1. 歌詞の概要
「Intrusive Thoughts(侵入してくる思考)」は、Lola Youngが2023年にリリースしたデビューアルバム『My Mind Wanders and Sometimes Leaves Completely』の中でも、もっとも赤裸々で内面的な葛藤を描いた楽曲である。そのタイトルの通り、心の中に意図せず入り込んでくる破壊的な思考――不安、自己否定、後悔、罪悪感――を題材にし、リスナーの深層心理に静かに触れてくる一曲だ。
この楽曲で語られるのは、精神的な混乱状態の中で“自分が自分を壊してしまいそうになる瞬間”であり、誰かに助けを求めたいけれど、誰にも見せられない心の闇をひとりで抱えてしまうことの痛み。感情が押し寄せるままに溺れていくその過程が、音と声に置き換えられている。
歌詞は断片的で散文詩のようでもあり、まるで深夜の思考の渦をそのまま記録した日記のような構成となっており、Lolaの囁くようなボーカルとミニマルなトラックがその“心のノイズ”を際立たせている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Intrusive Thoughts」は、アルバムのタイトル『My Mind Wanders and Sometimes Leaves Completely(私の心は彷徨い、ときに完全に離れてしまう)』に直結するような楽曲であり、まさにその“思考の逸脱”や“精神の漂流”を象徴する作品である。
Lola Youngは、精神的な健康状態や自己との対話というテーマに真正面から向き合ってきたアーティストであり、この曲ではその姿勢が最も露骨に、そして美しく表現されている。
「Intrusive Thoughts」という言葉自体、心理学的には強迫性障害(OCD)や不安障害などに関連づけられる概念でもあり、Lolaはそこに自らの感情や経験を重ね合わせて音楽に昇華させている。
この曲は、ただの“気分の落ち込み”を歌ったのではない。むしろ、「自分を傷つけるような思考からどうやって抜け出せばいいのか分からない」という、リアルで現代的な内面の声をリスナーと共有する試みなのだ。
3. 歌詞の抜粋と和訳
They come in the night, the voices in my head
夜になると、頭の中に声が押し寄せてくるThey tell me I’m wrong, they tell me I’m weak
「お前は間違ってる」「お前は弱い」って、私を責めてくるI try to run, but I never leave
逃げようとしても、結局そこから抜け出せないThese intrusive thoughts, they live in me
この侵入してくる思考は、私の中で生きている
出典: Genius Lyrics – Intrusive Thoughts by Lola Young
4. 歌詞の考察
この楽曲で描かれる「侵入してくる思考」は、他人の言葉ではなく、むしろ“自分の内側から発せられる声”であることが鍵である。
「They tell me I’m wrong」といったラインは、外からの批判ではなく、自己否定の声であり、それが頭の中で無限に再生されることによる苦しみを示している。
“夜”という時間の設定もまた重要である。昼間は平静を装えていても、夜になると無防備な自分が現れ、否応なく心の声が支配を始める。その孤独と絶望を、Lolaは過剰な演出をせず、むしろ静けさと余白で描いている。
また「I try to run, but I never leave」というフレーズには、“その場から抜け出せないループ状態”への絶望がある。この感覚は、精神的に追い詰められた人間にとって、非常にリアルだ。逃げたいのに逃げられない、止めたいのに止められない。だからこそ、「Intrusive Thoughts」というタイトルは、単なる心理的現象ではなく、存在の根幹を揺るがす現実として響く。
それでもLolaは、この曲を“嘆き”ではなく“共有”の手段として提示している。つまり、これは「私だけがこんな思考に支配されているわけじゃない」と思わせてくれる歌でもあるのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Breathe Me by Sia
孤独と自己破壊への傾向を繊細に描いた、心の叫びのようなバラード。 - Midnight by Jessie Ware
夜という時間帯に揺れる感情の不安定さを描く、幻想的なR&B。 - Your Best American Girl by Mitski
自分自身と“なれなかった理想像”との狭間で揺れる痛みを歌った一曲。 -
1 Step Forward, 3 Steps Back by Olivia Rodrigo
優しさと不安、愛と自己喪失が複雑に交錯するバラード。 -
The Archer by Taylor Swift
自分の不安や自己イメージと向き合う、静かな内省曲。
6. “思考のノイズ”と共に生きることへの静かな肯定
「Intrusive Thoughts」は、心のなかに入り込んできては去らない思考、消したくても消せない感情の「在りよう」を、そのまま認めている曲である。
それはつまり、「完璧に乗り越えること」よりも、「共に在りながら生きていくこと」のリアリティに重きを置いている。
Lola Youngはここで、自らの心の奥に巣食う“声”を外に出すことで、同じような苦しみを抱える誰かと静かにつながろうとしている。それは悲鳴ではなく、囁きであり、祈りでもある。
そしてこの楽曲を聴くことで、私たちは自分の中の“言葉にならなかった声”に気づくかもしれない。
「Intrusive Thoughts」は、静かでありながら鮮やかに、“心の深い場所”へとリスナーを導いていく。
その暗がりに身を置いたとき、Lolaの声がそっと囁く――「あなたは一人じゃない」と。
そう感じられるだけで、この曲は生きる支えになる。そんな、沈黙の中に宿る強さを持った楽曲である。
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