発売日: 2008年8月21日
ジャンル: インディー・ロック, エレクトロニック, エクスペリメンタル・ロック
『Intimacy』は、Bloc Partyの3枚目のスタジオアルバムであり、彼らの音楽的な方向性がさらに深化し、実験的な要素が加わった作品だ。前作『A Weekend in the City』で見せたエレクトロニック・サウンドや個人の内面、社会的なテーマの探求をベースにしながら、今回はより大胆なアプローチが取られている。ギターとエレクトロニックのバランスが崩れることなく、両方が対等に重要な役割を果たしており、ダークで挑戦的なサウンドが際立っている。
アルバムのタイトルが示す通り、テーマは親密さと人間関係の複雑さに焦点を当てており、恋愛、裏切り、欲望、喪失感など、感情の深淵が表現されている。Kele Okerekeのボーカルはこれまで以上に感情的で、激しさと繊細さが交互に表れる。彼らの音楽的冒険心が色濃く反映されたアルバムであり、ギター・ロックの枠に収まらない多様なサウンドが楽しめる作品だ。
それでは、『Intimacy』のトラックを順に見ていこう。
1. Ares
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、攻撃的でリズミカルなビートとパンクなエネルギーを放つトラックだ。ドラムが激しく打ち鳴らされ、Kele Okerekeのボーカルは挑発的で力強い。タイトル通り「戦争の神」をテーマにした歌詞が、暴力的な衝動や怒りを描き出している。ギターとエレクトロニックビートが融合したサウンドは、Bloc Partyの新たな方向性を予感させる。
2. Mercury
このアルバムのリードシングルであり、エレクトロニカ色が強く出たトラック。複雑なビートと不安定なシンセサイザーが重なり、実験的なサウンドが際立っている。「Mercury’s in retrograde」というフレーズが繰り返され、混乱や予測不可能な感情の揺れ動きが歌われている。ダークで不穏な雰囲気が漂い、アルバム全体のトーンを設定する重要な曲だ。
3. Halo
エネルギッシュなギターサウンドが前面に出た、比較的ストレートなロックナンバー。「Halo」というタイトルには、清廉さや無垢さのイメージが込められているが、歌詞はその逆にある人間関係の複雑さや破綻を描いている。勢いのあるリフとドラマチックな展開が、アルバムのハイライトのひとつとなっている。
4. Biko
このトラックは、アルバムの中でも最も感傷的で内省的な曲だ。アコースティックギターとシンプルなビートが、Keleの繊細なボーカルを支えており、失われた愛や別れについての悲しみを表現している。「Biko」という名前は、南アフリカの活動家スティーブ・ビコへの言及ではなく、親密な人物への呼びかけを暗示している。感情的な深みが強く、アルバムの中でも静かで美しい瞬間を提供する。
5. Trojan Horse
この曲は、緊張感のあるギターリフと不気味な雰囲気が特徴的で、裏切りや不信感をテーマにしている。リズムは複雑で、時折エレクトロニックなサウンドが挟まれ、サイケデリックな要素も感じられる。歌詞は攻撃的で、感情が爆発する瞬間が印象的だ。アルバム全体の中でも特に実験的な構成を持つ楽曲だ。
6. Signs
ドリーミーでサイケデリックなサウンドが特徴のこの曲は、エレクトロニカとポストロック的な要素が交じり合っている。シンセサイザーの柔らかい音色と、ミステリアスな歌詞が幻想的な世界を作り出している。「Signs」というタイトルにふさわしく、見えない何かを探し求めるような感覚が漂い、静かながらも心に残る一曲だ。
7. One Month Off
攻撃的なギターリフとシンセが絡み合うエネルギッシュな曲。歌詞には、壊れた恋愛や裏切り、欲望の混乱が描かれており、Keleのボーカルが怒りを放つように響く。テンポが速く、アグレッシブな展開が続き、感情の爆発を伴った一曲だ。
8. Zephyrus
この曲は、シンセサイザーやコーラスを大胆に取り入れた異色のトラック。神話的なテーマを持つ歌詞が印象的で、「Zephyrus」という西風の神が象徴する自由や変化が描かれている。サウンドは浮遊感があり、エレクトロニカとオーケストラ的な要素が重なり合い、壮大なスケールを持っている。
9. Better Than Heaven
ダークでメランコリックなトーンが漂うこの曲は、ゆったりとしたビートと陰鬱なギターが支配している。タイトルには「天国よりも良いもの」という皮肉が込められており、歌詞には愛や欲望の錯綜が描かれている。深い感情の波がサウンドに表れており、アルバム全体のムードをさらに深める。
10. Ion Square
アルバムの最後を締めくくるこの曲は、徐々にビルドアップする構成が特徴で、ギターとエレクトロニックな要素が交互に展開する。歌詞には時間の流れや永遠への憧れが込められており、アルバム全体を締めくくるにふさわしい壮大なフィナーレを提供している。エモーショナルなクライマックスが感動的で、余韻を残す。
アルバム総評
『Intimacy』は、Bloc Partyがこれまでのギター中心のロックサウンドからエレクトロニカや実験的な要素を大胆に取り入れ、音楽的な冒険を示した作品だ。テーマとしては、親密さや感情の葛藤、裏切り、欲望など、人間関係の複雑さを深く掘り下げており、Kele Okerekeの感情豊かなボーカルと挑戦的なサウンドがアルバム全体を貫いている。エレクトロニックとロックのバランスが絶妙で、リスナーに緊張感と深い感情的なインパクトを与える作品となっている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- 『In Rainbows』 by Radiohead
エレクトロニックとギターサウンドの融合が特徴のアルバムで、感情の深みと実験的なアプローチがBloc Partyの『Intimacy』と共鳴する。 - 『An End Has a Start』 by Editors
ポストパンクとエレクトロニックを組み合わせたサウンドで、ダークな雰囲気と感情的な歌詞がBloc Partyのアルバムと共通する。 - 『Silent Shout』 by The Knife
エレクトロニックを大胆に取り入れたアルバムで、ダークで重厚なサウンドが『Intimacy』のエレクトロニックな側面と響き合う。 - 『Third』 by Portishead
トリップホップと実験的なロックが融合した一枚で、感情的な深みと暗い雰囲気が共通点を持つ。 - 『Myths of the Near Future』 by Klaxons
エレクトロニックとロックを融合させた作品で、Bloc Partyの実験的なサウンドアプローチを好むリスナーにおすすめの一枚。
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