発売日: 2020年7月10日
ジャンル: インディーロック、パワーポップ、ドリームポップ、オルタナティヴ・ロック
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概要
『Jump Rope Gazers』は、The Beths（ザ・ベス）が2020年にリリースしたセカンド・スタジオ・アルバムであり、デビュー作『Future Me Hates Me』で確立したキャッチーかつエモーショナルなギターポップをさらに洗練させた、成熟と親密さの響きを持つ作品である。
アルバムタイトルの“Jump Rope Gazers（縄跳びを見つめる者たち）”という詩的な表現が示すように、本作ではバンドの音楽性がより繊細かつ内省的な方向へと進化。前作で描かれた恋愛不安や自己否定は、今作では「関係を続けること」「遠くにいても心を保つこと」といった継続と距離をめぐる静かな葛藤へと移行している。
ギターの鋭さとメロディの透明感はそのままに、各曲の構成はよりドラマティックかつ丁寧に編まれており、The Bethsというバンドの“表現の幅”と“音楽的信頼感”を見せつけたアルバムである。
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全曲レビュー
1. I’m Not Getting Excited
オープニングを飾るテンション高めのギターポップ。タイトルの通り「興奮してない」と繰り返しながら、内心の焦燥とプレッシャーを高速リズムで爆発させる。コロナ禍における不安や、クリエイターとしての恐怖心が投影されている。
2. Dying to Believe
“信じたいのに信じられない”という矛盾をテーマに、軽快なビートと疾走感のあるギターが心地よい一曲。エリザベスのコーラスが曲の芯を強く支えている。
3. Jump Rope Gazers
アルバムの表題曲にして感情の核心を担うバラード。遠距離恋愛を描いたとされるリリックは、物理的な距離と精神的な近さを往復する構造。メロディは柔らかく、後半の展開は非常に美しい。
4. Acrid
バンドとしてはやや異色な、ドリーミーなサウンドを持つ楽曲。甘さの中に焦げたような苦味（＝Acrid）が感じられ、比喩的なリリックが冴える。
5. Do You Want Me Now
関係が曖昧なまま進む中で、明確な“欲望”を求める切実な楽曲。ギターの層が厚く、ポスト・アルトロック的な高揚感を持つ構成。
6. Out of Sight
相手が遠くにいるからこそ“見えない”ことが愛しさに変わる、そんな感情を浮遊感のあるギターとポップなリズムで描く。アルバム中最もポジティブなエネルギーに満ちている。
7. Don’t Go Away
少しスローダウンしたテンポで、“あなたがいなくなるかもしれない”という不安をストレートに描いた一曲。ミドルテンポながら、コーラスの重なりとリズムの奥行きが秀逸。
8. Mars, the God of War
異色のタイトル通り、攻撃的な感情をギターのディストーションとドライなリズムで表現。短くも強いインパクトを残すロックナンバー。
9. You Are a Beam of Light
アルバム中最も穏やかでアコースティックな楽曲。まるで祈りのような静けさと、ナイーブな愛情表現が胸を打つ。夜のベッドサイドにぴったりの1曲。
10. Just Shy of Sure
クロージングを飾るスローなギターバラード。確信の手前で足を止めてしまう感情の弱さと優しさを、語るようなトーンで丁寧に綴る。アルバムを静かに締めくくるにふさわしい余韻を残す名曲。
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総評
『Jump Rope Gazers』は、The Bethsが“爆発するポップ”から“熟成するポップ”へと進化を遂げた記念碑的作品である。
エリザベス・ストークスのソングライティングはさらに深まり、感情を露出するのではなく、丁寧に包み込むようなスタイルへと変化。ギターロックの形式を踏襲しながらも、歌詞と構成における抑制と大胆さのバランスが素晴らしく、バンドの成熟を静かに物語っている。
このアルバムを聴いた後、リスナーの中に残るのは“カタルシス”ではなく、“余韻”である。そして、その余韻こそが、The Bethsというバンドの真の魅力なのだ。
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おすすめアルバム（5枚）
- Alvvays『Blue Rev』
ギターポップの進化系としての情緒の深さが共鳴。 - Waxahatchee『Saint Cloud』
内省的なリリックとメロディの澄み渡り方が響き合う。 - Phoebe Bridgers『Punisher』
静かな痛みを研ぎ澄ましたサウンドと感情の近さが共通。 - Lucy Dacus『Home Video』
過去を振り返りながらも前に進む視点がThe Bethsと重なる。 - Middle Kids『Today We’re The Greatest』
感情の継続と関係の“揺らぎ”を、ロックの中に描く名作。
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歌詞の深読みと文化的背景
“Jump Rope Gazers”というタイトルは、あまりに無防備で、あまりに純粋な時間——たとえば、友人が縄跳びをしているのを見つめる時間のような——そうした“誰にも見られていない自分”を象徴する。
遠距離恋愛、ツアーによる分断、パンデミック下の距離感。それらの物理的／精神的な“距離”が、このアルバム全体に影を落としており、リリックの一つひとつは、離れていてもつながりたいという小さな願いとして機能している。
その願いは、時に不安で、時に滑稽で、けれど常に“誠実”であり、The Bethsの音楽はその誠実さを、ギターとコーラスの響きに変えて私たちに届けてくれるのだ。
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