発売日: 2019年10月18日
ジャンル: エクスペリメンタルロック、エレクトロニカ、マスロック
アルバム全体の印象
「Juice B Crypts」は、Battlesがリリースした4作目のスタジオアルバムであり、バンドのこれまでの進化を集約しつつ、さらに新たな可能性を模索した作品である。本作では、バンドのメンバーがジョン・スタニアー(ドラム)とイアン・ウィリアムズ(ギター、キーボード)のデュオ体制となりながらも、サウンドのスケールはむしろ拡大。ゲストボーカルやエレクトロニカ的な要素を大胆に取り入れることで、Battlesらしい複雑さとポップさが絶妙に融合した仕上がりとなっている。
アルバム全体を通じて、緻密に設計されたリズムセクションと、反復するリフの中で次々と生まれる予測不能な展開が楽しめる。ゲストには、Xenia Rubinos、Shabazz Palaces、Sal Principato(Liquid Liquid)といった個性的なアーティストが参加し、それぞれの楽曲に新鮮な息吹を与えている。また、これまで以上にデジタルプロセッシングが活用され、機械的でありながらも感情的な音響体験が生み出されている。
「Juice B Crypts」は、バンドの過去作と比べて、より親しみやすさとカラフルさを追求したアルバムだ。それでいて、Battles特有の知的でエッジの効いたサウンドは健在で、リスナーを飽きさせない緻密な構造が際立っている。
各曲解説
1. Ambulance
アルバムの幕開けを飾る、緊張感に満ちたトラック。重厚なドラムと断片的なシンセが絡み合い、サウンドが次第にビルドアップしていく。言葉では表現しきれないBattles独特の音の冒険がスタートする。
2. A Loop So Nice…
ポップで明るいサウンドが特徴の楽曲。タイトル通り、繰り返されるループが耳に心地よく、メロディアスな一面を楽しめる。短いながらも鮮烈な印象を残す。
3. They Played It Twice (feat. Xenia Rubinos)
Xenia Rubinosのエネルギッシュなボーカルが主役となる楽曲。ラテン的なリズムとエレクトロニカが融合し、ユニークでダンサブルな仕上がり。リスナーの耳を掴むキャッチーさが際立つ。
4. Sugar Foot (feat. Jon Anderson)
YESのボーカリスト、ジョン・アンダーソンが参加した楽曲。プログレッシブロック的な壮大さと、Battlesらしい実験的なサウンドが融合し、不思議な空間が広がる。
5. Fortuna
リズムとメロディが絶妙に絡み合うインストゥルメンタルトラック。変則的な構成が耳を引きつけ、Battlesのテクニカルな側面を存分に楽しめる一曲だ。
6. Titanium 2 Step (feat. Sal Principato)
Liquid Liquidのサル・プリンシパートが参加した、トロピカルな要素が光る楽曲。ファンキーなビートと繊細なサウンドの掛け合わせが斬新で、踊り出したくなるエネルギーに溢れている。
7. Hiro 3
デジタル処理された音響が目立つ楽曲。ポリリズムと反復的なリフが特徴で、浮遊感と緊張感が交錯するサウンドスケープを作り出している。
8. Izm (feat. Shabazz Palaces)
シアトルのヒップホップデュオ、Shabazz Palacesを迎えた楽曲で、ビートとラップが融合した実験的な一曲。Battlesのサウンドにヒップホップ的な要素が加わり、新たな可能性を感じさせる。
9. Juice B Crypts (feat. Liquid Liquid)
アルバムのタイトル曲で、Liquid Liquidとのコラボレーションが実現。重層的なリズムとミニマルなメロディが絡み合い、アルバム全体を象徴するサウンドを展開している。
10. Last Supper on Shasta, Pt. 1
アルバムの中でも特に叙情的な一曲。ポストロック的な美しさを持ちながら、細部まで作り込まれたサウンドが際立つ。中盤のビルドアップが感動的。
11. Last Supper on Shasta, Pt. 2
アルバムのクライマックスを飾る壮大なトラック。Part 1からの流れを引き継ぎつつ、徐々にスケールを広げ、圧倒的なフィナーレを迎える。
アルバム総評
「Juice B Crypts」は、Battlesが新たなサウンドを探求し、進化を遂げたアルバムだ。デュオ体制となったことで生まれる緊張感と、ゲストアーティストの多様性が絶妙なバランスで融合している。前作「La Di Da Di」に見られたストイックなインストゥルメンタル路線に比べ、ポップさやカラフルなエネルギーが強調されており、幅広いリスナーに楽しめる仕上がりとなっている。
それでいて、Battlesらしい知的で複雑な音楽性は健在であり、「They Played It Twice」や「Titanium 2 Step」などのトラックは特に秀逸。ジャンルの境界を超えたこの作品は、エクスペリメンタルロックの新たなスタンダードを示す重要な一枚と言えるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
「La Di Da Di」 by Battles
インストゥルメンタルに特化した前作で、複雑なリズムとミニマルなサウンドが楽しめる。
「Schlagenheim」 by Black Midi
エクスペリメンタルロックの革新的な作品で、複雑な構成とダイナミックな演奏が「Juice B Crypts」と通じる。
「Sound of Silver」 by LCD Soundsystem
ダンサブルで知的なサウンドが共通する名盤。電子音楽とロックの融合が魅力的。
「Silent Alarm」 by Bloc Party
ポップでエネルギッシュなリズムが際立つ作品で、Battlesのキャッチーな側面を愛する人におすすめ。
「To Be Kind」 by Swans
エクスペリメンタルな構成と緊張感のあるサウンドスケープが、「Juice B Crypts」の実験的要素とリンクする。
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