Lightning Strikes the Postman by The Flaming Lips(1995)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Lightning Strikes the Postman」は、The Flaming Lipsが1995年にリリースしたアルバム『Clouds Taste Metallic』に収録された楽曲であり、突発的で破滅的な出来事を通じて、日常の不確かさや予測不能な人生の理不尽さを描く、奇妙で皮肉なサイケデリック・ロックナンバーである。

歌詞の物語は単純明快だ。郵便配達員が雷に打たれて死ぬという出来事が語られるだけ。だがその事実を知った語り手は、手紙が届かないこと、あるいは手紙の内容が変わってしまうかもしれないことに混乱する。つまりこの楽曲は、一見無関係な悲劇が、自分の身にどう影響を及ぼすかを考え始める人間の不安心理と、世界の因果律の奇妙さを描いている。

「何かが“起きた”という事実」と、「それによって自分が“どう変わるか”という不確実性」——そのギャップにこそ、この楽曲の深層がある。ユーモラスに聞こえるが、実は“日常は脆くて曖昧だ”という不条理の哲学が詰め込まれている。

2. 歌詞のバックグラウンド

この楽曲が収録されている『Clouds Taste Metallic』は、The Flaming Lipsの7枚目のスタジオアルバムであり、商業的には控えめながらも、バンドの創造性が極限まで高まっていた時期の傑作として評価されている。本作は、サイケデリック・ポップの枠組みを保ちながらも、より複雑で実験的な構成を見せており、「Lightning Strikes the Postman」はその象徴的な1曲である。

Wayne Coyneはこの曲について明確な解説を多く残してはいないが、“出来事の理不尽さ”と“その影響の連鎖”をポップなメロディに落とし込むという手法は、バンドが後年さらに深化させる寓話的かつスリリングな語り口の原点とも言える。

また、ライブではこの曲はテンションの高いサイケ・ロックナンバーとして盛り上がりを見せる一方、スタジオ音源ではその背後にある不条理なテーマがじわじわと染み出してくるという二重構造を持っており、The Flaming Lipsの“祝祭と破壊”が共存する作風を象徴している。

3. 歌詞の抜粋と和訳

“Lightning strikes the postman in his head”
郵便配達員の頭に 雷が落ちた

“He is going down / And nothing can stop it”
彼は倒れた 誰にも止められない

“You read his thoughts / In a letter he left”
君は彼が残した手紙から 彼の思考を読み取る

It’s too late for change / And now it’s happening”
変えるには遅すぎた そして、今まさに起きている

“Lightning strikes the postman / In his dreams”
夢の中でさえ 雷は彼を襲う

歌詞引用元:Genius – The Flaming Lips “Lightning Strikes the Postman”

4. 歌詞の考察

「Lightning Strikes the Postman」は、“何かがおかしい”という漠然とした違和感を、寓話的なプロットと詩的イメージで表現した曲である。雷に打たれるという極端で非現実的な出来事は、日常に突如現れる“破綻”の象徴であり、それによって生じる連鎖的なズレ——たとえば、手紙が届かない、気持ちが伝わらない、現実が歪む——が、聴き手の心理にじわじわと作用する。

また、「手紙を読んで彼の考えを知る」というくだりは、“他人の死を通じて自分が何を感じるのか”という自己認識の契機を示している。これはThe Flaming Lipsの作品にしばしば現れる「死と再生」「現実の多層性」といったテーマと共鳴しており、単なるユーモアでは終わらない深みを与えている。

さらに「夢の中でも雷が彼を襲う」という一節は、死が現実の終わりではなく、意識や記憶、感情の領域にまで侵入してくるというオカルト的な想像力を示唆しており、現実と非現実の境界が曖昧になっていく構造が構築されている。

このように、「Lightning Strikes the Postman」は、突拍子のない物語のなかに、“自分の世界がいつ崩れてもおかしくない”という予感を巧みに織り込んだ寓話的ロックソングなのだ。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Unmarked Helicopters by Soul Coughing
     日常に潜む陰謀と現実の歪みをジャジーに描いたアヴァンポップ。

  • Weird Fishes/Arpeggi by Radiohead
     不安定な現実からの逃避と自己の再発見を描いた、音響の深海世界。

  • The Gash by The Flaming Lips
     失われたものと再生の痛みを、劇的な展開で描く“内なる戦い”の歌。

  • Spiders (Kidsmoke) by Wilco
     反復とミニマルな言葉で構成されながらも、政治的・精神的意味を含んだ実験的ロック。

6. “世界は突然狂い出す。だからこそ、詩になる。”

「Lightning Strikes the Postman」は、雷という突発的な自然現象を入り口に、因果のねじれ、不条理、死、そして情報の断絶といったテーマを詩的に展開する、静かな衝撃のロックソングである。

郵便配達員の死は、単なる“他人の事故”ではない。それは、世界のシステムが狂い始める兆候であり、私たち自身の感情や記憶の回路がわずかにズレていく瞬間を描いた物語なのだ。


「Lightning Strikes the Postman」は、日常にひそむ“雷”を描いた寓話であり、すべてが正しく届いているようで、実はどこかが狂っている現代の心象風景を浮き彫りにする。笑ってしまうほど皮肉で、でも少しだけ怖い。それがこの曲の魔法である。

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