発売日: 1978年11月
ジャンル: カントリー・ロック、ソフトロック、ウェストコースト・ロック
概要
『Legend』は、Pocoが1978年に発表した通算11作目のスタジオ・アルバムであり、商業的・音楽的双方においてキャリア最大の成功を収めた作品である。
長らく“カントリー・ロックの良心”として高い評価を得ながらも大ヒットには恵まれてこなかったPocoが、本作によって初めて全米トップ20入りを果たし、ついに“レジェンド”の名にふさわしい地位を確立することとなった。
本作では、従来のカントリー色はやや後退し、より洗練されたアダルト・コンテンポラリー寄りのサウンドにシフト。
リーダー格となったポール・コットンと、後にイーグルスに加入することとなるティモシー・B・シュミットのソングライティングが前面に押し出され、メロウで耳馴染みの良い楽曲がアルバム全体を包んでいる。
これまで築き上げてきたPocoの音楽性を保ちつつ、時代のポップス市場に自然に適応した奇跡のバランス感覚が光る一枚である。
全曲レビュー
1. Boomerang
ポール・コットン作による軽快なロック・ナンバー。
人生の選択や“戻ってくる運命”を、ブーメランにたとえたポジティブな歌詞が印象的。
アルバム冒頭にふさわしい躍動感と開放感を備えた楽曲。
2. Spellbound
恋に落ちた時の陶酔感を描いたメロウなナンバー。
ソフトなアレンジとスライド・ギターが心地よく、80年代的なAORの萌芽も感じさせる。
“君の魔法にかかった”というタイトル通り、浮遊感あるサウンドが印象的。
3. Barbados
トロピカルなムードが漂うポップ・ナンバー。
海辺の風景と恋愛の逃避行を重ねたような内容で、当時の“カリフォルニア・サウンド”とも親和性が高い。
シュミットの柔らかなボーカルが楽曲の透明感を支えている。
4. Little Darlin’
ポール・コットンによるロマンティックなバラード。
一見シンプルな構成ながら、繊細なコーラスとストリングスの挿入が楽曲に深みを与える。
まさに“大人のためのラヴソング”。
5. Love Comes Love Goes
出会いと別れの儚さを綴った、叙情的なフォーク・ロック。
シュミットのソングライティングが光り、感傷と希望が入り混じる複雑な情緒が表現されている。
ペダル・スティールが淡く楽曲を彩る。
6. Heart of the Night
本作最大のヒット曲にして、Pocoの代表曲。
ニューオーリンズの夜を舞台にしたこのバラードは、コットンの情感あふれるボーカルと、サックスの響きが印象的。
アーバンでメランコリックな雰囲気をまとい、リスナーを夢想的な空間へと誘う。
7. Crazy Love
ティモシー・シュミット作による、Poco史上最大のヒット・シングル。
甘く切ないメロディと「Oh-oh, crazy love」というサビのフレーズは、当時のラジオを席巻した。
カントリー・ロックという枠を超えて、普遍的なポップソングとして高く評価されている。
8. The Last Goodbye
別れを静かに受け入れる姿勢を描いたスロー・ナンバー。
ピアノとアコースティック・ギターの絡みが美しく、アルバム全体に通底する“成熟した感情表現”を象徴する一曲。
Pocoの静かなる進化を感じさせるラストトラック。
総評
『Legend』は、Pocoが約10年にわたるキャリアの中で培ってきた音楽性を、高い完成度とポピュラリティの両面で結実させた金字塔である。
カントリー・ロックの初期衝動を維持しながらも、時代のアダルト・コンテンポラリーな潮流に柔軟に対応したその姿勢は、Pocoが“時代遅れ”ではなく“時代を読む力”を持っていたことの証左である。
「Crazy Love」と「Heart of the Night」という二大ヒットを生んだ本作は、商業的成功だけでなく、アーティストとしての成熟、音楽的誠実さも感じさせる珠玉のアルバムである。
長らく“過小評価された名バンド”とされてきたPocoが、まさに“レジェンド”として名乗りを上げた瞬間なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
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Eagles – The Long Run (1979)
Pocoと並び称されるカントリー・ロックの雄による成熟の記録。『Crazy Love』と通じるメロウさ。 -
Little River Band – Sleeper Catcher (1978)
ソフトロックとハーモニー重視の作風が、『Legend』期のPocoと共振。 -
Firefall – Luna Sea (1977)
同系統のアメリカン・ソフトロックバンド。感傷的メロディが似通う。 -
Dan Fogelberg – Phoenix (1979)
メロディ重視のシンガーソングライター作品。Pocoの抒情性と響き合う。 -
Loggins & Messina – Native Sons (1976)
カントリー・ロックからポップへの移行期にある一作として比較的近い方向性。
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