1. 歌詞の概要
「Lazy」は、Baby Queen(ベイビー・クイーン)ことBella Lathamが2023年にリリースしたデビューアルバム『Quarter Life Crisis』に収録された楽曲であり、**無気力、自己嫌悪、そして自己肯定感の欠如に向き合う“自意識のうた”**である。
この曲で語られるのは、「何もできない自分」「行動できない自分」「夢を語るくせに努力できない自分」に対する苛立ちと、その裏側にある本当は何かになりたいのに、なれないことが怖くて動けない心である。
一見すると自嘲的な“だらけソング”に見えるが、その実、若い世代が抱える自己評価と社会の期待との乖離を鋭く描き出しており、Baby Queenらしいアイロニカルなポップソングに仕上がっている。
アップテンポでキャッチーなサウンドとは裏腹に、内側で語られているのはきわめて切実で複雑な感情。
それでもなお、この曲は「そんな自分でもいいじゃん」と開き直るのではなく、「それでも変わりたい」という小さな希望の芽を内包している。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Lazy」は、Bellaがパンデミック以降の日々の中で感じていた、創作へのプレッシャー、成功への焦り、そして無力感をもとに書かれた。
彼女自身が「やる気が起きない自分を責めることで、さらに動けなくなる悪循環の中にいた」と語っているように、この曲はただの“怠け者賛歌”ではなく、自分にがっかりしながらも前を向こうとする姿勢を描いている。
曲調は軽やかで、ギター・ポップとドリーム・ポップの中間にあるような、心地よく浮遊するようなアレンジ。
その“明るさ”が、歌詞に潜む暗さと絶妙なコントラストを生んでおり、まさにBaby Queenの十八番である**「感情の混乱をポップに昇華する」スタイル**が全開の一曲となっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I’m lazy, and I’m anxious
And I’m not okay
私は怠け者、不安でいっぱい
でも平気なふりしてるだけ
I said I’d write a song today
But I watched TV instead
今日こそ曲を書くって言ってたのに
気づいたらずっとテレビを見てた
I romanticize the version of me
That doesn’t exist
存在しない“理想の私”を夢見て
現実の自分はただ部屋にいる
I could be so much better
If I just tried
もっとマシになれるのに
ちょっと頑張るだけで
But I can’t even try
でも、その“一歩”さえ踏み出せないの
歌詞引用元:Genius – Baby Queen “Lazy”
4. 歌詞の考察
「Lazy」は、“怠けている”ように見える人の内側にある自己否定と苦しみを、限界まで率直に描いた楽曲である。
語り手は、ただ何もしていないわけではない。
「何もできない自分に落胆し、だからこそ何かしたいのに、そのプレッシャーに潰されて何もできない」というループにとらわれている。
その状態はまさに、現代の若者が多く抱えている「やる気を出さなければいけない」という社会的プレッシャーと、「でも動けない」現実との間で揺れる心の停滞感を象徴している。
特に「I romanticize the version of me that doesn’t exist」というラインには、SNS的な自己理想とのギャップが鮮明に表れており、「“なりたい自分”を頭の中で作りすぎて、現実の自分が霞んでいく」という現代的な心の構造が垣間見える。
そして、この曲はただ「それでいいんだよ」と慰めて終わるわけではない。
「I could be so much better / If I just tried(ちょっと頑張れば、もっとよくなれるのに)」というラインがあるように、“変わりたい気持ち”そのものは、確かにそこにある。
だからこそ、この楽曲は「諦めの歌」ではなく、「諦めと希望の狭間にいる者の歌」として聴こえてくるのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- I Know It Won’t Work by Gracie Abrams
前に進みたいけれど進めない恋愛と自己感情のループを描いた繊細なバラード。 - Liability by Lorde
自分が“めんどくさい存在”だと感じる孤独感を、そのまま肯定する名曲。 - Motion Sickness by Phoebe Bridgers
過去の感情に引きずられながら、それでも“進もうとする”エネルギーが滲む。 -
Mirror by Sigrid
鏡に映る自分との対話を通じて、自分の姿をようやく認めていくまでの成長の過程を描く。 -
You’re So Fucking Cool by Tones and I
他人に見せる理想像への抵抗と、それでも憧れてしまう気持ちの相反を描いた挑発的ポップ。
6. “何もできない自分”にちゃんと名前をつけるということ
「Lazy」は、ただの怠惰ではなく、“動けない自分を責める心の重さ”を抱える人々のうたである。
Baby Queenはこの楽曲で、現代の若者が抱える「パフォーマンス社会」における不適応や、自己評価の低下、燃え尽きの感覚を、あまりにもリアルに、そして美しく描き出している。
それは、「何もしない自分」への開き直りではない。むしろ、「このままじゃいけないと思っているけど、今は動けないんだ」と、今ここにある感情をただ正直に描いてみせる行為なのである。
「Lazy」は、“今の自分”をどうしても受け入れられない人にこそ聴いてほしい楽曲である。
Baby Queenは、自分の弱さや怠さを否定せず、それを音楽というかたちで曝け出すことで、同じように悩む人たちに“あなたはひとりじゃない”と伝えている。
それは、決して小さくない、静かで強いエンパシーのうたなのだ。
コメント