アルバムレビュー:Lex Hives by The Hives

Spotifyジャケット画像

発売日: 2012年6月1日
ジャンル: ガレージロック、パンクロック


エネルギーの律法としてのロック——The Hivesが提示するロックンロールの正義

『Lex Hives』は、スウェーデンのガレージロックバンドThe Hivesが2012年にリリースした通算5作目のスタジオアルバムであり、彼ら自身のレーベルDisques Hivesから初めて発表された作品である。
このアルバムでは、原点であるパンク/ガレージの荒々しさをそのままに、バンドの美学とも言える即効性のあるエネルギーと完璧に計算されたカオスが貫かれている。

タイトルにある“Lex”はラテン語で「法(law)」を意味し、すなわち「ハイヴズの法」という宣言だ。
この作品は、ロックが本来持つべき衝動と反骨の美学を、自らのスタイルで体系化しようとする試みとも言える。
プロデュースには主にバンド自身が関わっており、ミックスにはアンドリュー・シェップス(Red Hot Chili PeppersAdeleを手がけた)らも参加。音作りには細部まで神経が行き届いている。


全曲レビュー

1. Come On!

アルバムの冒頭を飾るたった70秒のナンバー。
「カモン!」という絶叫のみで突き進む、ほぼ一行の歌詞とリフの応酬。
ロックは理屈じゃない、とでも言いたげな潔さだ。

2. Go Right Ahead

グラムロックの遺伝子を感じさせるマーチ調のビートと、ELOの“Don’t Bring Me Down”を思わせるリフ。
権利関係も正式に許可を得たうえでの引用であり、彼らの音楽へのリスペクトと遊び心が同居している。
全体としては、自己肯定と突き進む意志を歌ったアンセム。

3. 1000 Answers

ギターリフと共に炸裂するスピード感が爽快。
「答えは千ある、でもお前のは違う」と挑発的に歌い上げる。
不確実な時代におけるロックの態度表明のようにも思える。

4. I Want More

反復されるタイトルが印象的なミディアムテンポのナンバー。
物質社会の貪欲さをパロディのように誇張しつつ、快楽と欲望の本質を炙り出している。

5. Wait a Minute

アップビートなリズムに乗せて、「ちょっと待て」と語りかけるような構成。
衝動のまま突っ走るロックの中にも、理性が介在することを示唆する曲とも受け取れる。

6. Patrolling Days

シリアスなギターリフとリズムセクションが重厚な印象を与える。
監視社会や情報の管理といった現代的テーマを仄めかす歌詞が特徴的。
アルバムの中でも異色のダークなトーンを持つ。

7. Take Back the Toys

無邪気さと暴力性が交錯するパンクナンバー。
「おもちゃを取り返せ」と叫ぶその背後には、支配と自由というテーマが透けて見える。

8. Without the Money

ファンキーなリズムとひねりの効いたコード進行。
「金がなければ何もできない」という現実と、その滑稽さを茶化すような風刺性がある。

9. These Spectacles Reveal the Nostalgics

インテリぶった風刺タイトルとは裏腹に、内容は直球のガレージロック。
過去にすがる者への痛烈な一撃とも解釈できる。

10. My Time is Coming

自己宣言的な内容で、自己信頼と未来志向を強調する。
終盤に向かって加速する構成は、まるで自らの存在をロック史に刻み込もうとするかのようだ。

11. If I Had a Cent

皮肉たっぷりのスウィング調ナンバー。
資本主義社会の不条理を一セントの価値に置き換え、痛快に歌い上げる。

12. Midnight Shifter

サックスも加わり、ロカビリーやR&Bの要素も顔を覗かせるエンディング曲。
バンドのルーツミュージックへの愛情が滲む、粋な締めくくりだ。


総評

『Lex Hives』は、The Hivesというバンドの根源的なエネルギーと思想が最も明快に示された作品である。
「ロックとは何か?」という問いに対し、彼らなりの“法典=Lex”を提示してみせた点で、自己定義的アルバムとも言えるだろう。

全曲が3分前後で構成されており、すべての楽曲が即効性を持つロックンロールのショットのように機能している。
これは、ただの懐古趣味ではなく、ロックの持つ初期衝動をあらためて現在に焼き直したものだ。
その意味では、パンクやガレージの血を現代に引き継ぐ存在としてのThe Hivesの矜持が強く刻まれている。

高速で駆け抜けるが、そこには確かな哲学と構築美がある。
衝動と計算の狭間を行き交うような、極めてロック的なバランスが本作の最大の魅力なのかもしれない。


おすすめアルバム

  • The StoogesRaw Power (1973)
    ガレージ/パンクの原型とも言える荒削りな名盤。
  • Jet – Get Born (2003)
    The Hivesと同時期に人気を博したロックンロール・リバイバルの代表作。
  • The White Stripes – Elephant (2003)
    ミニマルでブルージーなガレージサウンドとコンセプト性が魅力。
  • Franz FerdinandFranz Ferdinand (2004)
    ダンサブルでアート感覚に富んだガレージ的ポストパンク。
  • The Sonics – Here Are the Sonics!!! (1965)
    The Hivesのルーツのひとつともいえる、オリジナル・ガレージロックの金字塔。

コメント

タイトルとURLをコピーしました