イントロダクション
黒いアイライナー、レザージャケット、かき鳴らされるパワーコード。
Joan Jett & The Blackheartsは、ロックンロールというジャンルが持つ初期衝動と誇りを、時代を超えて鳴らし続けてきた。
「I Love Rock ’n Roll」の一節を知らないロックファンはいないだろう。
しかし、彼女たちの魅力はその代表曲にとどまらない。
それは、女性がロックのフロントマンとして立つことすら珍しかった時代に、己の声とギターで道を切り開いた“ロックの魂”そのものだった。
バンドの背景と歴史
Joan Jettは1975年、ティーンエイジャーながらThe Runawaysの一員としてキャリアをスタート。
男性優位の音楽業界に風穴を開けたこの伝説的ガールズ・バンドの活動終了後、彼女はソロ活動を開始。
当初は大手レーベルに契約を拒否され続けたが、ケニー・ラグナとともに自らのレーベル「Blackheart Records」を設立。
その後結成したThe Blackheartsを率い、1981年にリリースしたアルバム『I Love Rock ’n Roll』が大ヒット。
タイトル曲は全米1位を記録し、Joan Jettは一躍ロック・アイコンとしての地位を確立する。
その後もコンスタントに活動を続けながら、ロックの多様性と反骨精神を体現し続け、2015年にはロックの殿堂入りを果たした。
音楽スタイルと影響
Joan Jett & The Blackheartsのサウンドは、ガレージ・ロック、パンク、ハードロックが交錯する直球型のロックンロール。
分厚いギターリフ、シンプルな構成、パンキッシュなテンポ――そのどれもが“ロックは姿勢である”という信条を裏打ちしている。
Joanのギターはラモーンズに通じる単純明快さ、歌声にはスージー・クアトロやIGGY POPのようなワイルドさがある。
一方で、メロディには60年代ポップスへの愛情が滲み出ており、カバー曲のセレクトにもその影響が顕著だ。
また、女性ミュージシャンとしての孤高のスタンスも重要な要素。
フェミニズムを声高に語るというより、自身の存在そのものが既存のジェンダー観に対する“実演的な反論”となっていた。
代表曲の解説
I Love Rock ’n Roll
バンドの最大のヒット曲にして、ロック・アンセムの代名詞。
もともとはThe Arrows（1975年）の楽曲だが、Joanのバージョンはそのエネルギーと説得力で原曲を凌駕。
〈I love rock ’n roll / So put another dime in the jukebox, baby〉
というサビは、ロックの快楽と普遍性を象徴する。
厚みのあるギターとJoanの太いヴォーカルが、ロックの原初的な衝動をストレートに届けてくる。
Bad Reputation
ソロ名義で発表されたこの曲は、反抗と自立をテーマにしたパンク・ロックの真髄。
「誰に嫌われてもいい、私は自分を貫く」――その決意表明は、あらゆるアウトサイダーへの讃歌として機能する。
のちにTVシリーズ『Freaks and Geeks』や映画『10 Things I Hate About You』などで使用され、再評価された名曲。
Crimson and Clover
Tommy James & The Shondellsの1968年のサイケポップを、官能的かつ重厚なロックにリメイクしたカバー。
Joanのセクシュアルな表現とドリーミーなギターサウンドが融合し、原曲とはまったく異なる妖艶さを放っている。
ゆったりとしたテンポが逆に緊張感を生み出し、彼女のヴォーカルの幅広さを堪能できる一曲でもある。
アルバムごとの進化
『I Love Rock ’n Roll』（1981）
キャリアを決定づけた2ndアルバム。
カバーとオリジナルが混在しながらも、“Joan Jett流ロック”が完成された作品。
シンプルなコード進行とストレートなメッセージが、当時のMTV世代に強く響いた。
『Album』（1983）
よりヘヴィでパンク寄りのサウンドが目立つ一作。
ヒット曲は出なかったが、攻撃性と多様性を感じさせる内容。
Joanの怒りと遊び心が共存するアティテュードが際立っている。
『Up Your Alley』（1988）
ヒットシングル「I Hate Myself for Loving You」を含む、ポップ性と攻撃性が絶妙にバランスした名盤。
キャッチーなリフと憂いのある歌詞が融合し、80年代後半のハードロック文脈とも接続された作品。
影響を受けたアーティストと音楽
Joan Jettは、スージー・クアトロ、T. Rex、The Rolling Stones、The Whoなど、70年代グラム・ロックやガレージ・ロックの影響を公言している。
また、ラモーンズとの交流も深く、パンクスピリットを音楽的にも精神的にも共有していた。
影響を与えたアーティストと音楽
Joan Jettの存在そのものが、後進の女性ロッカーたちに与えた影響は計り知れない。
Kathleen Hanna（Bikini Kill）、Courtney Love、L7、The Donnas、さらにはBillie Joe Armstrong（Green Day）ら男性ロッカーにとっても、Joanはリスペクトされる“真のパンク・アイコン”である。
また、女性が自己決定的に音楽業界に立ち続けるという点で、BeyoncéやPinkなどメインストリームのポップアクトにも通じる道を切り開いたとも言える。
オリジナル要素
Joan Jett & The Blackheartsの最大の特異性は、「変わらないこと」にある。
時代が変わり、流行が移り変わっても、彼女たちは一貫して“ロックの初期衝動”を守り続けてきた。
また、DIY精神を体現するインディーレーベルBlackheart Recordsの設立と運営は、アーティストによる自立的活動の先駆けでもあり、インディー文化の礎となった。
まとめ
Joan Jett & The Blackheartsは、音楽の中にある“信念”をギターで鳴らし続けてきたバンドである。
それはシンプルでストレートで、時に荒っぽくもある。
だが、その音は、何十年経っても、聴く者の中に火を灯す力を持っている。
「私はロックンロールが大好き」と歌ったその声は、時代を超え、今もなお、力強く響いているのだ。
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