発売日: 2010年5月21日
ジャンル: サイケデリックロック、インディーロック、スペースロック
オーストラリアのサイケデリックロックバンドTame Impalaのデビューアルバム「Innerspeaker」は、フロントマンのケヴィン・パーカーが全楽器を演奏し、プロデュースも担当した驚くべき作品だ。彼の音楽的な影響には、60〜70年代のサイケデリックロックやスペースロックが色濃く感じられ、特にビートルズやピンク・フロイド、レッド・ツェッペリンなどへの敬意が随所に表れている。パーカーのエコーがかかったドリーミーなボーカルと、サイケデリックなエフェクトが施されたギター、そして反響するリズムセクションが、アルバム全体に夢幻的で広がりのある音の世界を構築している。
アルバムのテーマは、孤独や内省、自己探求といったものが中心で、音楽を通じて聴き手を自身の内面の旅へと誘う。彼のサウンドメイキングは斬新でありながらも、どこか懐かしさを感じさせ、「Innerspeaker」は現代のサイケデリックロックの金字塔として語り継がれている。聴き手を音の渦に巻き込み、まるで広大な宇宙を漂っているような感覚を味わわせてくれる一枚だ。
各曲解説
1. It Is Not Meant to Be
アルバムのオープニングを飾るこの曲は、ドリーミーなギターリフとエコーがかったボーカルが特徴。歌詞には、理想と現実のギャップや恋愛のもどかしさが込められており、甘く切ないメロディとともに浮遊感のある音像が広がっていく。
2. Desire Be Desire Go
エネルギッシュでリズミカルなビートが印象的な「Desire Be Desire Go」は、ギターのリフとビートの変化が織りなす躍動感が特徴的だ。パーカーのボーカルがリズムに溶け込み、サイケデリックなエフェクトがさらなるスリルを加えている。
3. Alter Ego
サイケデリックなシンセサウンドと繰り返されるギターフレーズが絡み合う幻想的な楽曲。内なる自分との対話をテーマにしており、リスナーを夢のような空間へと導く。特に、ビートの緩急が生み出す浮遊感が圧巻。
4. Lucidity
アルバムの中でも最も勢いがあるロックナンバーで、ライブでも定番の一曲。歪んだギターと強烈なビートが際立ち、パーカーのサイケデリックな世界観をより直感的に体験できる。シンプルながらも心地よい高揚感をもたらす。
5. Why Won’t You Make Up Your Mind?
繰り返されるギターリフとドラムビートが催眠的な雰囲気を作り出す楽曲で、パーカーの柔らかなボーカルが漂うように響く。自己探求と葛藤を歌った歌詞が印象的で、サウンドと一体化した没入感が味わえる。
6. Solitude Is Bliss
「孤独は至福である」と歌うこの曲は、Tame Impalaの人気曲のひとつ。パーカーが持つ孤独や自己肯定感がポップで軽快なサウンドと融合し、聴きやすさと深みが同居している。ギターとベースが生むグルーヴがとても心地よい。
7. Jeremy’s Storm
インストゥルメンタル曲で、エフェクトを駆使したギターとドラムが嵐のように展開する。メロディが次第に変化していく様子がサイケデリックで、まるで嵐の中をさまようようなダイナミックな一曲だ。
8. Expectation
爽快なギターフレーズとビートが特徴的で、開放感のあるサウンドが広がる。アルバムの中でも特に明るいトーンを持つ楽曲で、エネルギッシュでありながらどこか切なさも感じさせるメロディが印象的だ。
9. The Bold Arrow of Time
ブルージーなギターリフが際立つ、クラシックロックの影響が感じられるナンバー。70年代ロックへのオマージュを感じさせる一方で、サイケデリックなエフェクトが新鮮さを加え、懐かしさと革新性が同居している。
10. Runway, Houses, City, Clouds
7分を超える長尺曲で、アルバム内でも特にプログレッシブな構成が特徴。サウンドが次第に変化し、パーカーのボーカルが心地よく響く。まるで旅をしているような流れる構成が、聴く者を未知の空間へと連れ出す。
11. I Don’t Really Mind
アルバムのラストを飾る「I Don’t Really Mind」は、穏やかでリラックスしたメロディが特徴的。優しいギターサウンドが、まるでアルバム全体を優しく包み込むような温かさを持ち、心地よい余韻を残して終わる。
アルバム総評
「Innerspeaker」は、Tame Impalaが現代のサイケデリックロックを再定義し、ケヴィン・パーカーの音楽的ビジョンが存分に発揮された傑作だ。内面への探求をテーマにしつつ、パーカー独自のサウンドメイキングと比類なきセンスが見事に融合している。エフェクトを多用したギターとエコーの効いたボーカルが、夢のような音響空間を作り出し、リスナーを心の旅へと誘う。60〜70年代のサイケデリックロックの影響を受けながらも、現代的な感覚で仕上げられた「Innerspeaker」は、時代を超えて愛される一枚としてその地位を確立している。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Lonerism by Tame Impala
パーカーの音楽性がさらに進化し、より複雑で深みのあるサウンドが特徴。内省的なテーマも引き継がれている。
The Dark Side of the Moon by Pink Floyd
サイケデリックロックの名盤で、幻想的なサウンドスケープが共通しており、深い内面の探求が感じられる。
Currents by Tame Impala
エレクトロニカとサイケデリックの融合が特徴で、Tame Impalaのサウンドの変遷を楽しめる作品。
Are You Experienced by The Jimi Hendrix Experience
ギターエフェクトとサイケデリックな要素がふんだんに使われた名盤で、「Innerspeaker」に通じる革新性がある。
Yoshimi Battles the Pink Robots by The Flaming Lips
サイケデリックなエレクトロニカとロックが融合した作品で、Tame Impalaのファンにも響く幻想的な世界観が広がる。
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