発売日: 1983年4月14日
ジャンル: ポップ、ニューウェーブ、ファンクロック
アルバム全体のレビュー
1983年にリリースされたデヴィッド・ボウイのLet’s Danceは、彼のキャリアにおける最も大胆な変化の一つとして知られている。このアルバムでは、それまでの前衛的で芸術的なスタイルから一転し、ポップ主流への大胆なシフトを果たした。プロデューサーにシックのギタリスト、ナイル・ロジャースを迎え、ファンクやダンスミュージック、さらにはロックの要素を見事に融合させている。アルバムはボウイ最大の商業的成功を収め、彼を世界的なポップアイコンとしての地位に押し上げた作品だ。
リリース当時、ボウイが「キャリアの再定義」と表現したこの作品は、MTVが台頭していた時代背景とも相まって、シングルヒットがアルバムセールスを牽引する新しい音楽の流れを象徴している。また、タイトル曲「Let’s Dance」のミュージックビデオは、オーストラリアの原住民問題を描き、ポップ音楽に社会的メッセージを取り込むというボウイの野心も反映されている。
このアルバムは、ポップでありながら重層的なテーマとプロダクションを兼ね備えており、聴き手に「楽しむ」だけでなく「考えさせる」作品である。煌びやかなサウンドの中にある哀愁や葛藤が、何度も聴き返したくなる魅力を持つ。
各曲の解説
1. Modern Love
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、軽快なビートとポップなメロディが特徴的だ。歌詞では「現代の愛」に対する皮肉と困惑が表現されており、信仰や愛といったテーマを軽やかな音楽にのせて歌い上げている。ナイル・ロジャースのプロデュースが際立つギターのカッティングが曲全体に躍動感を与え、聴く者を一瞬で引き込む。
2. China Girl
イギー・ポップと共同で書かれたこの曲は、アジア文化へのフェティシズムを風刺したもので、繊細で美しいメロディラインが印象的だ。イントロのギターの音色が異国情緒を醸し出し、ボウイの抑えたボーカルが歌詞のテーマにさらなる深みを与えている。この曲は後に議論を呼んだが、それこそがボウイの狙いでもあった。
3. Let’s Dance
アルバムの中心であり、最大のヒット曲。この曲は、シンプルなリズムに壮大なホーンセクションが加わり、まさに「ダンス」の名にふさわしい盛り上がりを見せる。歌詞には、単なる踊り以上の意味合いが込められており、「踊ること」は人生や解放のメタファーとしても解釈される。ナイル・ロジャースの手腕が最大限に発揮された一曲。
4. Without You
アルバムの中ではやや控えめな位置にあるバラード曲。シンプルなメロディとボウイの繊細な歌声が際立つ。タイトルが示す通り、「君がいない世界」に対する内省的な感情を描いており、アルバム全体のエネルギッシュなトーンに一息つくような役割を果たしている。
5. Ricochet
リズムが独特で、実験的な要素が際立つトラック。社会問題をテーマにした歌詞が印象的で、エネルギッシュな楽器編成が曲に複雑な奥行きを与えている。ポップにとどまらないボウイのアート性が光る一曲。
6. Criminal World
もともとは1970年代に書かれた楽曲のカバーだが、ボウイ流にアレンジされ、官能的で挑発的なムードが際立つ。歌詞ではタブーや社会規範への挑戦が描かれており、ボウイの時代を先取りする感覚がよく表れている。
7. Cat People (Putting Out Fire)
映画のサウンドトラックとして書かれたこの曲は、オリジナルから再録されたバージョンで、よりドラマチックな仕上がりに。ゴシック的な雰囲気と燃え上がるようなボーカルが聴きどころ。
8. Shake It
アルバムを締めくくるダンサブルな楽曲。軽快なビートと明るいメロディが特徴で、全体的にシリアスなテーマの多いアルバムの中で肩の力を抜いた一曲となっている。
フリーテーマ: ボウイとナイル・ロジャースの革新
デヴィッド・ボウイがナイル・ロジャースをプロデューサーに起用した背景には、「新しいサウンドを作りたい」という強い意志があったという。ファンクとポップの融合は当時の音楽シーンにおいて極めて斬新であり、これがLet’s Danceの成功に直結している。ナイルの独特なギターカッティングとボウイの前衛的な感覚が絶妙に調和し、このアルバムを単なるポップアルバムではない「アート」に昇華させている。
アルバム総評
Let’s Danceは、単なるダンスアルバム以上のものだ。デヴィッド・ボウイがポップ界に新たな地平を切り開いた瞬間を捉えた傑作であり、時代のエネルギーと個人の表現が見事に融合している。リスナーに対して楽しさと挑発を同時に提供し、「踊る」ことの裏にある人間性をも考えさせる一枚である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Thriller by Michael Jackson
ポップとダンスの融合が際立つアルバム。Let’s Dance同様、圧倒的なプロダクションとキャッチーなメロディが楽しめる。
Chic by Chic
ナイル・ロジャースのルーツに触れたいなら必聴。ファンクとダンスのエッセンスが凝縮されている。
Purple Rain by Prince
ボウイ同様、アートとポップの境界を超えた作品。プリンスの独特なスタイルが堪能できる。
Random Access Memories by Daft Punk
ファンクの影響を受けたダンスアルバム。過去と未来を融合させたようなサウンドが魅力。
Scary Monsters by David Bowie
Let’s Dance以前のボウイ作品で、前衛的なロックが特徴。彼の進化の軌跡が楽しめる。
コメント