発売日: 1979年12月14日
ジャンル: パンクロック、ロック、ポストパンク
アルバム全体のレビュー
1979年にリリースされたThe Clashの3rdアルバム「London Calling」は、パンクバンドとしての枠を超え、ロック史に残る重要な作品として評価されている。2枚組で発表されたこのアルバムは、パンクに留まらず、ロック、レゲエ、スカ、ジャズ、ロカビリーなど多様な音楽スタイルを取り入れ、The Clashの音楽的な野心を見事に表現している。70年代後半のイギリスの社会不安、経済危機、若者の失望感を背景に、アルバム全体を通して時代を鋭く批判しつつも、希望や再生の光も感じさせる作品だ。
ジョー・ストラマーとミック・ジョーンズが中心となって作り上げた「London Calling」は、エネルギーと怒りに満ちたパンク精神をベースにしながらも、楽曲ごとに異なるジャンルを大胆に取り入れている点が特徴的だ。特に、ポール・シムノンのベースラインが強調されたレゲエやスカの要素、クラシックロックへの回帰、そしてストラマーの政治的メッセージが混然一体となり、時代を超えて愛されるアルバムとなっている。
タイトル曲「London Calling」は、イギリスの没落と世界の変動を象徴する不吉な予言のような一曲であり、アルバム全体を貫く不安と怒り、そして抵抗のテーマを見事に体現している。アルバムジャケットには、ポール・シムノンがベースギターを叩きつける有名な写真が使用され、ロック史における象徴的なイメージとなっている。
各曲レビュー
1. London Calling
アルバムのタイトル曲であり、The Clashの代表曲の一つ。オープニングから放たれる緊迫感と不吉な雰囲気は、英国の没落と核戦争の恐怖を描写している。「London is drowning, and I live by the river」という歌詞は、時代の不安を象徴しており、ストラマーの力強いボーカルとシムノンの印象的なベースラインが楽曲全体を引き締めている。
2. Brand New Cadillac
ヴィンス・テイラーのロカビリーナンバーをカバーしたこの曲は、アルバムの中でも軽快で勢いのあるロックンロールナンバーだ。ジョーンズのギターが荒々しく、バンドのロックンロールルーツを感じさせる。短いが力強いこのトラックは、アルバムの多様性をすでに感じさせる。
3. Jimmy Jazz
ジャズとレゲエの要素が混ざり合った一風変わった曲。サックスが絡む柔らかいアレンジが印象的で、ストラマーのラフなボーカルが心地よいリズムに乗っている。歌詞はギャングや警察に追われる男の物語を描いており、シンプルなジャズの雰囲気がバンドの音楽的幅の広さを示している。
4. Hateful
この曲は中毒や依存をテーマにした歌詞が特徴で、シンプルな3コードのパンクロックに乗せて表現されている。エネルギッシュで軽快なリズムと、ストラマーの力強い歌詞が印象的で、バンドのシンプルで強烈なエッジが感じられる。
5. Rudie Can’t Fail
レゲエとスカの要素が色濃く反映されたこの曲は、若者の反抗精神と自己肯定感をテーマにしている。シムノンの弾むようなベースラインが、楽曲全体に軽やかなグルーヴを与えており、スカ特有のリズムが心地よい。「Rudie can’t fail」というフレーズは、失敗を恐れずに進む姿勢を称賛している。
6. Spanish Bombs
スペイン内戦をテーマにしたこの曲は、The Clashのポリティカルな側面が強く表れている。ストラマーがスペイン語を交えながら、戦争と革命の物語を歌い上げる。アコースティックギターのイントロと、ジョーンズの美しいメロディが、暴力的なテーマを対照的に描いており、アルバムの中でも特にメロディアスな一曲だ。
7. The Right Profile
俳優モンゴメリー・クリフトの悲劇的な人生を描いたこの曲は、ジャズやブラスセクションを取り入れた異色のトラック。リズムに乗った軽快なサウンドに乗せて、ストラマーがクリフトの苦悩や自己破壊を描いており、歌詞とサウンドのギャップが興味深い。
8. Lost in the Supermarket
ミック・ジョーンズがボーカルを担当するこの曲は、消費主義社会における疎外感をテーマにしている。静かなギターリフと、ジョーンズの繊細なボーカルが哀愁を感じさせ、歌詞には日常の中で感じる虚無感が反映されている。シンプルで美しいメロディが心に残る一曲だ。
9. Clampdown
労働者階級の搾取と社会の抑圧に対する怒りを描いた力強いパンクナンバー。「You grow up and you calm down」という歌詞は、若者が年を取るにつれて体制に従うようになることへの警告であり、バンドの反体制的な精神が全面に出ている。エネルギッシュなリフとストラマーの激しいボーカルが印象的だ。
10. The Guns of Brixton
ポール・シムノンがボーカルを務めたこの曲は、レゲエとパンクが融合した代表的なトラックで、アルバムの中でも異彩を放っている。シムノンの低く威圧的な歌声が、不安定な社会情勢と貧困に苦しむブリクストン地区の状況を描いている。ベースラインが特に印象的で、The Clashの多様な音楽性を象徴する曲だ。
11. Wrong ‘Em Boyo
この曲は、古いスカナンバー「Stagger Lee」のカバーで、The Clash流にアレンジされている。軽快なスカビートと、楽しいメロディが特徴的で、パンクの激しさとは対照的なリラックスした雰囲気が漂う。
12. Death or Glory
ロックンロール的なエッジが効いたこの曲は、成功とその代償をテーマにしている。「Death or glory becomes just another story」というリフレインが、理想と現実の落差を痛烈に表現している。バンドの野心と、音楽業界に対する皮肉が感じられる一曲だ。
13. Koka Kola
コカ・コーラを象徴に、企業主導の資本主義社会に対する痛烈な批判を歌っている。短く鋭いこの曲は、エネルギッシュでシンプルなサウンドが特徴的だが、歌詞には強い皮肉が込められている。
14. The Card Cheat
ピアノを中心に展開するこの曲は、壮大なサウンドが特徴で、犯罪と後悔をテーマにしたストーリー性のある歌詞が印象的。バンドの多彩なサウンドアプローチが見られ、他のパンク曲とは異なるスケール感を持つ。
15. Lover’s Rock
この曲は、恋愛とその不安定さをテーマにしている。軽快なリズムとメロディが楽曲にポップな要素を加えており、アルバムの中でも比較的明るい雰囲気が漂う。
16. Four Horsemen
終末の預言をテーマにしたこの曲は、メタファーを多用しており、パワフルなギターリフと激しいボーカルが楽曲を引き締めている。世界の終焉と暴力的な現実を描いた歌詞が印象的。
17. I’m Not Down
ミック・ジョーンズがボーカルを担当し、個人的な困難を乗り越える決意を歌っているこの曲は、ポジティブで力強いメッセージが込められている。軽快なギターワークとリズミカルなビートが、リスナーを元気づけるような一曲だ。
18. Revolution Rock
レゲエとロックを融合させたこの曲は、反体制的な精神を表現した一曲。ゆったりとしたリズムとグルーヴィーなベースラインが心地よく、The Clashのレゲエへの愛が感じられる。
19. Train in Vain
アルバムのラストを飾るこの曲は、ポップでキャッチーなメロディが特徴で、恋愛の破綻をテーマにしている。リズミカルなギターとストラマーの切ないボーカルが絡み合い、聴きやすいポップソングとしてアルバムのフィナーレを飾る。
アルバム総評
「London Calling」は、The Clashがパンクの枠を超えて音楽的な進化を遂げた名盤だ。パンク、ロック、レゲエ、スカ、ジャズといった多様なジャンルを取り入れつつ、バンドの反体制的な精神と社会へのメッセージは一貫して強烈だ。ジョー・ストラマーとミック・ジョーンズのソングライティングが頂点に達し、サウンド面でもリスナーを飽きさせない。エネルギッシュで時にシリアス、時にリラックスした雰囲気を持ち、何度聴いても新たな発見がある。ロック史に残る傑作として、今なお愛され続けている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- “The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars” by David Bowie
多様な音楽ジャンルを融合させたロックアルバム。The Clash同様、音楽的実験と独自のビジョンが光る一枚。 - “Combat Rock” by The Clash
「London Calling」後にリリースされたアルバムで、さらに多様なサウンドを取り入れたThe Clashの集大成とも言える作品。 - “Sandinista!” by The Clash
実験的で多様な音楽ジャンルを取り入れたアルバム。3枚組でリリースされ、The Clashの音楽的な野心がさらに膨らんだ作品。 - “Exile on Main St.” by The Rolling Stones
ロック、ブルース、カントリーなどの音楽ジャンルをミックスし、幅広い音楽性を持つアルバム。多様性という点で「London Calling」と通じるものがある。 - “London Calling Live in New York” by The Clash
「London Calling」の名曲をライブで体感できるアルバム。The Clashのライブエネルギーが最大限に発揮されている。
コメント