の街を歩きながら自分の身体と感情を確認しているようなクールさがある。
サウンドは洗練されている。Daniel Lanoisがプロデュースに関わったFever In Fever Outの質感もあり、初期のざらつきよりも、深く滑らかな空気がある。Luscious Jacksonの持つヒップホップ/ファンク/ポップの要素が、最もラジオ向きにまとまった曲だ。
“Under Your Skin”:優しいメロディの奥にある不穏さ
“Under Your Skin”は、Fever In Fever Out収録曲の中でも、メロディとコーラスが印象的な曲である。タイトルは「あなたの皮膚の下」。親密さと不気味さが同時にある。
Luscious Jacksonの曲には、こうした曖昧な身体感覚がよく出る。近づきたい。入り込みたい。だが、その親密さは少し危うい。レビューでも、Fever In Fever Outの魅力として、“Under Your Skin”や“Why Do I Lie?”におけるハーモニーの美しさが挙げられている。ディアゴッドプロダクションズ
“Why Do I Lie?”:自分自身への問いをグルーヴにする
“Why Do I Lie?”は、Luscious Jacksonの中でも非常に優れた楽曲である。タイトルは「なぜ私は嘘をつくのか」。恋愛の曲にも、自分自身への問いにも聞こえる。
この曲では、Jill Cunniffたちの声の重なりが非常に美しい。嘘をつくこと、隠すこと、守ること、傷つけること。そうした複雑な感情を、説教ではなく、柔らかいグルーヴで包む。Luscious Jacksonは、内面の弱さを踊れる音楽にするのがうまい。
“Ladyfingers”:甘いタイトルに隠れたエレクトロ・ポップ感
“Ladyfingers”は、1999年のアルバムElectric Honeyを代表する曲である。UKシングルチャートでは43位を記録している。officialcharts.com
タイトルは菓子の名前でもあり、女性の指を思わせる言葉でもある。Luscious Jacksonらしく、甘さと身体性が同時にある。曲は以前よりもポップで、電子的な質感も増している。
この時期のLuscious Jacksonは、初期のヒップホップ・ファンク・コラージュから、より洗練されたポップへ向かっていた。“Ladyfingers”は、その変化をよく表す曲である。
“Nervous Breakthrough”:解散前のポップな焦燥
“Nervous Breakthrough”もElectric Honey期の重要曲である。タイトルの「神経質な突破」は、バンドの当時の状況にも重なる。メンバーの変化、音楽業界の変化、90年代オルタナの終わり。そうした中で、彼女たちはまだポップに前へ進もうとしていた。
この曲には、以前よりも明るいポップロック感がある。しかし、タイトル通りどこか落ち着かない。Luscious Jacksonの後期らしい、洗練と不安の混ざった曲だ。
“Show Us What You Got”:2013年の復活と女性たちの連帯
“Show Us What You Got”は、2013年の復活作Magic Hourに収録された曲である。14年ぶりのアルバムとして発表されたMagic Hourは、クラウドファンディングで制作された。NPRは、メンバーたちが子育てや別の仕事を経て再び集まり、日常の会話のようなアルバムを作ったと紹介している。WWNO
この曲は、若い頃の鋭さよりも、長く生きてきた女性たちの連帯感が前に出ている。Luscious Jacksonは、単に90年代を再現するために戻ったのではなく、友人同士として、母として、アーティストとして、もう一度音を鳴らしたのである。
アルバムごとの進化
In Search of Manny:地下室から生まれた初期EP
1992年のIn Search of Mannyは、Luscious Jacksonの最初期の重要作である。Grand Royalからリリースされ、バンドの方向性を示したEPだった。Pitchforkは、この作品を見落とされがちな魅力作として振り返り、初期Luscious Jacksonのファンキーで少し暗い質感を評価している。Pitchfork
このEPには、まだ粗さがある。だが、その粗さが良い。ヒップホップのビート、ファンクのベース、ゆるいラップ、ストリート的な空気。Luscious Jacksonの核は、ここですでに完成しかけている。
Natural Ingredients:NYの生活感をポップにしたデビュー・フルアルバム
1994年のNatural Ingredientsは、Luscious Jacksonの最初のフルアルバムである。Billboardアルバムチャートでは114位を記録したとされる。elpee.jp
このアルバムでは、初期EPの地下室的なムードが、より曲として整理されている。“Citysong”、“Deep Shag”など、ニューヨークの生活感とポップなメロディが結びついた曲が並ぶ。
タイトルのNatural Ingredientsも良い。「自然な材料」。彼女たちは、サンプル、ベース、ドラム、声、街の空気という材料を混ぜ、自分たちの料理を作った。これは、Beastie Boys的なコラージュの女性版ではなく、Luscious Jackson独自のグルーヴ・ポップである。
Fever In Fever Out:最大の成功作であり、洗練された名盤
1996年のFever In Fever Outは、Luscious Jacksonの代表作である。Grand RoyalとCapitolからリリースされ、Billboard 200で72位、UKアルバムチャートで55位を記録し、2000年時点で50万枚以上を売り上げたとされる。
このアルバムは、初期のざらつきを保ちながら、より深く、滑らかで、メロディアスになっている。“Naked Eye”、“Under Your Skin”、“Why Do I Lie?”など、バンドの魅力が最も広く届いた作品だ。
あるレビューは、このアルバムの魅力を、雨の日のような雰囲気、誠実な歌詞、白黒写真のような遠い美しさを持つプロダクションに見ている。lollipopmagazine.com
まさにその通りで、Fever In Fever Outは、都会的なのに湿度がある。涼しいのに、奥で熱がある。Luscious Jacksonの最高到達点と言ってよい。
Electric Honey:よりポップで甘い後期作
1999年のElectric Honeyは、Luscious Jacksonの3作目である。UKではアルバムチャートに入り、シングル“Ladyfingers”もUKチャート43位を記録した。officialcharts.com
このアルバムでは、Vivian Trimbleがすでに脱退しており、サウンドはよりポップで明るくなっている。タイトルのElectric Honeyは、電子的な甘さを思わせる。初期のNYストリート・グルーヴから、より洗練されたオルタナ・ポップへ向かった作品だ。
ただし、この時期のLuscious Jacksonは、90年代オルタナの流れが変わっていく中で、少し居場所を見失っていたようにも聞こえる。ヒップホップはよりメインストリーム化し、ポップはティーンポップへ向かい、ロックはポスト・グランジやニューメタルへ移っていく。その中で、Luscious Jacksonの都会的なファンク・ポップはやや時代の隙間に入ってしまった。
Greatest Hits:90年代の記憶をまとめたベスト盤
2007年のGreatest Hitsは、Luscious Jacksonのキャリアを整理する作品である。Pitchforkはこのベスト盤について、Grand Royal最初の契約バンドとしての彼女たちを振り返り、代表曲を押さえつつも、初期の魅力を完全に伝えるには不十分な部分もあると評している。Pitchfork
ベスト盤は、初めて聴く人には便利だ。だが、Luscious Jacksonの場合、アルバムごとの空気が重要でもある。特にIn Search of MannyとFever In Fever Outは、単なる曲集ではなく、時代と街のムードを含んだ作品として聴きたい。
Magic Hour:14年ぶりの再会としての復活作
2013年のMagic Hourは、Luscious Jacksonにとって14年ぶりのアルバムである。NPRは、メンバーが子育てや別のキャリアを経た後、クラウドファンディングによって制作した作品として紹介している。WWNO
Pitchforkはこのアルバムについて、90年代の緊急感や謎めいた魅力には届かず、友人同士が再び集まったような作品だとやや辛口に評価している。Pitchfork
これは確かに一理ある。Magic Hourは、90年代のLuscious Jacksonをそのまま取り戻す作品ではない。だが、別の意味で重要だ。彼女たちが若い頃のクールさを競うのではなく、人生を経た友人として、再び音楽を作った記録だからである。
Jill Cunniffという軸:ベース、声、生活のポップ感覚
Jill Cunniffは、Luscious Jacksonの中心人物である。彼女のベースは、バンドのグルーヴを支えるだけでなく、曲の性格そのものを決めている。重すぎず、軽すぎず、ファンク的に動くベースラインが、Luscious Jacksonの身体性を作る。
彼女の歌詞には、日常の感覚がある。街を歩く、恋をする、嘘をつく、友人と話す、自分の身体を感じる。大きなロックの神話より、生活の中のリズムが重要なのだ。
2007年にはソロアルバムCity Beachも発表しており、Luscious Jacksonの中にあった都会的でビーチ的なポップ感覚を、より個人的な形で展開した。
Gabrielle GlaserとKate Schellenbach:ギターとドラムが作るNYの骨格
Gabrielle Glaserのギターは、Luscious Jacksonの音にロックの輪郭を与えている。彼女のギターは、派手なソロで主張するより、リズムとテクスチャーとして機能する。ヒップホップ的なビートの上にギターを置くことで、曲にざらついた都会感が出る。
Kate Schellenbachのドラムは、バンドの歴史的にも重要だ。Beastie Boys初期との関係もあり、彼女はパンクとヒップホップの両方を身体で知っていたドラマーである。Luscious Jacksonのビートが、ただのロック・ドラムにならないのは、彼女の感覚が大きい。
Vivian Trimbleの役割:甘さ、鍵盤、ハーモニー
Vivian Trimbleは、1992年から1997年までLuscious Jacksonに在籍したキーボード奏者/ボーカリストである。彼女の存在は、初期からFever In Fever Out期の音に非常に大きい。
キーボードの柔らかさ、ハーモニーの奥行き、少しジャジーでヨーロッパ的な雰囲気。これらはTrimbleの貢献による部分が大きい。彼女の脱退後、Luscious Jacksonの音は少し明るくポップになったが、初期の陰影や複雑な香りは薄まったようにも感じられる。
2023年、Luscious Jacksonの公式Facebookは、Vivian Trimbleを失ったことに触れ、彼女が1992年から1997年までバンドの一員であり、パリ育ちの感性をバンドに持ち込んだ存在だったと追悼している。Facebook
Beastie BoysとGrand Royal:近さと距離
Luscious Jacksonは、Beastie BoysのGrand Royalと切り離せない。Grand Royalは1990年代のオルタナティブ文化において、音楽だけでなく雑誌、ファッション、ストリート感覚を含むブランドのような存在だった。Luscious Jacksonは、その最初期の重要アーティストである。
ただし、彼女たちはBeastie Boysの影に埋もれる存在ではなかった。Beastie Boysが男性的な悪ふざけ、ラップ、サンプル、パンクの混合だったのに対し、Luscious Jacksonはもっと日常的で、女性的で、メロディ重視だった。
つまり、Luscious JacksonはGrand Royalの“派生”ではなく、Grand Royalの美学を別の方向へ広げたバンドである。
影響を受けたアーティストと音楽
Luscious Jacksonの音楽には、Beastie Boys、ESG、Blondie、The Slits、Tom Tom Club、Talking Heads、A Tribe Called Quest、De La Soul、Chic、Sly & The Family Stone、The Meters、Funkadelic、Liquid Liquid、ダブ、ヒップホップ、NYポストパンクの影響が感じられる。
特に重要なのは、女性がファンクとヒップホップのグルーヴを自分たちの言葉で鳴らしたことである。彼女たちは、男性中心のヒップホップ/ロックのミックスを、別の感性で作り直した。
影響を与えた音楽シーン:女性バンドのグルーヴ表現を広げた存在
Luscious Jacksonは、後続に巨大なジャンルを作ったバンドではないかもしれない。しかし、90年代の女性バンド/女性アーティストの表現を広げた存在である。
彼女たちは、女性バンドがギターをかき鳴らして怒るだけでなく、ヒップホップのビートに乗り、ファンクのベースを鳴らし、涼しい声で都会を歌うこともできると示した。Le Tigre、Cibo Matto、Santigold、M.I.A.、CSS、Warpaint、The Go! Team周辺の感覚を考えると、Luscious Jacksonの都市的なミックス感覚は先駆的だった。
特にCibo Mattoとの近さは面白い。どちらもニューヨークで、女性が中心で、ヒップホップ/ファンク/ポップ/奇妙な歌詞を混ぜる。ただし、Cibo Mattoがより実験的でアート寄りなのに対し、Luscious Jacksonはよりストリートで、バンドとしてのグルーヴが強い。
他アーティストとの比較:Beastie Boys、Cibo Matto、Garbage、Le Tigreとの違い
Beastie Boysと比べると、Luscious Jacksonはより歌が中心で、女性同士のハーモニーが重要だ。サンプルやビートの感覚は近いが、空気はずっと柔らかい。
Cibo Mattoと比べると、どちらもNYの多文化的なポップ感覚を持つが、Cibo Mattoはより奇妙で実験的、Luscious Jacksonはよりファンク/オルタナ寄りで聴きやすい。
Garbageと比べると、どちらも90年代女性ボーカルのオルタナ・ポップだが、Garbageはよりロック、インダストリアル、グラマラスな方向へ向かった。Luscious Jacksonはもっとヒップホップ、ファンク、ストリート寄りである。
Le Tigreと比べると、Le Tigreはより政治的でエレクトロ・パンク的だ。Luscious Jacksonは政治的スローガンよりも、生活、身体、街、関係性のグルーヴを重視した。
近年の活動:大きなツアーは少ないが、再発と記憶は続く
Luscious Jacksonは、2013年のMagic Hour以降、大規模な新作活動は多くない。SongkickやTicketmasterでは、現在予定されているライブは確認されていない。
一方で、近年は再発やアーカイブ的な動きが見られる。公式Instagramでは、2025年10月16日に新しいカラー盤のヴァイナル再発が予定されていることが告知されている。Instagram
これは、Luscious Jacksonの90年代作品が単なる懐メロではなく、今も再評価される価値を持っていることを示している。
文化的意義:Luscious Jacksonは90年代NYの“女性のグルーヴ”を残した
Luscious Jacksonの文化的意義は、90年代ニューヨークの雑多な音楽文化を、女性バンドの視点で形にしたことにある。
彼女たちは、ラウドなロックバンドでも、アイドル的なガールグループでもない。
ヒップホップを知っている。
ファンクを知っている。
パンクも知っている。
でも、すべてを自分たちの会話のテンポで鳴らす。
そこが新しかった。
Luscious Jacksonの曲には、90年代のニューヨークがある。古着屋、地下鉄、カフェ、クラブ、レコード屋、友人の部屋、夏の歩道、夜の湿気。そうした風景が、ベースとビートの中に残っている。
まとめ:Luscious Jacksonは、街を歩く女性たちのグルーヴを鳴らしたバンドである
Luscious Jacksonは、1990年代ニューヨークから登場したオルタナティブ・ロック/ファンク/ヒップホップ系のバンドである。Beastie BoysのGrand Royalと深く関わりながらも、彼女たちは独自の女性的で都会的なグルーヴを作った。
In Search of Mannyは、地下室的な初期の混沌とファンクを刻んだEPである。
Natural Ingredientsは、NYの生活感をポップにしたデビュー・フルアルバムである。
Fever In Fever Outは、“Naked Eye”を含む最大の成功作であり、最も洗練された名盤である。
Electric Honeyは、よりポップで甘い後期作である。
Magic Hourは、14年ぶりに友人たちが再び集まった復活作である。
Luscious Jacksonの音楽は、派手に叫ばない。
だが、身体が揺れる。
ベースが歩く。
ドラムが跳ねる。
声が重なる。
街が鳴る。
Luscious Jacksonとは、90年代ニューヨークのヒップホップ、ファンク、オルタナティブ・ロックを、女性たちの涼しい視線と会話のグルーヴで再構築した、唯一無二のバンドである。



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